研究課題/領域番号 |
22K07017
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49030:実験病理学関連
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研究機関 | 東洋大学 (2023) 北海道大学 (2022) |
研究代表者 |
北村 秀光 東洋大学, 理工学部, 教授 (40360531)
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研究分担者 |
武冨 紹信 北海道大学, 医学研究院, 教授 (70363364)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 神経ペプチド受容体 / ニューロキニンA / 肝がん / CD8陽性T細胞 / I型IFN / IFN-γ / STAT1 / 神経ペプチド / 大腸がん / 樹状細胞 / JAK1/2 / NK2R / 転移 / 腫瘍免疫 |
研究開始時の研究の概要 |
がんの再発と転移の制御は効果的ながん治療の実施にとって重要である。本研究では、神経ペプチドの一つニューロキニンA(NKA)とその受容体(NK2R)に着目し、消化器がんの再発・転移マウスモデルおよびヒト臨床検体を使用してNKA-NK2Rの発現誘導を伴い、がんの再発・転移の起点となる炎症・免疫細胞の機能解析を行うとともに、腫瘍微小環境においてNKA-NK2Rを介した神経ペプチドシグナルやその下流・関連分子を介した新たながん細胞の再発・転移制御メカニズムを解明することで、画期的ながん治療法の確立に資する科学的エビデンスを獲得する。
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研究実績の概要 |
抗腫瘍免疫エフェクター細胞の腫瘍組織への導入は効果的ながん治療法の確立にとって重要である。これまで担がんマウスモデルに対する自然免疫アジュバントpoly I:Cの投与によりSTAT1が活性化するとともに、腫瘍形成が著しく抑制されることを見出した。本研究では、肝がんマウスモデルを作成し、担がん生体内におけるSTAT1の活性化を介した抗腫瘍エフェクターの誘導メカニズムを検討した。マウス肝がんHepa1-6細胞を野生型C57BL/6マウスの脾臓内に移植し、肝臓にて腫瘍を形成する肝がんモデルに対してpolyI:Cを投与したところ、脾臓細胞におけるIFN-α/βおよびIFN-γの産生レベルが増強されるとともに、腫瘍形成が著しく抑制された。また、polyI:C投与による抗腫瘍効果は、STAT1欠損マウスや野生型マウスに抗CD8抗体を投与することにより抑制された。野生型マウスおよびSTAT1欠損マウスの脾臓細胞よりCD8陽性T細胞を単離し、IFN-γで刺激を加えたところ、STAT1依存的に神経ペプチドニューロキニンA(NKA)の受容体NK2Rが発現誘導された。さらに単離したCD8陽性T細胞において、CD3/CD28刺激によるIFN-γの産生誘導が、NKAを添加することにより増強すること、NK2Rを欠損したCD8陽性T細胞に対してCD3/CD28刺激を行った結果、IFN-γおよびGranzyme Bの産生誘導レベルが低下することを確認した。最後にNK2R欠損マウスを使用した肝がんモデルにおいて、腫瘍形成が亢進するとともにT細胞の腫瘍内浸潤が抑制されること、polyI:C投与による抗腫瘍効果が減弱することを見出した。 以上の結果から、担がん生体内におけるIFN-STAT1の活性化は、CD8陽性T細胞における神経ペプチド受容体NK2Rの発現を亢進し、抗腫瘍エフェクター細胞の誘導に関与することが示唆された。従って、NK2Rを介した神経ペプチドシグナルの制御は、抗腫瘍免疫の導入における一つの方策として考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、当初の研究計画の通り、大腸がんや肝がんなど消化器がんを対象としたマウス担がん生体モデルを構築し、がんの再発や転移能獲得などの悪性化や腫瘍微小環境における抗腫瘍エフェクター細胞の誘導におけるNK2Rを介した神経ペプチドシグナルの関与について検討が行われた。今年度、in vitro培養評価系により、CD8陽性T細胞におけるIFNを介したSTAT1の活性化依存的なNK2Rの発現誘導メカニズムが明らかになるとともに、NK2Rを介した神経ペプチドシグナルが、抗腫瘍エフェクターT細胞の活性化に寄与することも確認された。またマウス肝がんモデル腫瘍微小環境において、poly I:Cの投与によるIFN産生を介したSTAT1依存的な高腫瘍効果に加え、樹状細胞やCD8陽性T細胞の腫瘍微小環境への集積にNK2Rが関与することも明らかとなった。従って、今後、CD8陽性T細胞におけるNK2Rを介した神経ペプチドシグナルの制御による抗腫瘍エフェクター細胞の腫瘍微小環境への効果的な導入が期待される。 以上の研究成果より、本研究は当初の予定通り、効果的ながん免疫治療の確立に資する非常に有望な結果、科学的エビデンスが得られていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
大腸がんや肝がんなど消化器がんを対象としたマウス担がんモデルおよびヒト臨床検体を使用して得られた基盤的研究成果をもとに、今後、腫瘍微小環境においてIFN-STAT1を介した神経ペプチドシグナルの活性化メカニズムやその下流・関連分子の探索と同定を行う。また、神経ペプチドシグナルの下流関連因子に対する阻害剤、中和抗体をマウス担がんモデルに投与し、その抗腫瘍効果を確認する。本研究で得られたデータを精査し、新たな抗腫瘍エフェクター細胞の効果的な導入法の確率、がん細胞の再発・転移制御メカニズムを解明する。 また神経ペプチドシグナルの制御によるがん治療の確立を目指し、大腸がんや肝がんなどの消化器がん患者の末梢血および腫瘍組織サンプルを使用し、血清NKA、サイトカイン、炎症マーカーの測定と、腫瘍組織における各種炎症・免疫細胞の浸潤と神経ペプチドシグナル関連因子、さらに下流・関連候補因子の発現を検証する。さらに、病理組織診断、フローサイトメトリー、免疫組織化学染色の結果を精査し、候補標的分子の発現レベルと腫瘍組織の病理学的悪性度や生命予後との関連を確認することで、より有効ながん治療法の確立に資する科学的エビデンスを蓄積する。
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