研究課題/領域番号 |
22K06925
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49010:病態医化学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
尾上 耕一 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (70796523)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | intronic polyadenylation / 転写サイクル / RNA分解 / がんトランスクリプトーム / ヒストン修飾 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、がん細胞で蓄積し、異常なタンパク質の産生の原因となる未成熟転写終結型RNA (ptRNA)のライフサイクルについて、転写による産生、プロセッシング、翻訳、分解まで制御ポイントを細かく分けて詳細に分析する。さらに、大規模データベースを利用したがん種横断的な解析によって、ptRNA発現上昇のリスク因子を探索する。本研究でがんにおけるptRNA発現の脱制御の理解が進めば、がん治療標的のシーズ導出につながることが期待される。
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研究実績の概要 |
本年度は、公的データベースに登録されている様々な遺伝子のノックダウン・ノックアウト条件におけるRNA-seq1,110例と、がんデータベースTCGAのRNA-seqの解析を行った。TCGAデータについては、同一患者で原発がん組織と隣接正常組織の両方のデータがある22がん種・719症例を対象とした。 【ノックダウン・ノックアウトデータの分析】ptRNA制御との関連が疑われる因子を新たに複数同定することができた。その中には、がん治療の標的として阻害剤の開発が進められているものも含まれていた。得られた候補遺伝子のうち、特にがんと関連するものについては、培養細胞における実験的な検証の準備と予備検討に着手した。ユビキチンリガーゼosTIR1の安定発現細胞株を作出した後、候補遺伝子のコード領域にAIDタグを挿入した細胞株を樹立した。これらの細胞において、オーキシンの投与によって目的の遺伝子を特異的かつ迅速にノックダウンできることを確認済みである。また、同細胞株を用いた次世代シーケンスによるptRNA解析の実験系検討も概ね完了した。 【がんトランスクリプトームデータの分析】全ての症例に関して、ptRNAの同定と定量を完了した。その結果をt-SNEにより分析した結果、ptRNAの発現パターンで症例を複数のクラスターに分けられるがん種が複数存在することを見出した。それらのうち一部は、ptRNA発現が上昇傾向にある群と低下傾向にある群に明確に分かれていた。そのさらに一部のがん種では、ptRNA発現上昇群は低下群と比べ(i)予後が有意に悪く、(ii)エピジェネティクス関連の遺伝子の発現が有意に低いことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ptRNA発現の新規リスク因子の候補の選定、その関与を実証するための実験系の構築と予備検討を完了できた。がんをptRNA発現パターンによって複数のクラスターに分類できたことは、ptRNAという切り口からがんの多様性を理解する上での大きな収穫であった。さらに、一般的にがんではptRNAの発現が上昇傾向にあると考えられてきたため、一部の癌種でptRNA発現の上昇群だけでなく低下群が得られたことは予想外のことであり、本研究の開始時には見通せないことであった。しかしながら、それらの群の比較解析により少なくとも一部のがん腫ではptRNA発現と予後との関連、さらには有意に発現変動している遺伝子の解明まで進めることができた。特に、エピジェネティクス因子の発現レベルの違いは転写サイクルの各ステップの効率に影響し得ることから、ptRNA産生に直接的に寄与しうる点で興味深い。この点についても、コンピューターによるより詳細な解析が完了し次第、実証実験を開始する予定である。また、現時点では準備段階であるが、がん細胞株におけるptRNAの翻訳・分解メカニズムの解析系も概ね準備が完了している。このシステムでは、各種RNA代謝経路で働く主要な遺伝子のコンディショナルノックダウンが可能であり、各経路の寄与率、階層性、相互互換性などについて詳細に調べることができる。以上のように、データの取得状況、および次年度以降の実験の準備状況ともに順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
1)ptRNA制御の候補遺伝子を、オーキシンデグロン法によりノックダウンしたときのptRNAライフサイクル(転写~分解)の変化を各種次世代シーケンス技術(4SU-seq, 3P-seqなど)により詳細に分析する。ノックダウンによって変動したptRNAに関して、オントロジー解析や、遺伝子構造的・配列的特徴など、多面的に解析することで、ptRNA制御を決定づける要因を抽出する。また、一部の候補遺伝子については阻害剤も開発が進められていることから、阻害剤で処理したときの変化も同様に調べる予定である。 2)t-SNE分析により得られた各クラスターのそれぞれについて、何か共通した遺伝子発現の変動・変異や治療歴を含む様々な臨床的特徴との関連があるかについて分析する。エピジェネティクス関連遺伝子の発現低下と予後の悪化が癌種横断的に見られた場合は、その実証のための実験系の準備を開始する予定である。また、正常組織データを含まない症例のデータを原発性、転移性、再発性を問わず解析し、ptRNA発現によるがんの分類が可能か検討する。 3)ptRNAの翻訳・分解メカニズムについて、各種RNA代謝経路で働く遺伝子を様々な組み合わせでノックダウンし、次世代シーケンスによる解析を行う。この実験では、それぞれの経路の寄与度の違い、および階層性や相互互換性などを解明するとともに、分解経路の選択と関連するptRNAの特徴の抽出を目指す。
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