研究課題/領域番号 |
22K07288
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分50020:腫瘍診断および治療学関連
|
研究機関 | 横浜薬科大学 |
研究代表者 |
岩瀬 由未子 横浜薬科大学, 薬学部, 准教授 (00521882)
|
研究分担者 |
矢野 健太郎 横浜薬科大学, 薬学部, 講師 (40644290)
桑原 隆 横浜薬科大学, 薬学部, 教授 (90786576)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
|
キーワード | ニューキノロン系抗菌薬 / 光化学作用 / DDS / 超音波 / 薬物送達 / 抗腫瘍効果 |
研究開始時の研究の概要 |
アポトーシス能の低下は癌細胞の異常増殖に関与する。また、癌治療における薬物療法において投与された抗癌剤が癌細胞に十分量到達できないことに加え、健常細胞に対しても作用を発現することは治療の大きな障壁となっている。一重項酸素は細胞内で産生されるとアポトーシスを誘発することから、薬物を細胞内に送達し、一重項酸素を産生させることは局所的な殺細胞効果発現が可能となると考えられる。ニューキノロン系抗菌薬(NQLs)はそれ自身ではほとんど細胞毒性を有しないが、UVAにより活性化され、一重項酸素を産生することができる。そこで、NQLsを抗癌剤として転用可能かを検証する。
|
研究実績の概要 |
癌細胞の異常増殖にはアポトーシス能の低下が関与している。一重項酸素には細胞内で産生されるとアポトーシスを誘発できるという特徴がある。そこで、強制的に細胞内で一重項酸素を産生させることができるようになることは、癌細胞の異常増殖を抑制することにつながると考えられる。ニューキノロン系抗菌薬は服用後、強い陽射しを浴びてしまうことで光アレルギーが誘発されることが知られる薬物である。この現象は、ニューキノロン系抗菌薬が光により活性化される薬物であることを示唆している。 本年は、まず、薬物の細胞内送達を助けるための処置として音響化学的作用を利用し、細胞膜透過性のない薬剤(カルセイン)を使用し、音響化学的薬物送達について評価を行った。カルセインの細胞内送達は処置後の細胞を洗浄し、細胞膜を壊し、細胞内カルセインの蛍光強度を測定することで評価した。音響化学的薬物送達では、キャビテーションの生じやすい条件下では、細胞へのダメージを軽減することを目的として、超音波の発生頻度を調製した。 さらにニューキノロン系抗菌薬とUVA併用処置による一重項酸素産生について検証した。加えて、一重項酸素産生能がニューキノロン系抗菌薬の濃度依存的産生となるかについて調べた。一重項酸素の産生評価は、イミダゾールおよびRNO存在下、一重項酸素が産生されると、一重項酸素がイミダゾールと反応し反応中間体を産生する。この反応中間体がRNOを酸化することにより脱色されるため、RNOの440 nmの吸光度が減少するのを利用した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
音響化学的薬物送達に関しては、キャビテーションの発生しやすい1MHzおよびキャビテーション発生効率の低下した3 MHzで検討を行った。1 MHzでは100% duty cycleで照射すると、細胞への損傷が激しく細胞死が誘発されてしまうため、20%以下にduty cycleを抑えることにより、薬物送達が可能となった。超音波照射直後はトリパンブルー染色による細胞の生死判定では一時的に形成された孔の影響で染色率が高く見積もられるが、経時的な細胞増殖を観察すると、細胞の増殖が確認された。このことから、今回検討した超音波照射条件は細胞死を避けられることが示唆された。この条件下、細胞膜透過性のないカルセインを用いて細胞内薬物送達を評価した。この結果、いずれの条件でも薬物を送達できることが確認できた。 ニューキノロン系抗菌薬がUVA照射による一重項酸素産生評価については、ニューキノロン系抗菌薬の濃度依存的な一重項酸素産生が確認できた。一部、UVA照射のみで細胞損傷を引き起こさない条件下では、一重項酸素の産生が認められない薬物もあった。また、ニューキノロン系抗菌薬と、UVAの併用による細胞傷害性については未処置、UVA単独処置、薬物単独処置、およびUVAおよび薬物併用処置で比較検討した結果、未処置、UVA単独処置、薬物単独処置後の細胞増殖を比較検討したところ、未処置の細胞増殖に比べ、UVA単独処置および薬物単独処置では、細胞増殖が抑制傾向を見せる程度であった。しかし、UVAおよび薬物併用処置においては著しい、細胞増殖抑制が認められた。さらに、薬物送達向上を目的とした超音波追加処置は、未処置、UVA単独処置および薬物単独処置後の細胞増殖に大きな影響は与えず、UVAおよび薬物併用処置に対しては若干の効果増大傾向があった。
|
今後の研究の推進方策 |
先行して、ニューキノロン系抗菌薬とUVA併用処置によるHUT78 (ヒトTリンパ腫由来細胞)に対する細胞傷害性について、未処置、UVA単独処置、薬物単独処置、およびUVAおよび薬物併用処置で比較検討評価を開始している。HUT78は処置直後には細胞に顕著な反応は生じず、処置後48時間まで経過観察することにより、UVAおよび薬物併用処置において顕著な細胞増殖抑制が確認されている。しかしながら、薬物送達増大を目的とした超音波併用処置の効果はさらなる検討が必要な状態である。このため、より効果的な音響化学的薬物送達条件の検討を行う。これには、超音波の周波数、照射時間、duty cycleをそれぞれ変え、細胞への損傷および薬物送達量を評価する。さらに、分子量の大きい薬物に対応できるような条件についても検討を行う。音響化学的薬物送達の検討と同時に、超音波処置に加え、ニューキノロン系抗菌薬とUVA併用処置を行い、細胞への損傷効果について検討する。 現在、ニューキノロン系抗菌薬とUVA併用処置による細胞増殖抑制は24時間以上経過して発現しており、効果が即時的ではない。また、一重項酸素の産生と細胞増殖抑制効果に相関が低いことから、細胞へのダメージが一重項酸素産生以外の効果による影響が考えられるので、細胞死誘発への要因解明のため、TNF-αやRIP3の活性をウェスタンブロットにより評価する予定である。
|