研究課題/領域番号 |
22K07368
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分51030:病態神経科学関連
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
篠崎 陽一 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (10443772)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | グリア / 緑内障 / アストロサイト / 神経変性 / 網膜 / 1細胞RNAシークエンス |
研究開始時の研究の概要 |
緑内障は日本における中途失明原因第一位の疾患であり、網膜神経節細胞(RGC)の細胞死が失明を引き起こすが、申請者は最近、非神経細胞「アストロサイト」の機能異常がRGC傷害を誘導する事を世界に先駆けて発見した。従って、本マウスを緑内障モデルとして用いてその分子病態を解明する。特に、①アストロサイトが神経傷害性に変化する分子機構、②RGC傷害誘導機構解明、③アストロサイトを標的とする治療法の探索を行う。
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研究実績の概要 |
本年度は、アストロサイトの機能異常、特に脂肪酸やコレステロールの輸送体であるATP-binding cassette transporter A1 (ABCA1)を欠損した際に生じる、神経傷害にかかる分子機構について解析を進めた。まず、アストロサイト選択的ABCA1欠損マウスや全身性ABCA1欠損マウス網膜の組織及び1細胞RNAシークエンス解析では、CXCR4, CCR3, CCR5などのケモカイン関連遺伝子群の発現が顕著に増加していた。また、インターロイキンシグナルや白血球浸潤、ウイルス感染応答などの経路が顕著に亢進していた。つまり、ABCA1欠損に伴い、組織炎症が亢進していると考えられた。1細胞RNAシークエンスにより、細胞種特異的な遺伝子発現変化を解析したところ、網膜神経節細胞特異的に更新する経路として、CCR3やCCR5、インターロイキンやNFkBなどが認められた。一方、網膜神経節細胞/アストロサイトに共通して亢進する経路として、CXCR4が最も上位にランクしていたほか、白血球浸潤、一酸化窒素やReactive Oxygen Species、Disease-Associated Molecular Pattern、Toll-Like Receptorなど、やはり炎症に関与する遺伝子群の亢進が認められた。組織における発現パターンを免疫組織化学染色で評価したところ、CXCR4のリガンドであるCXL12の発現は網膜表層(神経線維層)に繊維状に観察され、シグナルはGFAP陽性アストロサイト内に認められた。ABCA1を欠損するとアストロサイト内のCXCL12発現は顕著に増加していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文化に向けて、アストロサイト特異的ABCA1欠損が確かに緑内障様の症状を示すデータを追加した。Thy1-GFPマウスと本マウスを掛け合わせて網膜神経節細胞の樹状突起の変性を評価した。ABCA1欠損に伴い、樹状突起の変性が認められたほか、PSD95でラベルされる興奮性シナプスの数も顕著に減少していた。これらの変化は高眼圧型緑内障モデルとして用いられているDBA/2Jマウスでも認められる組織学的変化であり(Williams et al. PLoS One 2013; Williams et al. Mol Neurodegeneration 2016)、複数の指標から、アストロサイト特異的ABCA1欠損マウスは正常眼圧緑内障様症状を示す事が明らかとなった。組織レベルの変化を抽出するため、網膜bulk RNA-seqで解析を行ったところ、CCR3, CCR5, CXCR4シグナルの亢進が認められた。このような変化は、1細胞RNAシークエンスの全細胞データからも同様に認められた。つまり、アストロサイトにおけるABCA1欠損は炎症の誘導に繋がると考えられた。ABCA1はコレステロールや脂肪酸を基質とする脂質を細胞外へ排出する輸送体であるため、ABCA1欠損は細胞内脂質に変化が生じると考えられた。アストロサイトクラスターの遺伝子発現解析ではイノシトールリン脂質に関連する遺伝子群の発現が亢進していた。初代培養アストロサイトにコレステロールを添加して細胞内Ca2+イメージングを行うと、コレステロール添加はアストロサイトの自発的細胞内Ca2+振動を惹起した。つまり、ABCA1欠損により細胞内にコレステロールが蓄積する事が上記の変化をもたらすと推定された。
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今後の研究の推進方策 |
様々な神経変性疾患においてアストロサイトの過剰な細胞内Ca2+活動やそれを起点とした神経炎症の惹起が報告されている。今回明らかになった現象は、細胞内脂質代謝異常がアストロサイトの表現型を神経傷害性へと変化させるメカニズムの一端かもしれない。その詳細を明らかにするにはコレステロールやその代謝産物、並びに細胞内Ca2+活動性を制御イノシトールリン脂質の定量的解析が必要と考えられる。RNAシークエンスのパスウェイ解析では各種イノシトールリン脂質代謝に係る代謝経路をコードする遺伝子群の発現変化が認められた。ABCA1欠損がどのようにこれらの代謝経路の変化を引き起こすかについて詳細に検討を行いたい。2023年4月より所属の東京都医学総合研究所では、脂質解析の専門家や質量分析器など解析に必要な機器類が揃っており、脂質の解析を進める予定である。また、脂質抗原提示に関わるCluster of differentiation (CD1)の発現も亢進している事から、T細胞など免疫細胞活性化を介して炎症が惹起される可能性もある。移籍先の研究グループでは多発性硬化症などT細胞も関与する疾患の研究ツールを有するため、末梢免疫細胞と緑内障との関連についても検証を進める予定である。
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