研究課題/領域番号 |
22K07098
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49060:ウイルス学関連
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
田中 智久 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (30585310)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | SARS-CoV-2 / COVID-19 / レプリコン / スクリーニング / 抗ウイルス薬 / ゲノム複製 / 病原性発現 |
研究開始時の研究の概要 |
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染対策として最も効果的と考えられる手段は新型コロナワクチンだが、基礎疾患や副反応の問題、デルタ株やオミクロン株といった変異株の出現が続くことから、ワクチン一本やりの対策には限度があるといえる。SARS-CoV-2のゲノム複製メカニズムを解析し、その知見に基づいた新たなウイルス治療薬を開発/拡充することが早急に求められるといえる。本研究では、SARS-CoV-2の研究ツールの一つであるレプリコン細胞モデルにさらなる改良を施し、複製メカニズム研究に適した細胞モデルを開発する。また、新たな治療薬候補となるような化合物の探索を行う。
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研究実績の概要 |
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は5類感染症に移行したが、現在も一定数の患者を出し続けている。新たな変異株の出現が続く中、薬剤耐性株の出現リスクや、新たな新型コロナウイルスの出現に備え、SARS-CoV-2の複製メカニズムに基づいた新たな抗ウイルス薬開発の継続は重要と考えられる。これまで、研究代表者らは、BSL2レベルでのウイルス複製阻害薬のスクリーニングに適した細胞モデルとして、SARS-CoV-2レプリコン発現系を開発した。しかしながら、同レプリコンは細胞傷害性が強いため、限られた細胞株でしかレプリコン安定発現細胞の樹立が出来ないという問題があった。そこで本研究課題では、SARS-CoV-2複製による細胞傷害メカニズムを解明し、非細胞傷害性レプリコン発現モデルの開発と、それを用いたウイルス複製の解析系およびスクリーニング系を確立することを目的とした。ここまでの取り組みとして、SARS-CoV-2の細胞傷害メカニズムに関する知見に基づき、非構造タンパク質nsp1の機能を消失させた変異型レプリコンを作製し、レプリコンの発現下での細胞傷害性や、薬剤スクリーニングモデルとしての有用性の評価を行った。また、nsp1変異型レプリコンの設計をベースとした迅速クローニング法を構築し、同レプリコンに新たな任意の変異を導入する方法を確立した。SARS-CoV-2流行株や、薬剤耐性株がもつ特徴的な変異を有するnsp1変異型レプリコンを作製したところ、一過性発現系において薬剤感受性や複製レベルの変動が見られた。本研究の変異型レプリコンモデルを応用し、SARS-CoV-2に広く適用可能なウイルス複製阻害薬のスクリーニングシステムを確立したいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SARS-CoV-2複製下での細胞傷害においてnsp1の役割を解析するため、野生型nsp1と、C-terminal domainの2か所をアラニンに置換した変異型nsp1の発現ベクターを作製した。細胞内レポーター遺伝子の発現レベルを比較したところ、野生型nsp1は翻訳阻害活性を示したのに対し、変異型nsp1は翻訳阻害を引き起こさなかった。Nsp1による細胞傷害のメカニズムを調べるため、nsp1発現により生じる細胞死をカウントしたところ、野生型nsp1発現細胞ではアポトーシスが亢進している傾向が見られた。また、nsp1はリボソームとの相互作用を介して宿主mRNAの翻訳を阻害することが分かっており、新規宿主遺伝子の発現抑制を介して細胞周期に影響する可能性がある、今後は、nsp1による細胞周期のかく乱が細胞傷害に関係している可能性を検討する。また、野生型SARS-CoV-2レプリコン発現ベクターのnsp1遺伝子に変異を導入し、nsp1変異型レプリコン発現ベクターを作製したところ、野生型と同様の複製効率を示した一方、レプリコン安定発現細胞の樹立効率が高い傾向が見られた。同レプリコンをベースに、オミクロン株にみられるN遺伝子の変異や、レムデシビル耐性変異をもつレプリコン発現ベクターを作製することに成功した。これらレプリコンの一過性発現系において、複製レベルや薬剤感受性について解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの結果から、nsp1による細胞増殖阻害のメカニズムとしてアポトーシスの関与が考えられたが、過去の文献との比較から予想よりも顕著な結果ではないと考えられた。しかしながら、nsp1発現下で細胞増殖は有意に抑制されていることから、細胞死誘導に加えて、細胞周期の停止などによる細胞増殖の抑制の可能性が考えられた。Nsp1は複合的な影響により有意な細胞増殖の抑制を引き起こしている可能性が考えられる。そこで今後は、nsp1による細胞死誘導の分子メカニズムを解析するとともに、細胞周期への影響を解析することを検討している。フローサイトメトリーや、ウェスタンブロットによる細胞周期関連因子の発現レベルを調べ、nsp1発現下で細胞周期がどのような影響を受けているのか解析する。また、nsp1による細胞傷害のメカニズムを解析するため、nsp1発現またはレプリコン細胞における遺伝子発現を網羅的に調べることを検討している。これまでのところ、nsp1変異型レプリコンベクターの設計をベースとした迅速クローニング法により、薬剤耐性変異株や新規出現株のレプリコンベクターの構築法を開発した。これにより、さまざまな変異を持つレプリコンの薬剤感受性や複製レベルを評価できるモデルが開発できたと考えている。今後は、このような変異型レプリコンを安定発現する細胞株を用いたスクリーニング系を構築し、薬剤耐性株や新規変異株に対して有効な化合物をスクリーニングしたいと考えている。これら研究成果は、SARS-CoV-2の治療薬開発にむけた基盤的知見となることが期待される。
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