研究課題/領域番号 |
22K07078
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49050:細菌学関連
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
吉川 悠子 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 准教授 (00580523)
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研究分担者 |
三好 規之 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 准教授 (70438191)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | コリバクチン / 大腸菌 / 腸内細菌 / 腸内環境 / 大腸発がん / 遺伝毒性 / 腸管 / 定着 / 炎症 |
研究開始時の研究の概要 |
日本人の大腸がん罹患率の増加は著しいが、大腸がんの効果的な予防戦略は未だ確立されていない。日本においても、大腸がん患者の糞便におけるコリバクチン産生遺伝子の検出率が海外と同レベルであることや腫瘍組織へのコリバクチン産生大腸菌の集積から、大腸発がんへのコリバクチンの関与が想定される。それゆえ、本研究にてコリバクチン産生大腸菌が大腸粘膜に定着しやすい条件を描写できれば、胃がん予防におけるヘリコバクター・ピロリのように、コリバクチン産生大腸菌は精度の高い大腸がんリスクマーカーとなり、優れた大腸がんの一次予防策確立への展開が期待される。
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研究実績の概要 |
宿主DNAの二本鎖切断を誘導する遺伝毒性作用を示すコリバクチンは、全長約55 kbの遺伝子クラスターを保有する腸内細菌科に属する細菌から産生される低分子化合物である。コリバクチンの作用を受けた宿主細胞では、細胞周期の停止と大きさの拡大に代表される細胞老化の形態的な変化が観察される。この現象が生じる条件として、コリバクチン産生菌と宿主細胞との接触が必要であることが報告されており、さらに、これまでの我々の研究成果から、大腸がん患者の腫瘍組織において、溶血性コリバクチン産生大腸菌の優占化が起きていることが分かっている。一方、健常な成人の糞便からコリバクチン産生大腸菌が分離されても、その後の定期的な糞便検査では、コリバクチン産生遺伝子が全く検出されなくなるケースがあることや、炎症状態にある腸管内では、腸内細菌叢における大腸菌の割合が著しく増加することから、大腸発がんにおけるコリバクチン産生大腸菌の関与について、菌の腸管粘膜上皮への定着と炎症惹起に関する機構の解明が第一義的な解決課題であると判断した。そこで、まず本年度は、これまでに分離しているヒトまたはウシ由来のコリバクチン産生大腸菌を用いて、細菌の宿主細胞への重要な付着因子である線毛を中心とした病原性因子の遺伝子の保有状況を調べ、ヒト由来株の保有パターンについての特徴づけを試みた。その結果、ヒト由来株とウシ由来株ではパターンは大きく異なること、また、ヒト由来株は、検出対象とした16遺伝子中3遺伝子を共通して保有していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、大腸がん患者で見られるようなコリバクチン産生大腸菌の腸管粘膜上の局所における優占性の解明を目指している。菌から分泌されたコリバクチンがその活性を消失させずに宿主DNAへ到達するには、菌と細胞との直接接触が必要とされる。これまでに我々がヒト糞便や腸管組織などから分離したコリバクチン産生大腸菌株はすべて、系統発生群B2に属する株であった。この系統発生群B2には、腸内細菌叢を構成する大腸菌だけでなく、尿路病原性大腸菌も分類される。大腸菌が発現する線毛として、尿路病原性大腸菌が有するPap線毛に代表されるP線毛やMS線毛、M線毛など、数多くの種類が知られている。そこで、コリバクチン産生大腸菌が有する線毛などの付着因子が菌の大腸粘膜への定着に最も寄与していると予想し、本年度は、それらの発現状況を中心に解析を行った。ヒト大腸がん患者大腸組織由来株および比較対象として、ウシ糞便由来株の線毛構成タンパク質の遺伝子の保有状況を調査した結果、保有パターンがヒト由来株とウシ由来株で大きく異なっており、ヒト由来株ではI型線毛の先端に存在する付着因子FimHやPap線毛の構成タンパク質群の遺伝子保有率が高く、尿路病原性大腸菌に類似した線毛を発現可能であることが判明した。特に、大腸腫瘍組織から分離されたヒト由来株の多くで、尿路病原性大腸菌が高頻度で保有する組織障害性因子へモリジンも保有していることから、ヒト由来コリバクチン産生大腸菌は尿路病原性大腸菌と似た性質を示す可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、コリバクチン産生大腸菌自体が腸管粘膜上皮細胞へ惹起させる炎症の程度および腸内細菌の代謝物などにより調節される宿主の腸内環境の解析を通して、コリバクチン産生大腸菌の宿主腸管粘膜への定着について解明し、大腸がんの予防・制御に貢献することを最終目標としている。本年度は、まず、コリバクチン産生大腸菌の宿主大腸粘膜への定着に関与する候補因子の捕捉に着手し、細菌の付着因子の一つである線毛の発現パターンから、ヒト由来株はウシ由来株よりも尿路病原性大腸菌と似た性質を示す可能性が示唆された。特に、尿路病原性大腸菌のI型線毛は、膀胱の移行上皮細胞内への侵入に重要な役割を果たしていることから、コリバクチン産生大腸菌もまた、ヒトの腸管粘膜上皮細胞内へ侵入している可能性も考えられる。加えて、現時点までに、我々が分離したヒト由来コリバクチン産生大腸菌株では、尿路病原性大腸菌が高頻度で保有しているAfa線毛を持つ株がみられないことや、コリバクチン産生大腸菌と尿路病原性大腸菌では、標的とする宿主細胞の性質がかなり異なることから、次年度も培養細胞を用いてコリバクチン産生大腸菌の細胞への接着や侵入、炎症誘導能力を詳細に評価する予定である。 また、これまでに予備的なマウスへのコリバクチン産生大腸菌の経口投与試験を行ったところ、大腸粘膜組織においてDNA二本鎖切断のマーカーであるリン酸化ヒストンH2AX(γ-H2AX)の増加を検出している。この感染条件をもとに、今後、生体におけるコリバクチンの遺伝毒性作用やコリバクチン産生大腸菌の優占化による腸内環境への影響の評価を行う予定である。
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