研究課題
基盤研究(C)
近年、統合失調症発症に強く関わる稀なゲノム変異が同定されつつある。本研究では、発症に関わる稀なゲノム変異が同定された、遺伝的背景が明確な統合失調症死後脳において、分子生物学的情報をもとに、神経細胞やグリア細胞の形態学的変化、神経ネットワークの変化を、免疫組織学的技法を用いて神経病理学的に検討することにより、分子生物学的な背景にもとづいた疾患特異的な脳病理所見を見出す。さらに同様の検証を稀なゲノム変異を伴わない統合失調症死後脳でも行い、得られた脳病理所見と臨床表現型との関連を検討することで組織表現型と臨床表現型との関連を明確化する。
現在までに稀なゲノム変異を伴う統合失調症死後脳を複数同定しているが、新規症例を増やすため、関連施設において統合失調症を含む精神神経疾患の剖検を継続し、新たに32例の死後脳の蓄積を行った。また、死後脳の臨床情報(発症年齢、罹病期間、臨床症状、臨床経過、薬剤、身体併存疾患、病前の社会適応、家族歴、神経画像など)の収集、蓄積に加え、加齢性変化を中心とした一般神経病理学的評価を15例において行い、これらの情報、所見を以降の解析のためにデータベース化した。得られた死後脳のゲノム解析も継続して行い、稀なゲノム変異を伴う統合失調症死後脳の同定を推し進めた。今年度は特に、稀なゲノム変異を伴う統合失調症をはじめとした精神神経疾患死後脳において、アルツハイマー病理などの一般神経病理学的所見と肉眼的な脳形態変化との関連の検討を中心に行った。X染色体に大規模な重複を認める統合失調症、MBD5欠失を伴う統合失調症、DMD欠失を伴う統合失調症などの稀なゲノム変異を伴う統合失調症死後脳において、海馬を含む側頭葉及び前頭葉に特に着目して神経病理学的観察を行い、側脳室の拡大や前頭葉、側頭葉皮質の形態変化を疑う所見(皮質の菲薄化やPatch状の変化など)を認めた。これらの形態学的な変化はアルツハイマー病理など既知の神経変性疾患の病理では説明することが困難であり、統合失調症の病態に関連した変化である可能性が示唆されたが、その特異性に関しては、今後更なる検討を要する。
2: おおむね順調に進展している
2022年度も引き続き例数を増やすために死後脳の収集・蓄積を行うことは目標の一つであったが、2022年は関連施設において、32例の死後脳の収集・蓄積を行うことができた。さらに、これらの症例に関して、順次、生前の臨床診断、臨床経過、病前の社会適応、家族歴、神経画像等の臨床情報の収集及び一般神経病理所見の検討を行い、得られた死後脳のゲノム解析も継続して行った。X染色体に大規模な重複を認める統合失調症、MBD5欠失を伴う統合失調症、DMD欠失を伴う統合失調症などの稀なゲノム変異を伴う統合失調症死後脳において、今後検討すべき、形態変化を確認し、一定の推論を得ることができた。これらのことから、概ね順調に進展していると考えられる。
今年度、検討を中心的に行ったX染色体に大規模な重複を認める統合失調症、MBD5欠失を伴う統合失調症、DMD欠失を伴う統合失調症に加え、22q1.2欠失を伴う統合失調症やGLO1フレームシフトを伴う統合失調症などの稀なゲノム変異を伴う統合失調症について、今年度得られた脳の形態変化に加え、認知機能を含む臨床症状に着目して、免疫組織学的な検討を行い、その背景病態を明確化する
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