研究課題/領域番号 |
22K07077
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49050:細菌学関連
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
朝井 計 東京農業大学, 生命科学部, 教授 (70283934)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | セスキテルペン / 耐性菌 / 枯草菌 / 精油 / 細胞死 |
研究開始時の研究の概要 |
精油に含まれるセスキテルペンは細胞壁生合成の中枢であるlipid II中間体を阻害するだけでなく、DNA/RNA分解酵素が関与する細胞死も誘発する相加的な効果で抗菌作用を発揮することで耐性菌の出現を許さないことが示唆された。本研究は、多種多様な精油について同様の解析を実施し、安全性・経済性・有用性に優れた耐性菌の出現しにくい抗菌剤を探索するとともに、そのような抗菌活性に有効な細胞死誘発機構の解析を行うものである。
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研究実績の概要 |
枯草菌の増殖サイクルを指標にして、精油に含まれるセスキテルペンが細胞壁合成のlipid IIサイクルを阻害し溶菌作用を及ぼすこと、そしてその抗菌作用には耐性菌の出現が強く抑えられることが示唆されたため、その作用機構の詳細な解明を大きな目的とした。その達成に向けて、「応用性・汎用性の高いlipid IIサイクル阻害剤の探索」と、「セスキテルペン化合物が細胞死を誘発する機構の分子生物学的な詳細解析」を具体的な目標内容とした。 前者については、構造の異なるセスキテルペン化合物を含有する、いくつかの精油について抗菌活性を検定したところ、同様の活性をもつ精油をいくつか同定した。また、ヤシ油からとれる「カプリル酸グリセリル」という天然成分について、解析を実施した。「カプリル酸グリセリル」はセスキテルペン化合物とは全く構造が異なるにも関わらず、枯草菌細胞の生存に与える種々の影響が、両者について酷似していた。既知の多くの抗生物質のように、その作用の標的がタンパク質で、鍵と鍵穴のような構造を主体とした機構ではないことが考えられる。このことと、耐性菌の出現抑制が関係していれば、新たな抗菌剤の開発につながる端緒となりうる。また、「カプリル酸グリセリル」は既に、化粧品等の防腐剤としても使用されている物質であるが、その抗菌作用については、詳細な分子生物学的解析は実施されていない。今回の解析によって、その使用範囲、応用範囲を広げられる可能性がある。 一方、後者について、セスキテルペンが、lipid IIサイクル阻害だけでなく、細胞死も誘発することで耐性菌の出現を抑制する機構が考えられた。細胞死に関わる機構を枯草菌は複数有しており、現在それらの機構についても合わせて解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要でも述べたように、2つの小課題を目的としたが、1つ目の課題については、様々な化合物、特にセスキテルペン化合物を含む精油を購入、収集し抗菌活性を試したところ、予想に反して、構造が異なるセスキテルペン化合物でも、同様の抗菌活性を持つという興味深い知見を得ることができ、一定の研究の進展がみられている。しかし、2つ目の課題についてやや実施が遅れているため、「(3)やや遅れている」の評価とした。その原因としては、細胞壁合成の重要中間体であり、セスキテルペン化合物の作用の標的と考えられる「lipidII」は、試験管内での合成や細胞からの精製が困難で、市販品も大変高価で、物質そのものを入手することが難しいことが挙げられる。このことは当初からわかっていたが、実際、構造の異なる様々な化合物が、同様の抗菌活性を示したことから、それらの化合物が直接「lipidII」に結合するか否かを試験管内で検証することが、重要な課題となった。従ってこのことを解決するために、まずは「lipidII」の合成経路を操作するような遺伝学的手法により、「lipidII」に対するセスキテルペン化合物の作用機序を解析することが重要と考え、実験手法の微修正を計画している。一方で、抗菌作用の一端と考えている、細胞死の誘発については、大腸菌などのグラム陰性細菌での解析例が多く、枯草菌のようなグラム陽性細菌については知見が少なく、まずは、その情報収集が必要となった。国内の細菌細胞死研究の一人者と共同研究する状況にあるので、今後解析を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1)「カプリル酸グリセリル」が精油中の「セスキテルペン化合物」と同様の抗菌活性を示したことから、「カプリル酸グリセリル」のどの分子構造が抗菌活性に必要かを検討する。「カプリル酸グリセリル」はカプリル酸とグリセロールがエステル結合した化合物である。側鎖として結合している脂肪酸の炭素数や、脂肪酸とグリセロールの結合様式(エステル結合かエーテル結合か)が抗菌活性に与える影響を解析する。 2)「lipidII」の基盤となる化合物ウンデカプレノール2リン酸(UPP)の合成系を遺伝学的手法により操作する。UPPの出発化合物イソプレン(IPP)の生合成経路を、枯草菌の有する非メバロン酸経路に加えて、メバロン酸経路も導入しIPPの増幅を試みる。ファルネシル2リン酸(FPP)に8個のIPPを付加し、UPP合成を触媒するUPP合成酵素(UppS)の発現を変化させる。具体的にはuppS遺伝子のプロモーターを誘導物質添加によりオンオフ可能なプロモーターに置き換え、条件に応じた転写制御系を導入したり、マルチコピープラスミド等により、uppS遺伝子を複数コピー細胞内に導入することで、過剰発現させたりする。これらの実験系を通じて、細胞内のUPP量の増減変化を試み、セスキテルペン化合物に対する感受性の変化を観察する。 3)PnpAやXseABが関与する細菌の細胞死の分子機構を解析する。特に、PnpAは、toxin-antitoxinの一種、toxin膜蛋白質とその発現を抑制するantitoxinアンチセンスRNA系の発現を制御している可能性がある。枯草菌にはこれ以外にも同種のtoxin-antitoxin系の存在が示唆されているので、同じ影響があるか解析する。
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