研究課題/領域番号 |
22K07213
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分50010:腫瘍生物学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
飯森 真人 九州大学, 薬学研究院, 准教授 (20546460)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 細胞老化 / 抗がん剤 |
研究開始時の研究の概要 |
細胞老化は安定的かつ不可逆的に細胞周期が停止した状態である。これまでに抗がん剤によってがん細胞が2つの異なる様式で老化に移行し,その後細胞周期停止を維持できず再増殖することを見出した。しかし,がん細胞の老化移行および維持の分子機構やその破綻によるがん悪性化メカニズムの詳細は不明である。 本研究では抗がん剤誘導性がん老化の移行・維持に必須な遺伝子群を同定し,その分子機構を解明する。さらにその破綻による細胞増殖能の亢進,幹細胞性および染色体不安定性の獲得への影響を明らかにすることで,がん老化細胞をがんの治療標的として捉える必要性を明確にし,老化細胞を標的とするがん治療戦略の学術的基盤を確立する。
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研究実績の概要 |
細胞老化は安定的かつ不可逆的に細胞周期が停止した状態であるが,多様な抗がん剤に対しても細胞老化が誘導される。抗がん剤により誘導されるがんの細胞老化では,p53が不活性化すると細胞老化より脱却して細胞周期が再び開始され,がん幹細胞性の獲得やWntシグナル経路の活性化などがんの悪性度を増す可能性が報告された。さらに老化細胞は炎症性タンパク質の分泌を引きおこし、周辺組織に炎症や発がんを誘導する可能性があることが知られている。これらのことよりがん細胞の老化誘導が抗がん剤治療のゴールとなり得るかは議論の余地が残る。さらに,抗がん剤によるがん細胞の老化移行および維持がどのような分子メカニズムによるのか,老化維持が破綻したがん細胞はどのようにふるまうのかなど不明な点が多い。本研究では,すでに見出したヌクレオシドアナログ系抗がん剤トリフルリジン(FTD)が細胞老化を誘導する現象から,がん細胞老化の維持に必要な因子と分子メカニズムと老化維持が破綻したがん老化細胞のふるまいに関する課題を解明することで抗がん剤誘導性細胞老化の分子機構とその破綻による細胞運命を明らかにする。 初年度はFTDが細胞老化に移行するメカニズムを明らかにする研究項目を実施した。そのなかで,FTDが細胞周期S期でのDNA複製時においてゲノムDNA中に誤って取り込まれることにより,露出した一本鎖DNA領域の蓄積やDNA二重鎖切断,さらに相同組換え修復の活性化などを伴い,S期の遅延が引き起こされることを見出した。さらに老化誘導による細胞周期停止が2つの異なる様式であること(DNA含有量が2Nもしくは4N),その割合が薬剤により異なることを発見した。この薬剤の違いはS/G2期にとどまる時間の違いに起因していることが分かり,人為的にS/G2期の時間を変化させることで,老化誘導による細胞周期停止細胞集団のDNA含有量変化も誘導された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究申請時の研究計画では令和4年度から6年度の研究予定期間のうち、3つの課題(課題1 異なる様式で誘導される細胞周期停止と老化の関連性,課題2 がん細胞老化の維持に必要な因子と分子メカニズム,課題3 老化維持が破綻したがん老化細胞のふるまい)に取り組むことで抗がん剤誘導性細胞老化の分子機構とその破綻による細胞運命を明らかにすることを目的とした。 令和4年度は主に課題1に取り組んだ。FTDが誘導する細胞老化を老化誘導モデルとして用い,FTDが細胞老化に移行するメカニズムを明らかにする基礎研究を行った。FTDが細胞周期S期でのDNA複製時においてゲノムDNA中に誤って取り込まれることにより,露出した一本鎖DNA領域結合因子であるRPA32やDNA二重鎖切断マーカーであるgamma-H2AX,さらに相同組換え修復の必須因子であるRAD51などの核内フォーカスが観察された。これによりATRキナーゼの活性化やp53-p21経路活性化が観察された。FTDはこの様な細胞応答とS/G2期の遅延が引き起こされることにより高効率に分裂期スキップを伴う老化移行することが観察されたが,S/G2期遅延を起こさずにp53を活性化させる薬剤Nutlin-3aではそのほとんどが分裂期完了後のG1期停止を起こしていた。Nutlin-3a処理細胞でも,人為的にG2期を遅延させてやることで,多くの細胞が分裂期スキップを伴う老化移行を起こしたため,異なる様式で誘導される細胞周期停止と老化の関連性として,DNA複製ストレスによって老化を起こすにはp53-p21経路の活性化を起こす局面において通常よりも長いS/G2期の時間(S期進行遅延,G2期停止など)が必要であることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度には、前年度に見出した分裂期スキップを伴う老化移行メカニズムに関する知見をもとに,細胞老化移行を回避して細胞分裂期へ進行させた場合の細胞運命について詳細な解析を行う。また課題2であるがん細胞老化の維持に必要な因子と分子メカニズムを進捗させる。特に,異なる様式で誘導される細胞周期停止と老化細胞においては細胞の性質にどのような違いがあるかの詳細解析を行う。さらに課題3の老化維持が破綻したがん老化細胞のふるまいを観察するために,細胞老化状態を人為的に脱出させる細胞系を樹立してろうかを脱出してしまったがん細胞の悪性化メカニズムを明らかにする。さらに今後の研究戦略の1つとして,抗がん剤によるがん細胞の老化移行を回避できずに老化移行してしまったがん細胞に対して殺細胞効果をあたえる標的因子の探索およびSenolytic drug(老化細胞除去薬)の同定をすすめる。我々はすでにFTDが細胞老化を誘導する時期にある種のサイトカインが強く産生されること,およびそのサイトカインが関与するシグナル伝達経路の阻害が細胞死誘導に効果的である可能性を示唆するデータを得ている。以上の項目を中心に研究を行いがんの細胞老化に関する理解を深め,その制御に関する意義を考察する。
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