研究課題/領域番号 |
22K07357
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分51030:病態神経科学関連
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
小黒 明広 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (00292508)
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研究分担者 |
今高 寛晃 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (50201942)
植村 武史 城西大学, 薬学部, 准教授 (50401005)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | RAN翻訳 / ポリアミン / リピート病 / 無細胞翻訳系 / 筋強直性ジストロフィー |
研究開始時の研究の概要 |
リピート病は、遺伝子内の異常伸長した繰り返し配列に起因する疾患群である。特定のリピート配列では翻訳開始コドンを必要としない特殊な翻訳(RAN翻訳)が誘導され、これが発症の原因となる。これまでにRAN翻訳誘導の分子機構は明らかになっていない。 本研究は、我々の先行研究でRAN翻訳を誘導することが判明したポリアミンに着目し、無細胞翻訳系、培養細胞系、モデル生物系と段階的に解析を進め、RAN翻訳誘導におけるポリアミンの作用機序およびポリアミンとその関連因子の制御による病態抑制効果を解明する。 本研究より、ポリアミンと関連因子を標的としたリピート病の新規治療法の開発につなげていく。
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研究実績の概要 |
リピート病は、遺伝子に存在する繰り返し配列の異常伸長を特徴とする難治性の疾患群である。特定のリピート配列においてリピート関連非ATG翻訳(RAN翻訳)と呼ばれる特殊な翻訳が誘導され、リピート病発症の原因となるが、その分子機構は未解明である。本研究では、我々の先行研究でRAN翻訳を誘導することが判明したポリアミンに着目し、i)無細胞翻訳系、ii)培養細胞系、iii)モデル生物系と段階的に解析を進め、RAN翻訳誘導におけるポリアミンの作用機序を解明する。さらに、ポリアミンとその関連因子の制御による病態抑制効果を明らかにすることを目的とする。 2022年度は、i)無細胞翻訳系をメインに進め、ii)培養細胞系での解析にも着手した。i)に関しては、筋強直性ジストロフィー2型の原因となるCCTGリピート由来のRAN翻訳に対して、主要なポリアミンであるプトレッシン、スペルミジン、スペルミンによる誘導効果を詳細に解析した。その結果、スペルミンがRAN翻訳を強く誘導することが分かった。これまでの研究よりCCUGリピートRNAは複雑な高次構造をとることが報告されている。in vitroで転写したリピートRNAを加熱急冷して変性させることでRAN翻訳は阻害された。また、リピートRNAの熱融解温度(Tm値)を測定したところ、ポリアミン濃度依存的にTm値が上昇した。これらのことより、ポリアミンがリピートRNAに作用し、構造的に安定性を増加させることでRAN翻訳を誘導する作用機序が示唆されてきた。 培養細胞HEK293に、CMVプロモーター下流にCCTGリピート配列を挿入した発現ベクターを構築して導入したところ、RAN翻訳産物の発現を確認することができた。今回の条件では、RAN翻訳産物発現後48時間では細胞への強い毒性は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、2023年6月までに無細胞翻訳系でポリアミンによるRAN誘導の影響を解析することを計画している。この点に関しては、2022年度中に主要ポリアミンであるプトレッシン、スペルミジン、スペルミンそれぞれのRAN翻訳誘導効率を詳細に解析し、その作用に違いがあることを明らかにした。また、ポリアミンが作用する標的因子を解明することを計画に掲げているが、eIF5Aのハイプシン化は促進されていないことが確認でき、eIF5Aが標的分子であることは否定できた。次に、生化学的な解析を行い、リピートRNAがRAN翻訳誘導に関与するポリアミンの標的分子であることを明らかにした。このようにRAN翻訳誘導を促進するポリアミン作用因子を特定できており、無細胞翻訳系の解析は当初の計画通りに進み、目標を達成できたと考える。 さらに、培養細胞系での研究にも着手しており、汎用的な細胞でのRAN翻訳の誘導系も確立でき、現在ポリアミンの影響の解析を進めている。この点でも当初の計画通りに進んでおり、当該年度の目標は達成できていると評価する。 これらの研究成果からリピートRNAの高次構造とポリアミンの関係性について、さらに詳細な解析の必要性が生じてきたが、当該度中には研究方針の決定のみで具体的な実験の着手にまで至らず、次年度へと持ち越された。 以上の点を総合的に鑑み、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究から得た新たな知見より生じてくる課題として、ポリアミン類によるリピートRNAとの結合活性の比較や、RNA高次構造へのポリアミンの詳細な作用メカニズムなどの生化学的な解析の必要性があげられる。これに関してはRNA構造解析の専門家であり、これまでにも共同研究の実績のある千葉工業大学・河合剛太 教授と共同で解析を行う準備を進めている。 また、リピートRNAの高次構造に対するポリアミンの作用を阻害するような因子の探索を行う必要が生じてきた。これに関しては、我々が以前に単離したスペルミンに結合する短鎖の核酸アプタマーによるスペルミンの捕捉が有効であると考え、その阻害効果を無細胞翻訳系と培養細胞系で解析していく。さらに、細胞内のポリアミン濃度の低下を誘導するポリアミン合成阻害剤DFMOや、スペルミン合成酵素阻害剤APCHAのRAN翻訳抑制効果を培養細胞系で検証する。このようにして無細胞翻訳系、培養細胞系でRAN翻訳の阻害剤の絞り込みを進める。 今後はモデル生物を用いた解析に着手していく予定である。計画ではモデル生物としてショウジョウバエを想定していたが、学内でゼブラフィシュを用いた実験環境が整備されたため、ゼブラフィシュを使って疾患モデルを作成することも新たに計画している。まずはゼブラフィッシュの生体内でRAN翻訳を再現させ、ポリアミン量と疾病との関連性を解析していく。RAN翻訳が再現できたモデル生物を使って、in vitroでの解析で有効性が証明されたアプタマーや化合物を使って順次RAN翻訳の抑制効果を調べていく。 現在はCCTGリピートの解析が先行して研究成果を順調に得ているが、同時にCAG、CTGの各リピートの解析用のプラスミドの構築も終えており、順次解析を進めている。さらにGGCCCC、CCG、TTCCAの各リピート配列の準備も進めており、解析を行う予定である。
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