研究課題/領域番号 |
22K07367
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分51030:病態神経科学関連
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
中村 友也 富山大学, 学術研究部医学系, 助教 (70733343)
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研究分担者 |
一條 裕之 富山大学, 学術研究部医学系, 教授 (40272190)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 外側手綱核 / Parvalbumin / パルブアルブミン陽性神経細胞 / グルタミン酸作動性神経細胞 / GABA作動性神経細胞 / パルブアルブミン / 幼少期ストレス / 不安 / うつ |
研究開始時の研究の概要 |
外側手綱核(Lateral habenula: LHb)は,幼少期にストレス感受性が高く,この時期にストレスを受けたマウスでは,成長後,LHbにおいてParvalbumin(PV)陽性神経細胞数が少なく,ストレス刺激後に活動した神経細胞数が多く,不安・うつ様行動を呈する.幼少期のストレスによるLHbの特定の細胞の変化が,行動の変容に関与すると考えられ,不安とうつが発症する脳内機序のひとつであると示唆されるが,それらの因果関係は明らかでない.本研究では,ストレスによって改変を受けるLHbのPV陽性神経細胞およびストレス刺激に反応する細胞(Zif268/Egr1陽性細胞)の役割を明らかにする.
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研究実績の概要 |
申請者はこれまでに,外側手綱核(Lateral Habenula: LHb)の成熟障害と成長後の不安・うつ様行動の発現の関連を明らかにした.幼少期のLHbはストレス感受性が高く,この時期にストレスを受けたマウスでは,成長後にLHbのParvalbumin陽性神経細胞(PV neuron)数が少なく,ストレス刺激に反応して活動するLHbの神経細胞数が多く,さらに不安・うつ様行動を呈する.本研究では,不安・うつ様行動発症の神経回路機構を明らかにするために,mRNA in-situ hybridization chain reaction (in-situ HCR)と免疫染色を利用し,LHb PV neuronの神経伝達物質作動性を明らかにした.PV neuronは従来に想定されていたような均一な集団ではなく,3つのサブセットから構成され,vglut2 を発現するグルタミン酸作動性マーカー陽性の大きなサブセット,gad2を発現するGABA作動性マーカー陽性のサブセット,グルタミン酸作動性とGABA作動性のマーカーを2重発現する少数の細胞からなるサブセットがあった.これらのサブセットはLHbの中でトポグラフィックに分布しており,GABA作動性マーカー陽性のサブセットが外側に多く,内側で少なかった.グルタミン酸作動性マーカー陽性のサブセットは後部に多く,前部で少なかった.対照的に,GABA作動性マーカー陽性のサブセットは前部に多かった.これらの所見は,LHbのPV neuronは神経伝達機構に関してトポグラフィックに組織化されており,前後軸と内外側軸での機能が異なることを示唆する.LHbのPV neuronの神経伝達機構に関するサブセットとトポグラフィックな分布は,不安とうつ様症状の発症を理解する基礎となり,治療にむすびつく可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①in-situ HCRのコントロール実験 HCRはスプリットプローブというタイプのプローブで,標識箇所50塩基に25塩基ずつプローブを設計し,二つのプローブが4塩基以内の近さであるときにだけ,反応が起こる.このように非特異的反応は抑制されている.ただし,未だ広く知られていない方法であるので,in-situ HCRのコントロール実験を行った.in-situ HCRでは,ターゲットmRNAに対して,20箇所以上に標識を行っている.それらを10箇所程度ずつにわけ,2種類の蛍光タンパクで識別を行い,それぞれのプローブ群が同じターゲットを標識していることを確認した.この実験によって,非特異反応が無いことを確認した.ネガティブコントロールは,wild-typeマウスに対して,wild-typeマウスが持っていないEGFPのmRNA配列に対するプローブを用い,反応が起きないことを確認した. ②LHbのPV陽性神経細胞の神経伝達物質作動性の解明および他脳部位との比較解析 グルタミン作動性マーカーのvglut1,2,3, GABA作動性マーカーのgad1,2とvgat,gat,グリシン作動性マーカーのvgat,を外側手綱核とその他の脳部位(海馬,扁桃体,帯状皮質)でそれぞれ5例の解析を終了し,LHbのPV neuronは主にvglut2陽性のグルタミン酸作動性マーカー陽性であることを明らかにした.LHbのPV neuronでは他の細胞型マーカー(セロトニントランスポーター,コリンアセチルトランスフェラーゼ,チロシンヒドロキシゲナーゼ)は観察されなかった. 実験系の信頼性を確認したうえで,LHbのPV neuronの神経伝達物質作動性マーカーの発現を明らかにし,本研究は概ね順調に行われている.
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今後の研究の推進方策 |
PV neuronの回路機構を調べるために,PV-creマウスとloxp配列で光受容体の発現を制御するマウスをかけ合わせた動物を利用することが多く行われている.私達は,PV-creマウスとR26-H2B-EGFP マウスをかけ合わせたPV-EGFPマウスを作製し,予備実験を行った.生後60日(P60)において,LHbのEGFP陽性細胞数は,PV-protein陽性細胞数の10.94倍であり, 実際にはEGFP陽性細胞がPV-proteinを発現していないことを私達は予備実験で明らかにした.PV-creによりloxp配列が外れた細胞では,生涯にわたって光受容体が持続的に発現することが見落とされている.このため, PV-creを利用して光受容体を発現させたマウスを光遺伝学的に操作する方法では,PV-protein陽性細胞だけでなく,陰性の細胞を同時に操作するおそれがあった.また,PV-protein陽性細胞のうちPV-mRNAが発現している割合は,P60では58.85±1.97%であり,PV-creマウスにアデノ随伴ウイルスを用いて光受容体を発現させた場合でも,PV-protein陽性細胞の半数ほどにしか受容体は発現しないと考えられる.この様な理由で,PV-creマウスで光遺伝学を行う実験は適切とは考えにくい. PV neuronの回路機構を明らかにするために,代替法として,PV-shRNA vectorあるいはscrambled-shRNA vectors(control)をLHbに投与し,LHbのPV-proteinの発現を抑制したマウスを作成し,不安とうつ様行動に関連した行動実験を行う.これらによってPV-proteinが不安とうつ様行動に及ぼす効果を明らかにする.PV-proteinの発現抑制を確認するためには,PVの免疫染色を行う.
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