研究課題/領域番号 |
22K07047
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49040:寄生虫学関連
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研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
二瓶 浩一 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 研究員 (40373344)
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研究分担者 |
飯島 正富 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所 沼津支所, 研究員 (10184342)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 原虫 / 抗原虫剤 / 小胞体 / 分泌 / カーゴレセプター / 選別 / UPR / Sar1 / ペプチド誘導体 / 分泌経路 / 分子標的 |
研究開始時の研究の概要 |
MCFは,トキソプラズマや他の原虫に優れた抗原虫作用を示す環状構造のジペプチドである.申請者は,MCFの創薬研究から、原虫側の小胞体で選別輸送を制御するSar1 GTPaseホモログを介するシステムがMCFの有効な標的の一つであること,MCFにより原虫のUPRの亢進作用を示すことを突き止めている.一方,原虫は,他の真核生物で保存されるUPRで働くストレスセンサーが欠損し、その応答機構と活性型Sar1へのスイッチ機構についても謎である.即ち原虫は,宿主生物と顕著に異なる独自の小胞体機能システムを所持している.従って,原虫小胞体を含む分泌経路の実体解明は、原虫創薬の新たな発展に繋がると期待できる.
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研究実績の概要 |
抗原虫剤メタサイトフィリン(MCF)は,申請者の研究グループで発見したトキソプラズマに優れた抗原虫作用を示す環状構造のジペプチドであり,他の原虫にも抗原虫活性を示す.その標的は,原虫の小胞体におけるSar1GTPaseを介する生命反応およびストレス応答であることをこれまでの我々の研究で確認している.本研究において、申請者はアピコンプレクサ類原虫のモデルとしてトキソプラズマ,キネトプラスト類原虫のモデルとしてアフリカトリパノソーマを用いて原虫のSar1を介する小胞体とゴルジ体間,即ち,初期分泌経路における原虫特異的な生命反応と抗原虫薬MCFの作用機序を明らかにし,新たな原虫創薬の分子基盤を構築することを目的とする. MCFの抗原虫作用の重要な標的の1つであるSar1は,真核生物において広く保存されており,小胞体-ゴルジ体間における小胞輸送を制御するGTPaseとして働くことがこれまでの研究で解明されている.原虫にもそのホモログが存在するものの,結合するヌクレオチドの制御システム等,未だ不明な部分が多い.申請者および他の研究グループの研究成果から小胞体におけるストレス応答(UPR)とSar1が制御する小胞輸送とが経路として繋がっていること,そこに分泌カーゴレセプターの1つp24ファミリー膜タンパク質が双方を仲介する役割を果たすことを明らかにしており,本研究立案の発端となっている.原虫において,UPRのストレスセンサーおよび活性型(GTP結合)のSar1を形成する因子の実体について分かっておらず,他の生物種と大きく異なる機構が存在することを示唆している.本研究によるMCFによる抗原虫作用の解明は,未だ分かっていない原虫独自の分泌機構の謎にせまり,新しい創薬の進展に繋がることが期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
他の生物種との共通する小胞体に局在化する従来のストレスセンサーを原虫は所持していない.申請者は,分泌カーゴレセプターのp24ファミリーがその代替えの役割を担うことを欠損株の表現型解析から発見している.T. brucei p24欠損原虫の表現型の一つとしてUPRマーカーの1つ小胞体分子シャペロンBiPが過剰発現すること,さらに,原虫の細胞外にBiPが過剰分泌されることを見出している.本年度は,その原因について分子および細胞レベルで解析を進めた.BiPの過剰発現と細胞外への異常分泌の原因について,共焦点レーザー顕微鏡を用いてBiPカーゴレセプターのErd2とBiPの局在性について解析した.その結果,Erd2が野生株では核の周りに配置する小胞体に局在化するのに対し,p24欠損株では核の周辺ではなく,ネット状部分の小胞体に局在化すること発見した.BiPは,双方の株において核周辺からネット状に細胞内全体に分布する局在性を示した.従って,p24ファミリーがErd2とBiPとの間の局在性の維持に関わり,原虫UPRのストレスセンシングに関与することが示された. 一方,小胞体からゴルジ体への分泌に必要なSar1GTPaseの活性化に関与する因子が原虫では見つかっていない.T. gondiiに対するMCFの作用機序解析から,その分子標的としてSar1GTPaseとその活性化に関与する可能性のある因子を見出し,その機能性について酵母変異株を用いて解析した.その結果,機能的な原虫のSar1GEFを同定することに成功した.ただし,この因子はアピコンプレクサ門原虫のみに存在する.ToxoDBよりSar1GEFが生存に必須の因子であることも確認した.今回,酵母変異株を用いてSar1の活性化に必要なGEFの触媒領域を明らかにし,還元剤に対して感受性を示す特徴を持つことが分かった.
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今後の研究の推進方策 |
本研究は,1)原虫UPRにおけるストレスセンサーと感知システムの解析.2)原虫Sar1 GTPaseの活性化システムの解析.3)上記1と2を指標とした薬剤探索における分子基盤の構築実施する,という3つのテーマを進め,課題の解決をすることを目的としている,3)についてはまだ着手できる段階ではないが,1)と2)については順調に推移している.以下に今後の推進事項を示す. UPRマーカーであるBiPレセプターのErd2は,動物細胞ではゴルジ体,酵母ではBiPと同様に核の周辺からネット状に細胞膜の裏打ちに至る小胞体に局在化することが知られ,生物種によって異なるようである.T. bruceiの小胞体の構造は,ごく核のエンベロープに近い部分からそれを覆う様に存在するperinuclear ER,カーゴの出口部位,ネット状に細胞膜の裏打ちに至るcortical ER,細胞外の長い鞭毛の接触部分,ミトコンドリアとの繋がっている部分など存在する.今後は,T. bruceiのp24欠損株におけるErd2の局在性を小胞体以外の核,ミトコンドリア,エンドソーム系,オートファジー関連因子など様々なマーカーを用いて詳細を解析するのと共に,原虫UPRと小胞体選別との関係を分子レベルで解析を行う予定である. 原虫のSar1GEFは,酵母由来と同様にII型膜タンパク質で小胞体内腔領域,膜貫通領域,細胞質領域に分けられるが,内腔領域のC末側にCysに富んだ配列領域,細胞質領域に小胞体局在化シグナルKDEL配列を持つ.この遺伝子は生存に必須であり,創薬の優れた分子標的となることも確認している.今後,精製タンパク質を用いた再構成系の構築を行う予定である.さらに,KDELを認識するレセプター候補が少なくとも2種類存在するようなので,その分子とSar1GEFとの相互作用についても解析を進める予定である.
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