研究課題/領域番号 |
22K07362
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分51030:病態神経科学関連
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
野中 隆 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳・神経科学研究分野, 副参事研究員 (30356258)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | αシヌクレイン / ワクチン / タンパク質凝集体 / 神経変性疾患 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、種々の認知症の根本治療薬としてワクチン・抗体療法が注目されている。本研究ではより安価なワクチン療法に着目し、αシヌクレイノパチーに対する新規ワクチン療法の開発を目指す。研究代表者は、患者脳に蓄積したαシヌクレイン(αS)凝集体あるいはリコンビナントαS凝集体のクライオ電顕による立体構造を基に、プリオン様活性が殆ど無い新たな変異型αS凝集体を作製した。このプリオン様活性の無い新規な変異型凝集体を用いて、安全性が高く効果的なワクチン療法の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
クライオ電子顕微鏡によるMSA患者脳由来のaS凝集体およびリコンビナント凝集体の立体構造より、その構造は2分子のaSプロトフィラメント(PF)からなる中核構造を基本とすることが判明した。この2分子のPFの相互作用の中心部分にはLys43、Lys45あるいはHis50といった塩基性アミノ酸が集中しており、我々はこれがaSの重合に重要ではないかと考えた。そこで2022年度は、Lys43およびLys45に着目し、この部分にアミノ酸置換変異を導入した変異体を作製し、それらの性質を調べた。その結果、K43+45A変異体は野生型と同様に凝集するが、そのK43+45A凝集体にはプリオン様活性(シード活性)が無いという興味深い性質を明らかにした。このように凝集体を形成するが、シード活性の無い変異型aSはこれまでに全く報告が無い。そこで我々はK43+45A凝集体にシード活性が無い点に着目し、これがワクチンとして利用できるのではないかと考えた。なぜなら、「シード活性が殆ど無い」ということは、野生型凝集体とは異なり、生体にとって「毒性がより少ない(すなわち弱毒化した)凝集体」であると考えられたからである。そこで2023年度は、K43+45A凝集体がワクチンとして機能するか否かについて検討した。まずK43+45A凝集体をマウス皮下に接種して免疫した。次いで、免疫したマウス脳に野生型aS凝集体をシードとして接種し、その1ヶ月後に脳を摘出した。摘出した脳をリン酸化aS特異抗体を用いた染色を行い、シード依存的な内在性マウスaSの蓄積量を解析した。その結果、生理食塩水を免疫したグループではマウス脳内にシード依存的なリン酸化aS凝集体が多数観察されたが、K43+45A凝集体を免疫したグループではその凝集体形成が著しく抑制された。以上の結果より、K43+45A凝集体がin vivoマウスモデルにおいてワクチンとして機能する可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、K43+45A凝集体がワクチンとして機能するか否かについて検討した。K43+45A凝集体(20-100 microg)をフロイント完全アジュバンド(初回免疫時のみ)あるいは不完全アジュバンド(2回目以降)と混合し、超音波処理にてエマルジョンを作製した。これを6-8週齢のマウス皮下に接種して免疫した(2週間おきに合計3回)。免疫前および3回の免疫後に血液を採取し、目的の抗体が産生されているかどうかをELISA法により確認した。計3回免疫したマウス脳に野生型aS凝集体(2.5 microg)をシードとして接種し、その1ヶ月後に脳を摘出した。対照として、変異型凝集体の代わりに生理食塩水を免疫したマウス脳にもシードを接種し、同様に脳を摘出した。摘出した脳を4%パラホルムアルデヒドで固定した後、リン酸化aS特異抗体を用いた免疫組織化学解析により、シード依存的な内在性マウスaSの蓄積量を解析した。その結果、生理食塩水を免疫したグループではマウス脳内にシード依存的なリン酸化aS凝集体が多数観察されたが、K43+45A凝集体を免疫したグループではその凝集体形成が著しく抑制された。免疫後のマウス血清では、免疫したK43+45凝集体やシードとして接種した野生型aS凝集体に対する抗体価が上昇していることを確認している。以上の結果より、K43+45A凝集体がin vivoマウスモデルにおいてワクチンとして機能する可能性が示された。今後、ワクチンとしての有効性のみならず治療薬としての有効性を検討し、また安全性についても検討を重ね、ヒトへの臨床応用を目指したい。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度で、K43+45A変異型凝集体がワクチンとして利用できる可能性が示された。今後、免疫するタンパク質量やマウス脳に病理を誘発するシード量やシードの種類(今回はリコンビナントaSシードを用いたが、患者脳由来の不溶化aSも試す)を変えて試行する。また、シード接種からの経過時間も変えて検討する。また近年、パーキンソン病やレビー小体型認知症の患者脳に蓄積したaS凝集体の構造がクライオ電子顕微鏡解析により明らかとなった。その構造はMSA患者脳に蓄積したaSの構造(MSA fold)とは異なることが示され、Lewy foldと名付けられた(Nature 2022)。MSA foldと同様に Lewy foldの凝集体にも特徴的な領域が存在しており、現在、この領域に変異を導入した変異体をいくつか作製している。今後、これらの変異体の解析を行い、 aS凝集体のシード効果に重要な領域・構造などを明らかにしたいと考えている。
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