研究課題/領域番号 |
22K07346
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分51030:病態神経科学関連
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
辻 隆宏 福井大学, 学術研究院医学系部門(附属病院部), 助教 (40787389)
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研究分担者 |
辻 知陽 金沢大学, 子どものこころの発達研究センター, 特任助教 (00523490)
東田 陽博 金沢大学, 子どものこころの発達研究センター, 協力研究員 (30093066)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 自閉症スペクトラム障害(ASD) / ASDモデルマウス / 概日リズム障害 / jet lag paradigm / L-カルノシン / バルプロ酸 / バソプレシン / 睡眠障害 / 自閉症スペクトラム障害 / 概日リズム / オキシトシン |
研究開始時の研究の概要 |
自閉症スペクトラム症候群(ASD)は、遺伝因子と環境因子の関与が約50%と推定されている多因子疾患群である。睡眠障害は、約半数のASD児に合併する。ASDの睡眠障害の原因には概日リズム障害があり、オキシトシン(OT)受容体やバソプレシン(AVP)受容体の関与が動物モデルで指摘されている。一方、環境因子モデルのバルプロ酸母胎内暴露マウス(VPAマウス)で概日リズム異常を発見している。本研究では、OT分泌障害マウスや組織特異的AVP細胞除去マウスを使い、OTやAVPの概日リズム制御機構の確立とVPAマウスの概日リズム異常の行動の分子基盤の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
自閉症スペクトラム症候群(ASD)は社会性障害以外にも睡眠障害を伴うことが多く、本人だけでなく家族も巻き込んだ問題となっています。環境要因のASDモデルマウスとしてバルプロ酸胎内暴露マウス(以下、VPAマウス)とCD157ノックアウトマウスを使用して、概日リズムを輪回し行動により計測した。VPAマウスは夜間の活動量がコントロールより増加していた。さらに、12時間明暗周期を8時間前進・後退させてジェットラグパラダイムを行ったところ、新しい明暗リズムにどちらのマウスも速やかに同期していた。ASDの生活を困難にする睡眠障害は、光により概日リズムが同期しやすくなることにより、夜間に光が入り奇異的に概日リズムが乱されることが一つの要因になることを示唆する。 一方、ASD児では血中L-カルノシンが低下し、L-カルノシンの経口補給により改善する可能性が指摘されている。これまでCD157ノックアウトマウスでL-カルノシンの経口補給が社会性障害をオキシトシンの分泌を促進することにより改善することを報告した(2022, Nutrients)。L-カルノシンの経口投与はVPAマウスの社会性を改善させることができた。L-カルノシンはCD157ノックアウトマウスへの急性ストレスに応答する血中コルチゾールの上昇と不安様行動を軽減していた。L-カルノシンの栄養補給は、ASD児の社会性障害と急性ストレスへの反応や不安を軽減する可能性がある。 本研究成果はASD児の睡眠障害の分子機序の解明とASD児のL-カルノシンの栄養補給による治療可能性につながる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、ASD児の睡眠障害の分子機序を明らかにするため、複数のASDモデルマウスとメラノプシン陽性内在性光感受性網膜神経節細胞におけるバソプレシンシグナルの役割を証明することを目指している。そこで、輪回し行動による概日リズムの測定や、光周期を変えて行動量を測定するシステムを立ち上げ、いくつかのASDモデルマウスで新しい光同周期への同期の促進を見つけた。しかし、中枢の視交叉上核の時計遺伝子やc-fos活性の解析は時間がなくできなかった。 一方、網膜神経節細胞から視交叉上核へバソプレシン(AVP)が分泌される経路の生理的な役割については、AVP細胞にCreリコンビナーゼが発現するマウスを使用し、以下の方法により網膜神経節細胞特異的に変異させようとした(1、アデノ随伴ウイルスを用いる方法 2、ROSA-iDTRマウスと交配する方法)。 1の方法では、使用したウイルスの網膜への発現効率が悪く、実験を進めることができなかった。2の方法では、ジフテリア毒素の全身投与によりバソプレシンの分泌が抑制され、利尿効果を確認できた(論文準備中)。一方、ジフテリア毒素は網膜への毒性が高いため、ほかの網膜細胞への毒性がなく、AVP細胞だけを破壊する条件の至適化を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
ASDモデルマウスの輪回し行動により、ジェットラグパラダイムを行うと速やかに新しい光周期に同期することを発見した。輪回し行動のケージは数が限定されているため、他のASDモデルマウスについても解析を進めている。さらに、視交叉上核のc-fosや時計遺伝子の発現変化を免疫組織科学により解析する。同様の表現形を示すマウスとしてバソプレシン受容体ノックアウトマウス(Science, 2013)やBmal1ノックアウトマウス(JCI Insight, 2019)が報告されている。これらのマウスにおいてもバソプレシンやBmal1について着目してASDモデルマウスのこの表現型の分子機序について研究をすすめる。 一方、網膜神経節細胞特異的なバソプレシン神経を操作するマウスの作成については予備実験の段階で苦労してる。その中で、バソプレシン特異的にCre recombinaseを発現するマウスとCre recombinase特異的にジフテリア毒素受容体を発現するマウスを交配し、ジフテリア毒素の全身投与によりバソプレシン細胞の発現が低下したマウスを作成し、尿量が増加することを発見した。この表現型はバソプレシンの内分泌が低下していることを示す。今後、このマウスに眼球内へジフテリア毒素を注入し、網膜特異的なバソプレシン細胞のアブレーションを行ったマウスを作成することを計画している。
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