研究課題
基盤研究(C)
代表者の所属する研究室では、統合失調症患者の約4割に終末糖化産物(AGEs)のひとつであるペントシジン(PEN)の蓄積を発見した。しかし、この統合失調症患者内で増加したPENの前駆物質が不明なため、PEN蓄積の適した細胞・動物モデルの構築がかなわず、PEN蓄積が神経系に与える影響については未知な点が多い。我々は近年、PENの前駆物質として「グルクロン酸」を新たに同定した。本研究課題では、このグルクロン酸による新たなPEN合成経路を利用し、PEN蓄積細胞モデル及びマウスモデルを構築することで、PEN蓄積がどのような分子機序により統合失調症の病態に関与するのかを明らかにすることを目的とする。
昨年度までに作製したペントシジン(PEN)蓄積細胞モデルを用いて、細胞の形態やスパインの形態についての解析を行い、PEN蓄積によりスパインの形態に異常が生じていることを明らかにした。また、Akr1a1 KOマウスの解析では 血漿中にペントシジン(PEN)が蓄積することを明らかにし、PEN蓄積マウスモデルの確立に成功した。PEN蓄積マウスモデルは攻撃性の増加などの行動異常を呈し、その行動評価値は血中PEN値と相関することを明らかにした。臨床医学的な解析においては、血中GlcA値と服薬量(クロルプロマジン換算抗精神病薬およびモル換算向精神薬)の相関を解析したところ、有意な差は認められなかった。さらに、PANSSのスコアを目的変数、GlcA値を説明変数とした回帰分析では、向精神薬服薬量を調整後も有意な関連は残った。これらの統合失調症患者におけるGlcA値の上昇が、服薬量にかかわらず、罹病期間および特異的症状の重症度と関連していることを示しており、統合失調症の病態生理におけるGlcAの関与の可能性を示唆している。さらに、昨年度までに見出されたPEN合成阻害作用を持つ天然化合物の解析においては、既存のPEN合成阻害剤(ピリドキサミン)よりも高い阻害作用を示すこと、また合成されたPENを除去するのではなく、合成過程を阻害することを明らかにした。さらに、天然化合物のPEN合成阻害能は抗酸化能と有意に相関することが分かり、天然化合物がPEN合成における酸化プロセスを阻害することで、PEN合成を抑制している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
概ね順調である。本年度に予定していた、PEN蓄積細胞モデルの形態学的解析、またPEN蓄積マウスモデルの確立と行動学的な解析まで終えることができた。また、臨床学的な解析では、GlcAと関連のある臨床特徴を明らかにし、服薬の影響を考慮した解析まで行った。さらにPEN合成抑制能を持つ天然化合物については、その作用機序までを明らかにすることができた。
最終年度となる次年度は、細胞モデルおよびマウスモデルを用いて、PEN蓄積が障害をもたらす分子機序についてさらに明らかにしていく。臨床医学的な解析およびPEN合成阻害化合物の探索に関する結果については、論文化を進めたい。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (6件) 備考 (2件)
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