研究課題/領域番号 |
22K07388
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52010:内科学一般関連
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
山崎 昌子 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任助教 (10619266)
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研究分担者 |
川上 英良 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (30725338)
橋口 照人 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (70250917)
涌井 昌俊 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (90240465)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 凝固検査 / 直接阻害型経口抗凝固薬 / 活性化部分トロンボプラスチン時間 / プロトロンビン時間 / 機械学習 / 人工知能 |
研究開始時の研究の概要 |
凝固検査は測定装置や検査試薬によって測定結果が大きく異なり、標準化が課題となっている。直接阻害型経口抗凝固薬(DOAC)の薬効評価には暫定的に凝固検査が用いられているが、現行検査の感度は低い。しかし、超高齢者への投与、治療中の脳梗塞や出血などでは薬効評価に基づく治療の個別化が望まれ、検査の標準化と評価法の確立は急務となっている。本研究では、凝固検査測定時に得られる経時的吸光度を網羅的時系列特徴量抽出と機械学習を用いて解析することにより、DOACの血中濃度が治療域外にあることを推定する指標の確立を目指す。本研究によりDOAC療法の有効性と安全性が高まることが期待される。
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研究実績の概要 |
直接阻害型経口抗凝固薬(DOAC)は薬効評価の不要な薬剤とされているが、DOACの普及に伴い薬効評価に基づく治療の個別化の要望が高まっている。現在は、DOAC血中濃度の過剰高値の評価に凝固時間が用いられているものの、凝固時間検査の感度は低く、測定装置や検査試薬による測定結果の差も認められる。このため、DOACの薬効評価法の確立と検査の標準化は急務となっている。本研究では、網羅的時系列特徴量抽出に基づく機械学習により、DOAC内服中の患者血漿におけるプロトロンビン時間(PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)測定時の経時的透光度変化からDOAC血中濃度が治療域外の低値または高値にあることを推定する指標を確立することを目指す。 2023年度は、2022年度に作成したPTの経時的な透光度と凝固波形解析(CWA)、APTTの経時的透光度とCWA およびDOAC血中濃度のデータセットを用いて、網羅的時系列特徴量抽出に基づく機械学習を適用して多くの特徴量を抽出し、DOACが50ng/mL未満の低濃度であることを予測するモデルを構築した。機械学習を適用して抽出した特徴量を用いたモデルは、CWAのパラメータを用いたモデルよりも、モデルの性能を評価する指標のスコアが高く、高精度にDOAC低濃度を予測することができた。抽出された特徴量の中で予測への寄与が大きく重要なものを同定したところ、CWAパラメータとの相関が強いものが多かった。CWAパラメータのいずれとも相関が低い特徴量の中で、予測への寄与が最も大きいものを同定したところ、DOAC低濃度検体では、PT測定初期に透光度の一時的な上昇がみられることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2022年度に倫理審査承認までに時間を要した影響で進捗が遅れている。また、凝固検査未施行の保存血漿検体を用い、PT、APTTとDOAC血中濃度を追加測定する計画については、DOAC血中濃度の最低値が200ng/mL以上の高濃度を示す検体がほとんどなく、解析困難と考えられることから検討内容を変更した。 DOAC内服中の非弁膜症性心房細動患者検体のPTの経時的な透光度とCWA、APTTの経時的透光度とCWA および抗活性化第X因子活性によるDOAC(リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)血中濃度、抗トロンビン活性によるDOAC(ダビガトラン)血中濃度のデータセットを用いて、DOACが50ng/mL未満の低濃度であることを予測するモデルを構築した。tsfreshと呼ばれる時系列データから網羅的に特徴量を抽出する手法を用い、透光度変化において注目する時間帯や時間幅を変えながらtsfreshを適用し、約12,5000個の特徴量を抽出した。tsfreshを用いたモデルは、モデルの性能を評価する指標であるROCとPROCが各々0.90と0.58と、CWAパラメータを用いたモデルの0.84と0.43よりも高く、高精度にDOAC低濃度を予測することができた。抽出された特徴量の中で予測への寄与が大きいものは、CWAパラメータとの相関が強いものが多かった。CWAパラメータとの相関係数が0.3以下かつ予測への寄与が最も大きい特徴量は、PT測定の7.9秒から19.6秒における透光度の最大値の位置を示すものであった。この特徴量が大きく、DOAC低濃度と予測される検体では、PT測定初期に透光度の一時的な上昇がみられることが示唆された。この現象がDOAC低濃度の指標となり得るかについて検討していく。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度にDOAC低濃度(50ng/mL未満)を判別するモデルを構築し、続いて高濃度(血中濃度の最低値が200ng/mL以上)を判別するモデルも作成し、適正治療範囲外のDOAC濃度を判別する指標を探索する計画であったが、データセットに高濃度検体がほとんど含まれておらず、解析困難であることがわかった。このため、DOAC低濃度の新たな指標のみを探索する計画に変更し、2023年度に得られた解析結果に関する基礎的検討および異なる測定装置や試薬によるPTやAPTTでも同様の解析結果が得られるかを確認することとした。凝固検査未施行の保存血漿検体を用いてPT、APTTとDOAC血中濃度を追加測定する項目が研究計画の変更により変わったため、倫理審査を申請している。 2023年度の解析において従来のパラメータと相関が低く、DOAC低濃度の予測への寄与が大きい特徴量から示唆されたPT測定初期に透光度が一時的に上昇する現象については、in vitro で正常血漿や凝固因子活性を変化させた血漿にDOACを添加する実験を行い、再現性を確認する。また、これまでの解析に用いたPT試薬やAPTT試薬とは異なる試薬によりPTとAPTTを測定して経時的透光度を用いた解析を行い、異なる測定条件においても同様の解析結果が得られるかを確認する。DOAC血中濃度については、ゴールドスタンダードではあるものの臨床検査としては施行不可能な質量分析法による測定も行う。質量分析法と抗凝固因子活性による測定結果を比較することにより、実臨床検体において抗凝固因子活性によりDOAC血中濃度を評価することの妥当性を確認する。これらにより、凝固反応早期の透光度変化の特徴が、DOAC低濃度の新たな指標となり得るかを検討していく。
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