研究課題/領域番号 |
22K07024
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49030:実験病理学関連
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
常山 幸一 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 教授 (10293341)
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研究分担者 |
清水 真祐子 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 講師 (20759021)
井之上 浩一 立命館大学, 薬学部, 教授 (30339519)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD) / 脳由来神経栄養因子(BDNF) / 酸化ストレス / 脳腸肝相関 / BDNF / 非アルコール性脂肪性肝疾患 / うつ病 / 動物モデル / 短鎖脂肪酸 |
研究開始時の研究の概要 |
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の発症機序は複雑かつ多様であり、治療研究推進の大きな障壁となっている。申請者らは、脳由来神経栄養因子(BDNF)が減少したうつ病モデルマウスが、肥満やインスリン抵抗性を背景として高度の脂肪肝炎を発症することを見出した。全身疾患の肝表現型であるNAFLDを捉えるには、全身臓器の連関を包括的に解析する新たな手法が求められる。本研究では異なる機序に起因するうつ病モデルとNAFLDモデルを用いて、肝病変発症・進展におけるBDNFの役割を「脳」⇔「肝」⇔「腸」を関連づけて多角的に解析し「肝臓以外の臓器から肝疾患の本質を追求する」ための新たな解析手法の確立を目指す。
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研究実績の概要 |
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は世界中で増加の一途にある難治性進行性疾患である。脳由来神経栄養因子(BDNF)は、もともと脳の神経細胞の生存、分化、シナプス可塑性を促進する成長因子として発見されたが、研究代表者らはBDNFが減少したうつ病モデルマウスが、肥満やインスリン抵抗性といった代謝障害を背景として高度のNAFLDを発症することに気づいた。2022年度はBDNFのNAFLD発症進展への関与を明らかにするため、動物モデルを用いた解析を行った。雄のBDNFヘテロノックアウトマウス(BDNF+/-)とコントロールマウス(BDNF+/+)を普通食で集団飼育し、10ヶ月齢で全身の臓器を病理組織学的に解析した。肝臓の組織学的所見は、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)Clinical Research Network Scoring Systemを使用してスコア化した。また、肝組織を用いてRNA-seq解析や免疫染色による病態解析を実施した。その結果、BDNF+/-マウスは、肥満や高血糖、高インスリン血症を示し、肝臓ではNASH患者同様にZone 3有意の脂肪変性、好中球浸潤を伴う小葉炎、バルーン化した肝細胞の出現、線維化を惹起したが、心、腎、腸、肺、膵、脾には目立った所見はなかった。内臓脂肪では、変性脂肪細胞がマクロファージに囲まれ、慢性炎症が生じていた。RNA-seqによる遺伝子発現解析では、チトクロームP450ファミリーの発現変化や抗酸化酵素であるグルタチオンSトランスフェラーゼpの減少から、BDNF+/-マウスが酸化ストレス下にあることが示された。本研究により、BDNFの発現低下が、NASHの典型的な病態形成につながることが示された。現在、BDNFプロセッシング不全マウスの検討と併せて、BDNFが介在する脳と肝臓のつながりに腸がどのように介在するかを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BDNFヘテロノックアウトマウス(BDNF+/-)がヒトNAFLD患者の肝臓病理学的所見と合致する肝病変を惹起することを明らかにし、RNAseq解析によって酸化ストレスの関与を明らかにした。また、BDNF+/-マウスが過食傾向にあることから、摂食制限を実施し、NAFLD様の肝病変が減弱するものの、依然として病変の一部が残存していることを見出した。このことから、BDNFの欠如が過食を介するのみならず、直接的にもNAFLD病態形成に関与している可能性が示された。ここまでの結果を、欧文誌に投稿し、現在revise状態にある。並行して、異なる機序でBDNFの機能が制限されるBDNFプロセッシング不全マウスを用いた検討をすすめており、BDNF+/-マウスとほぼ同様の肝組織像を呈することを確認し、現在遺伝的解析をすすめている。また、これらのマウスはすべて腸内細菌叢の解析用に糞便と血清を採取、冷凍保存しており、腸管組織も採取してホルマリン固定標本を作成している。現在、これらの試料を用いて、腸内細菌叢の解析と短鎖脂肪酸の解析を含むメタボロミクス解析、腸管の透過性解析や免疫組織学的解析を進めている。以上により、概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
現在、BDNFプロセッシング不全マウスを用いて病理組織学的検討をすすめており、BDNF+/-マウスとの病態比較を行うことで、BDNFの末梢組織(肝・腸、その他)への関与を明らかにする。さらに、R5年度はNAFLDモデルマウスを用いて、BDNFの関与をより詳細に明らかにする。当初の計画では独自に開発した餌(iHFC食)によるNAFLD誘導モデルマウスを用いる予定であったが、解析を進める過程で、グルタミン酸ナトリウムを生後すぐに皮下投与して作成するMSGマウスの病態がBDNF+/-マウスの病態と非常に類似していることに気づいた。予備実験で確認したところ、MSGマウスはNAFLDを呈するのみならず、膵臓のランゲルハンス島におけるBDNFの発現パターンが対照マウスと大きく異なることがわかった。今後は、iHFC食誘導NAFLDモデルの検索に、MSGマウスを加えて、BDNFを基軸とした病態機序の解明を試みる。
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