研究課題/領域番号 |
22K07146
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分50010:腫瘍生物学関連
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
石村 昭彦 金沢大学, がん進展制御研究所, 助教 (80375261)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | エピジェネティクス / 薬剤耐性 / EGF受容体変異肺がん / オシメルチニブ / エピジェネティック制御因子 / 肺がん |
研究開始時の研究の概要 |
がん治療における分子標的薬の使用は、対象患者に対して劇的な治療効果を得ることができる。一方、腫瘍細胞の一部は薬に対して治療抵抗性を示して残存し、数年以内に必ず再発するのが大きな課題である。本研究では、肺がんの薬剤耐性獲得に関わる新規遺伝子、特にエピジェネティック制御関連因子を探索し、その作用機序を解明することを目的とする。そして、耐性獲得における分子基盤の一端を明らかにすることで得られた知見より、エピジェネティック制御の可逆性に焦点を当てた、新たな耐性克服戦略の確立を目指す。
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研究実績の概要 |
全肺がんの大半を占める非小細胞肺がんでは、(特にアジア人において)上皮成長因子受容体(EGFR)に高頻度な遺伝子変異が観察される。そして、変異によって誘導される慢性的なEGFRシグナルの活性化が、腫瘍細胞の増殖や生存に重要であると考えられている。このようなEGFR変異肺がん患者に対しては、EGFR特異的なチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)のひとつ、オシメルチニブによる分子標的薬治療が有効である。ところが、治療開始から1~数年以内に耐性がんとして必ず再発するのが大きな課題である。研究代表者らは、この耐性獲得メカニズムにエピジェネティック制御因子が重要であると考え、目的特化型CRISPR/Cas9スクリーニングによって候補遺伝子の同定を試みた。その結果、研究代表者らはヒストンアセチル化酵素のひとつと、その結合タンパク質を、新規の薬剤耐性に関わる候補因子として同定することに成功した。EGFR変異肺がん細胞株を用いた候補遺伝子ノックダウン実験を行った結果、薬剤耐性能が有意に上昇することを観察した。さらに候補結合タンパク質は、オシメルチニブ投与直後に発現上昇する一方、研究代表者らが樹立したオシメルチニブ薬剤耐性細胞株では、そのような遺伝子発現誘導は認められなかった。このことから研究代表者らが着目する候補結合タンパク質は、薬剤初期応答遺伝子として(エピジェネティック制御複合体のひとつである)ヒストンアセチル化酵素複合体の機能をコントロールし、細胞の薬剤感受性に関わる可能性が示唆された。今後、ヒストンアセチル化酵素複合体が関与するオシメルチニブ・シグナル制御機構を解明し、オシメルチニブ耐性獲得における分子基盤の一端を明らかにすると同時に、新たな「耐性克服」あるいは「耐性回避」戦略の確立を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EGFR特異的なチロシンキナーゼ阻害剤のひとつ、オシメルチニブは、対象患者に対して劇的な治療効果を得ることができるが、数年以内に「薬剤耐性がん」として必ず再発するのが大きな課題である。私たちは、この耐性獲得メカニズムにエピジェネティック制御因子が重要であると考え、標的をエピジェネティック制御因子(120種類のヒストン・DNA修飾関連酵素および共役因子)に絞った「目的特化型CRISPR/Cas9スクリーニング」を試みた。その結果、ヒストンアセチル化酵素HBO1の同定に成功した。HBO1特異的shRNAを用いてノックダウン実験を行った結果、EGFR変異肺がん細胞HCC827の薬剤耐性能が著しく上昇した。また、HBO1結合因子ING4は、ヒストンH3のメチル化修飾リジン残基(H3K4me3)に結合する「エピジェネティックReaderタンパク質」のひとつだが、オシメルチニブ処理直後に発現誘導されることを発見した。ところが、研究代表者らが樹立したオシメルチニブ薬剤耐性HCC827細胞株では、そのような誘導は観察されなかった。またING4ノックダウン細胞は、HBO1ノックダウン実験結果と同様に薬剤抵抗コロニーの出現が有意に上昇した。一方、野生型ING4を過剰発現させた細胞では薬剤感受性の亢進が観察された。このとき薬剤感受性の亢進は、PHDドメイン変異ING4を過剰発現させても認められなかったことから、HBO1-ING4複合体の標的遺伝子座上においてING4のヒストン結合能が感受性亢進に重要であると考えられた。以上よりING4は、オシメルチニブ初期応答遺伝子として、HBO1ヒストンアセチル化酵素複合体による遺伝子発現制御をコントロールし、細胞の薬剤感受性に関与する可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果より、HBO1-ING4複合体が肺がん細胞のオシメルチニブ感受性を制御し、その破綻が薬剤耐性獲得に関わる可能性が強く示唆されている。今後は、この複合体が標的とするオシメルチニブ初期応答遺伝子を同定するために、薬剤処理後に回収した細胞を用いてマイクロアレイ解析を行う。そして、同定した候補遺伝子がHBO1とING4の直接的な標的であることを証明するため、抗HBO1抗体と抗ING4抗体を用いたクロマチン免疫沈降実験を行う。また、両候補が関与するヒストンH3の14番目リジンのアセチル化(H3K14ac)とH3K4me3の性状を調べる。野生型ING4過剰発現実験の結果、肺がん細胞における内在性ING4の発現亢進は、薬剤感受性亢進も同時に引き起こすことを発見した。これまで内在性ING4の発現は、複数のmiRNAによって制御されていることが報告されている。今後、研究代表者らは、オシメルチニブ耐性に関わるING4特異的なmiRNA候補を探索し、これらが実際の肺がん細胞株でING4の発現をコントロールし、薬剤耐性に関与しているかを検討する。そして、候補miRNAに対する阻害剤が薬剤「耐性克服」あるいは「耐性回避」に寄与する可能性を検証していく。また「目的特化型CRISPR/Cas9スクリーニング」をさらに推し進めることで、HBO1/ING4 以外の候補遺伝子を同定し、薬剤耐性の分子メカニズムを明らかにし、最終的にはエピジェネティック制御の可逆性に焦点を当てた、新たな耐性克服戦略の確立を目指す。
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