研究課題/領域番号 |
22K07344
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分51030:病態神経科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高鳥 翔 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (80624361)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | アルツハイマー病 / ミクログリア / ホスファチジルセリン / 細胞死 / 貪食 / 神経細胞死 |
研究開始時の研究の概要 |
アルツハイマー病においては、神経細胞にタウタンパク質からなる異常な線維が蓄積することにより著明な神経細胞死が生じるが、その詳細な分子機序は不明である。本研究では、グリア細胞のひとつであるミクログリアが神経細胞貪食を介してこの過程に関与している可能性について検証する。貪食を阻害する新たな手法を確立することにより、ミクログリアの積極的関与について実証するとともに、通常は貪食によって失われる神経細胞の性状解明を行う。これらの研究を通じて、タウ依存性細胞死の分子機序を明らかにし、新たなアルツハイマー病治療法の可能性を提示することを目指す。
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研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)の脳内では神経細胞体内に不溶化したタウタンパク質が蓄積し、これと関連した著明な神経細胞死が認められる。この機序には非神経細胞であるミクログリアの関与が示唆されているが、ミクログリアがどのような機序で細胞死を引き起こすのかはよく分かっていない。そこで本研究では、ミクログリアが神経細胞を貪食することにより細胞死を導くという仮説(ファゴプトーシス)に着目し、貪食の阻害により細胞死を抑制する新たな手法を開発することにより、タウ依存性細胞死におけるファゴプトーシスの関与を実証することを目的とした。 本研究計画の鍵となるのは、神経細胞上で貪食の目印シグナルとして機能するホスファチジルセリン(PtdSer)に対して特異的に結合するタンパク質をマウス脳内に強制発現することにより、貪食を競合的に阻害する技術の確立にある。今年度はその動作確認のため、神経細胞にアポトーシスを誘発できるカイニン酸を投与したマウスに対し、組換えアデノ随伴ウイルスベクターによりPtdSer結合タンパク質を脳内送達させた。その結果、通常はPtdSer依存性の貪食により失われるべき死細胞が蓄積することを見出した。このことは、上記の原理に基づく貪食阻害が生体脳においても可能であることを示唆した。この手法を応用するため、タウ依存性細胞死を示すマウスモデルを検索した。凝集性の高いタウ変異体をウイルスベクターにより脳内発現させた新たなタウ蓄積モデルを作出し解析したところ、このマウスは従来のモデルよりもごく短期間に、ヒトADに類似したタウ蓄積を示すことが明らかとなった。現在はこのマウスにおける神経細胞死の表現型について解析を進めている。これらの要素技術を組み合わせることにより、タウ依存性細胞死におけるファゴプトーシスの関与が明らかになると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はまず、MFGE8変異体(D89E)の発現により、PtdSer依存性貪食をin vivoで阻害できるか検証した。このために、マウス脳内にカイニン酸を投与することで神経細胞のアポトーシスを誘導できる実験系を用いた。この系では、アポトーシス細胞はPtdSer依存性の貪食により排除される。このモデルに対し、末梢投与により血液脳関門を透過する性質をもつアデノ随伴ウイルスベクター(AAV-PHP.eB)を用いて、脳内にMFGE8変異体を発現させたところ、変異体発現群において特異的にTUNEL陽性細胞の蓄積が亢進した。この結果は貪食を免れた死細胞が蓄積したことによると考えられ、MFGE8変異体がin vivoにおいてPtdSer依存性貪食を阻害することを示唆した。 次に、タウ過剰発現により神経細胞死を示すマウスモデルに対して、MFGE8の効果を検証することを考えた。凝集性が高いタウ変異体(P301L/S320F)をAAVにより過剰発現した新たなマウスモデルを作出し、タウ蓄積と神経細胞脱落の程度を評価したところ、ヒトADに類似した銀染色陽性のタウ蓄積がごく早期から生じることが判明した。一方で、このマウスの神経細胞脱落に関しては、ウイルス投与後3ヶ月の時点では認められなかった。そこで現在はより長期の影響について検討を進めている。さらに、MFGE8変異体を発現させた脳内でこのタンパク質が結合する標的神経細胞を可視化または単離することを可能にするため、非神経細胞に特異的にMFGE8変異体を発現させる方法について検討した。アストロサイト特異的プロモータの下流にMFGE8変異体を挿入したAAV2ベクターを用いた場合に期待通りの結果を得ており、今後これら実験系を組み合わせ研究を行う計画である。
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今後の研究の推進方策 |
アデノ随伴ウイルスベクターAAV-PHP.eBによるMFGE8変異体の脳内送達と、脳内アポトーシス誘導モデルにおける貪食阻害効果については、想定通りの結果が得られた。そこで今後はタウ依存性神経細胞死を示すマウスモデルで、MFGE8変異体発現の効果を明らかにしてゆく。なお上記の実験系では、ユビキタスプロモーターによる発現系を用いていたため、MFGE8変異体は主として神経細胞とアストロサイトに発現していた。今後、タウ依存性神経細胞死を抑制できた場合、MFGE8変異体が結合した標的神経細胞の性状解析を行う予定であり、神経細胞自身にはMFGE8変異体の発現がないことが望ましい。現在までに、プロモーターやAAVセロタイプの変更により、非神経細胞に選択的にAAVコンストラクトを発現させることに成功しており、MFGE8発現の効果についてもin vivoで検証する。 一方、動物モデルにおいてタウ依存性細胞死の表現型を捉えることに関してはやや進展が遅れている。タウの新規変異体(P301L/S320F)のAAV過剰発現マウスでは、少なくとも3ヶ月齢まで神経細胞死の表現型が認められなかった。そこで、より長期にわたる表現型を追跡すると同時に、加齢依存的に神経細胞脱落を示す変異型タウトランスジェニックマウス(PS19)の応用も検討する。これにより、タウ依存性神経細胞死におけるファゴプトーシスの関与を実証することを目指す。
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