研究課題/領域番号 |
22K07072
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49050:細菌学関連
|
研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
老沼 研一 大阪公立大学, 大学院医学研究科, 講師 (20635619)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
|
キーワード | 緑膿菌 / クオラムセンシング / アシルホモセリンラクトンレセプター / RhlR / QscR / 分子機能解析 |
研究開始時の研究の概要 |
日和見感染菌として重要な緑膿菌は、自身の病原性をクオラムセンシング(QS)と名付けられた細胞間情報伝達機構により制御している。本研究では、QSの発動を司るRhlRと抑制因子であるQscRが、いかにそのアクセルおよびブレーキとしての機能を発揮するかを、分子生物学的手法と生化学的手法により明らかにする。これにより、緑膿菌QSの理解を大きく前進させ、病原性抑制薬の開発に繋げることを目指す。
|
研究実績の概要 |
本研究では、緑膿菌の病原性抑制薬の開発に向け、本菌のクオラムセンシング(QS)(細胞密度検知機構)においてアシルホモセリンラクトン(AHL)レセプターとして機能するRhlRとQscRの作用機序の解析に取り組んでいる。以下にそれぞれの課題に関する研究実績の概要を記述する。 1. RhlRの分子機能の解明 RhlRは、極度に不安定であり、容易に凝集して失活するという特性を持つ。本研究の目的は、活性を有し安定で単離精製が可能な変異型RhlRを取得し、分子機能を解析することである。令和4年度は、N末端付近のαヘリックス内に存在する疎水性アミノ酸残基(Gly5, Gly6, Leu9, Gly13, Pro20)を、それぞれ親水性のアミノ酸(リジンもしくはアスパラギン酸)に置換した変異RhlRの発現系を構築した。大腸菌宿主細胞内で発現させ、可溶性画分への蓄積量をSDS-PAGEで確認した結果、Gly6とLeu9のアスパラギン酸への置換は、それぞれにRhlRの可溶性を高める効果があることが確かめられた。 2. QscRの作用機序の解明に向けたPA1895-1897の機能解析 QscRはQSの発動を抑制する働きを示すが、その作用はQscRの直接の支配下にあるPA1895, PA1896, PA1897の3遺伝子(PA1895-1897)の働きを介して生じることが判明している。PA1895-1897の具体的機能は未解明であるが、本研究代表者は、これらがコードしているのはAHLを分解または修飾する酵素であると推察している。令和4年度は、緑膿菌の無細胞抽出液に、QscRやPA1895-1897に依存的なAHLの分解・修飾活性があることを確認した。さらに、当該活性因子の細胞内局在性の解析に取り組んだ結果、無細胞抽出液中の成分を超遠心分離により可溶性画分と膜画分に分離すると、活性が不可逆的に失われることが判明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RhlRの研究については、昨年度までの取り組みにより、N末端付近のαヘリックス内に存在するアミノ酸残基(特にGly6とLeu9)がRhlRの凝集しやすさに寄与していること、また、それらを親水性のアミノ酸残基に置換することにより、RhlRの安定性を改善できることが確認された。これはおおむね予想通りの結果であり、更なるアミノ酸置換の検討により、当初の計画通り、in vitroでの解析が可能な程度にまで、RhlRを安定化することができると期待される。 QscRの作用機序の解析では、緑膿菌の細胞に、QscRやPA1895-1897に依存的なAHLの分解・修飾活性があることを確認することができた。超遠心により活性が不可逆的に失われるという結果は想定外であったが、これは当該活性因子の特定の手掛かりになる重要な発見であると捉えている。本活性がPA1895-1897の直接的な働きによるものかは未確認であるが、いずれにせよ、この活性因子を特定することにより、PA1895-1897の作用機序の研究は大きく前進すると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
1. RhlRの分子機能の解明 令和5年度は、Gly6とLeu9を様々な可溶性アミノ酸種に置換すること、また、効果が見られた変異を組み合わせることなどにより、RhlRの更なる安定化を試みる。ところで、これまでの解析により、大腸菌で発現させたRhlRは一部が膜に結合した状態で存在していることが判明している。令和5年度はこの現象の意義や発生機序の研究にも重点的に取り組む予定である。令和6年度は、得られた変異RhlRのうち最も高い可溶性・安定性を示したものを用いて、分子機能解析(AHLや標的DNAとの解離定数の決定、AHL結合時・非結合時のRhlRの安定性、二量体形成能、DNA結合活性の比較・解析など)を実施する。これにより、RhlRの諸性質を明らかにし、論文として発表する。 2. QscRの作用機序の解明に向けたPA1895-1897の機能解析 令和5年度は、緑膿菌の無細胞抽出液中に確認されたAHLの分解・修飾活性因子の解析を進め、その正体の特定を試みる。令和6年度は、当初の計画通りPA1895-1897のそれぞれを、タグを付加して緑膿菌細胞内で発現後、精製単離する。これらPA1895-1897の発現産物をAHLに作用させ、反応産物をLC-MS/MS、NMR等により同定する。これらの実験により、PA1895-1897の分子機能を解明し、QscRによるQS抑制機序を明らかにする。
|