研究課題
基盤研究(C)
近年、統合失調症発症に強く関わる稀なゲノム変異が同定されつつある。本研究では、発症に関わる稀なゲノム変異が同定された、遺伝的背景が明確な統合失調症死後脳において、分子生物学的情報をもとに、神経細胞やグリア細胞の形態学的変化、神経ネットワークの変化を、免疫組織学的技法を用いて神経病理学的に検討することにより、分子生物学的な背景にもとづいた疾患特異的な脳病理所見を見出す。さらに同様の検証を稀なゲノム変異を伴わない統合失調症死後脳でも行い、得られた脳病理所見と臨床表現型との関連を検討することで組織表現型と臨床表現型との関連を明確化する。
現在までに稀なゲノム変異を伴う統合失調症死後脳を複数同定しているが、新規症例を増やすため、関連施設において統合失調症を含む精神神経疾患の剖検を継続し、新たに14例の死後脳の蓄積を行った。また、死後脳の臨床情報(発症年齢、罹病期間、臨床症状、臨床経過、薬剤、身体併存疾患、病前の社会適応、家族歴、神経画像など)の収集、蓄積に加え、加齢性変化を中心とした一般神経病理学的評価を15例において行い、これらの情報、所見を以降の解析のためにデータベース化した。得られた死後脳のゲノム解析も継続して行い、新たに2症例において統合失調症との関連が推量されるゲノム変異が同定された。X染色体に大規模な重複を伴う統合失調症では、前年度に引き続いて、脳形態及び組織学的な解析を行い、さらに他の統合失調においても同様の検討を行った。X染色体に大規模な重複を伴う統合失調症では、他の統合失調症と比較して、上・前前頭回の皮質厚が薄いことが傾向として認められた。また、上・中前頭回の神経細胞密度を計測したところ、他の統合失調症と比較して皮質III層、V層において神経細胞密度が増加している傾向が認められた。比較する症例数が少なく、今後さらに症例数を増加して検討する必要があるが、この所見からはX染色体に大規模な重複を伴う統合失調症におけるニューロピルの減少が示唆され、本症例ではゲノム変異に伴って、シナプスの減少や神経突起の伸長・分枝異常等の変化が起きている可能性が示唆された。DMD欠失を伴う統合失調症においても、前年度に引き続いて、組織学的な検討を行い、本症例で認められた単一神経細胞ヘテロトピアやサイズの不均一な神経細胞の柱状配列と、ゲノム変異に起因する神経細胞の成熟・遊走異常について検証した。
2: おおむね順調に進展している
2023年度も引き続き例数を増やすために死後脳の収集・蓄積を行うことは目標の一つであったが、2023年は関連施設において、14例の死後脳の収集・蓄積を行うことができた。さらに、これらの症例に関して、順次、生前の臨床診断、臨床経過、病前の社会適応、家族歴、神経画像等の臨床情報の収集及び一般神経病理所見の検討を行った。得られた死後脳のゲノム解析から新たに2症例、統合失調症との関連が推量されるゲノム変異が同定された。X染色体に大規模な重複を認める統合失調症では、前年度の推論をもとに、他の統合失調症も含めた検討を行った。比較する症例数はまだ少ないが、本症例の形態変化・組織学的な変化をさらに明確化することができた。DMD欠失を伴う統合失調症でも、神経細胞の成熟・遊走異常によると思われる組織学的変化の検索を進め、これらのことから、概ね順調に進展していると考えられる。
今年度、検討を中心的に行ったX染色体に大規模な重複を認める統合失調症を中心に、さらに組織学的な検討を進める。具体的には、上・中前頭回の相対的な神経細胞の密度の増加から、想定される病態(ニューロピルの減少≒シナプスの減少、神経突起の伸長・分枝異常など)について、さらに組織学的な検証を行い、背景病態を明確化する。他の統合失調症でも同様の検討を行い、比較検証を行う。また、これらの所見を参考としながら、他の稀なゲノム変異を有する統合失調症においても同様の検討を行い、それぞれの組織学的な特徴をさらに明確化、背景のゲノム変異との関係を検討する。
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