研究課題/領域番号 |
22K07391
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52010:内科学一般関連
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
森下 英理子 金沢大学, 保健学系, 教授 (50251921)
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研究分担者 |
小原 收 公益財団法人かずさDNA研究所, その他部局等, 副所長 (20370926)
荒磯 裕平 金沢大学, 保健学系, 准教授 (20753726)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 遺伝性血栓症 / アンチトロンビン(AT)欠乏症 / プロテインC(PC)欠乏症 / プロテインS(PS)欠乏症 / NGSパネル検査 / ノックアウトゼブラフィッシュ / 高速原子力間顕微鏡 / Liposome flotation assay / パネル検査 / 静脈血栓塞栓症 / VTE |
研究開始時の研究の概要 |
遺伝性血栓症の病因解明のため、血栓性素因関連遺伝子群の次世代シークエンス(NGS)パネルを用いた遺伝子バリアントの同定、RNAを用いたトランスクリプトーム解析や網羅的なプロテオーム解析を組み合わせた統合的(オミックス)検査方法を確立し、病態を解明する。さらに、患者の臨床所見とゲノム情報を照合し、本邦独自の「各遺伝子バリアントのリスク度」を求め、層別化された血栓リスクに適した予防・治療の早期提供を目指し、遺伝性血栓症患者の病因・病態解明、ゲノム情報からの血栓リスクの層別化を図り、個別化医療へと繋がる包括的なアプローチを行う。
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研究実績の概要 |
静脈血栓塞栓症(VTE)のリスク因子の一つである遺伝性血栓症においては、遺伝子バリアントの同定率はアンチトロンビン(AT)欠乏症約9割、プロテインC(PC)欠乏症5割、プロテインS(PS)欠乏症にいたっては3~4割程度である。このように、バリアントの同定率は標的遺伝子で異なり、原因不明も100例近くあり、現行法のDNA解析では確定診断に限界がある。そこで、遺伝性血栓症の病因解明のために、血栓性素因関連遺伝子群のNGSパネルを用いた遺伝子バリアントの同定、さらには標的遺伝子のRNAを用いたトランスクリプトーム解析や網羅的なプロテオーム解析を組み合わせたオミックス解析による検査法を確立することを目的とした。 ①今年度は、かずさDNA研究所にてハイブリキャプチャー法により全対象遺伝子の蛋白質コードエクソンとそのイントロン境界部の塩基配列を決定する血栓性素因関連遺伝子群(54遺伝子)のNGSパネルを作成し、原因不明の血栓症患者33名について解析をおこなった。②凝固反応は全てリン脂質二重膜上で起こるが、これまでに脂質二重膜を形成して凝固因子との結合実験を行った報告は皆無である。Liposome flotation assay法を用いて、脂質二重膜と凝固因子の結合を直接検出するアッセイ系を構築した。さらに、高速原子力間顕微鏡(HS-AFM)を用いて、凝固因子とリン脂質膜の結合過程の動的解析を世界で初めて実施した。③AT欠乏症ホモ接合体は胎内致死をきたすため、マウスなどの哺乳類モデルによって解析することは困難である。そこで、初期胚が透明で生きたまま簡便に組織観察を行うことができるゼブラフィッシュを用いてゲノム編集を行いATノックアウト(KO)体を作成し、胎内致死変異の病態を解析するための新規ツールを開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①血栓性素因関連遺伝子群(54遺伝子)のNGSパネルを用いて、原因不明の血栓症患者33名について解析をおこなった。既知の血栓症としては、PS・PC・AT欠乏のバリアントを全部で6例同定したが、興味深いことに、TFPIおよびアネキシンVの新規バリアントがそれぞれ1例ずつ同定され、血栓症との関連が強く示唆された。 ②構築したLiposome flotation assayを用いて、脂質結合部位に変異を有するトロンビンとの脂質結合評価を行なった。リコンビナントプロトロンビンを高純度精製し、高速原子力間顕微鏡(HS-AFM)にてマイカ基板上でのプロトロンビンを観察した。その結果、全長0.8nmのタンパク質が多く確認され、1分子レベルでのプロトロンビンの撮影に世界で初めて成功した。また、マイカ基板上に生体膜を模したリン脂質二重膜を作製し、リン脂質膜辺縁部に結合したプロトロンビンを可視化することに成功した。さらに、経時的に観察を続け、プロトロンビンがリン脂質膜辺縁部に結合する過程をリアルタイムで撮影することにも成功した。 ③ATノックアウト体はwild typeと比較すると生存期間が短縮していることを明らかにし、現在生存曲線を作成中である。ノックアウト体では明らかな血管系の異常は認めなかった。 ④PC欠乏症について、human Gene Mutation Data Baseなどを用いて遺伝子バリアント部位と臨床情報をAIに入力し、新たな遺伝子バリアントについて血栓症の重症度など予測するモデルを作成し、日本血液学会に報告した。
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今後の研究の推進方策 |
①血栓症との関連が想定されるTFPIならびにアネキシンVの変異遺伝子を組み込んだ遺伝子組換え蛋白を作製し、発現実験を行う。変異蛋白が分泌される場合は、その機能解析を行い、血栓症を発症する機序を解明する。TFPI欠乏症ならびにアネキシンV欠乏症による血栓症についての詳細な検討は、世界初となる。 ②HS-AFMにて、rPTがリン脂質二重膜の辺縁部に結合しやすい特性を認めたが、リン脂質膜辺縁と相互作用したrPTはマイカ基板上とも相互作用していると考えられ、生体内の反応とは異なる可能性がある。rPTがリン脂質膜の曲率を認識し、例えば凸部または凹部に結合しやすいなどの特性を明らかにするため、凹凸基板上にリン脂質二重膜を一面に作製し、rPTとリン脂質二重膜の結合動態をより詳細に解析する予定である。 ③ATノックアウト体ゼブラフィッシュの血栓形成のライブイメージングや、赤血球や血小板、血管内皮に蛍光標識し、さらに詳細に血栓形成メカニズムを観察する。 ④AIに遺伝子バリアントの部位と臨床情報をさらに多く入力し、新たな遺伝子バリアントについて血栓症の重症度など予測するモデルを作成する。
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