研究課題/領域番号 |
22K07296
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分50020:腫瘍診断および治療学関連
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
吉村 健太郎 山梨大学, 大学院総合研究部, 講師 (70516921)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 質量分析 / マルチオミクス / 機械学習 / がん診断 / メタボロミクス / リピドミクス |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では数マイクロリットルの血清を質量分析で成分分析し、そこからがん特異的な組成変化を検知することで、10秒以内に膵臓がんの存在を示すことが可能な、ハイスループット膵臓がんスクリーニングシステムを構築することを目的とする。当システムの最大の特徴は、質量分析部に1検体数秒の即時分析を可能とする、独自開発のイオン化法を導入することにある。当該イオン化法は液面により検体の採取、イオン化を行うという独創的な方法であり、メンテナンスフリーで多検体を分析できるという利点を有する。また血清組成の全情報を人工知能により高次元で比較することで、がんの存在を高確度で検知することが可能なアルゴリズムも構築する。
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研究実績の概要 |
質量分析(Mass spectrometry, MS)では検体をイオン化するための手段とそのイオンを分離・検出するための手段が必須であるが、前者を行うまでの工程において1時間以上を要する。MSは多数検体を対象とした各種疾患のスクリーニングへの応用が進められているが、スループットの低さが実用化に向けた障壁となっている。そこで本研究では検体の成分を数秒でイオン化することが可能なLiquid Probe Ionization(LPI, 特許7109731号)という山梨大学において独自開発された技術を用いて、MSを基盤としたハイスループットがん診断システムを構築することを目的としている。LPIは金属製の針を樹脂製の外套に貫通させたプローブを上下運動させ、試料採取と成分のイオン化を連続的に行う技法である。プローブ先端の小さな孔からは金属針がわずかに突出しており、かつ表面には溶媒の膜が形成されており、この溶媒膜によって試料中の成分が採取される。採取された成分は電圧の印加により溶媒と共にエレクトロスプレーされ、質量分析装置へと導入される。 本年度においては、LPIプローブを用いたヒト血清の脂質や低分子代謝産物の分析条件検討と、コントロールおよび膵がん患者の成分データベースの構築を行い、現状における膵がん判別精度の検証を行った。また多数検体を一斉分析するために、あらゆる形状のマルチウェルプレートからの自動分析が可能なオートサンプラーの構築を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
[LPIプローブを用いたMS条件検討] ヒト血清に含まれる脂質や低分子代謝産物を始めとする生体成分を、なるべく多く検出するための条件を検討し(溶媒組成、印加電圧、プローブ駆動周期、MSパラメータなど)、一度の分析で数百の成分ピークを含むマススペクトルが得られる条件を決定した。多数検体の分析を行う際には成分のクロスコンタミネーションを回避する必要があるため、1つの検体より採取された成分由来のピークが完全に消失するまでの電圧印加時間も検討した。 [膵がん判別精度の検証] 非がん患者(120検体)およびがん患者(123検体)の血清をLPI-MSを用いて成分分析し、各種の患者背景情報と共に関係データベースに蓄積した。このデータベースをロジスティック回帰やサポートベクターマシンを用いて機械学習し、一個抜き交差検証で判別性能を検証した。閾値を0.5とした場合の精度、感度、特異度はそれぞれ88.5%、85.6%、92.0%、 ROC曲線におけるAUC=0.92(95% CI=0.87-0.97)という、実用化に向けた可能性を示唆する結果が得られた。 [ロボットアーム式オートサンプラーの構築] どのような形状のサンプルプレートや、質量分析装置のイオン導入インターフェースにも対応可能とするために、LPIプローブを自由度高く駆動することが可能な、ロボットアーム式オートサンプラーを構築した。 上記はいずれも当初予定していた研究計画どおりの進捗となっている。
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今後の研究の推進方策 |
現状のオートサンプラーは検体の位置を固定し、プローブを上下させる様式を採用しているが、プローブ改良における重量の増加が原因で、先端部と質量分析装置のイオン導入孔のアライメントが時間経過で変化し、マススペクトルの再現性に影響を与えることが判明した。この問題に対して、プローブを固定しサンプルプレートをロボットアームで駆動させる様式に変更することで改善を試みる。新たに開発したロボットアーム式のオートサンプラーには既存装置に導入されている、電圧印加と検体の液面感知機構が備わっていないため、それらを追加して実用版の装置を完成させる。 多数検体の連続分析の際には、前の検体に由来するシグナルが完全に消失してから、次の検体の分析に移る必要がある。現在は10秒程度の電圧印加により成分を全てイオン化させることで対応しているが、検体によってシグナル消失までの時間には大きな差異がある。1件体当たりの所要時間をなるべく短縮するために、マススペクトルの形状から成分の消失を検知し、イオン化時間を自動調節するフィードバック機構を導入する。 診断アルゴリズムの判別精度を向上させるために、ヒト血清検体の収集を継続してデータベースの拡充を図る。がん患者血清は多くがステージ3、4のものであり、ステージ1、2の検体は収集が非常に困難である。膵がんの早期発見が可能な診断アルゴリズムを構築するために、早期ステージの患者由来血清の収集に努める。状況によっては外部のバイオバンクからの購入なども検討する。
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