研究課題
基盤研究(C)
代表者の所属する研究室では、統合失調症患者の約4割に終末糖化産物(AGEs)のひとつであるペントシジン(PEN)の蓄積を発見した。しかし、この統合失調症患者内で増加したPENの前駆物質が不明なため、PEN蓄積の適した細胞・動物モデルの構築がかなわず、PEN蓄積が神経系に与える影響については未知な点が多い。我々は近年、PENの前駆物質として「グルクロン酸」を新たに同定した。本研究課題では、このグルクロン酸による新たなPEN合成経路を利用し、PEN蓄積細胞モデル及びマウスモデルを構築することで、PEN蓄積がどのような分子機序により統合失調症の病態に関与するのかを明らかにすることを目的とする。
マウス初代培養神経細胞にグルクロン酸(GlcA)を添加することにより、添加量及び時間依存的にペントシジン(PEN)が蓄積することを明らかにし、PEN蓄積細胞モデルの確立に成功した。細胞生存率測定を行った結果、PEN蓄積による細胞死の顕著な誘導は生じないことも明らかとなった。また、RNA-seqによる網羅的な遺伝子発現解析の結果、GlcA添加・PEN蓄積により、112個の遺伝子発現が有意に増加し、19個の遺伝子発現が有意に減少した。さらに、発現変動遺伝子を用いたGene Ontologyエンリッチメント解析では、ミトコンドリア機能遺伝子やリボソーム関連遺伝子、細胞外マトリクス関連遺伝子に変動が認められ、Pathwayエンリッチメント解析では糖鎖修飾関連遺伝子に変動が認められた。臨床医学的な解析においては、統合失調症患者は健常者と比較してGlcA値の増加を示した(患者218名および健常者117名)。年齢と性別を調整したロジスティック回帰分析でも、統合失調症と血漿中GlcA濃度との有意な関連性が示され、GlcAが1SD(標準偏差)増加すると統合失調症のオッズは約2倍増加した。また、臨床的特徴のうち、GlcAは罹病期間およびPANSSの陰性症状合計得点と有意に関連していることを見出した。一方、PEN合成阻害剤のスクリーニングにおいては、天然化合物を用いたin vitro解析系により、PEN合成阻害に関与する特長的な分子骨格の同定まで完了した。
2: おおむね順調に進展している
概ね順調である。本年度に予定していた、PEN蓄積細胞モデルの確立及び遺伝子発現解析、また、統合失調症におけるGlcA蓄積と臨床症状との関連について解析を着実に終えた。さらにPEN合成抑制能を持つ候補化合物の同定にまで至ることができた。
次年度以降、細胞モデルを用いてPEN蓄積が障害をもたらす分子機序について明らかにしていく。また、PEN蓄積マウスモデルの確立も検討を進めたい。臨床医学的な解析では、患者ゲノムを用いた遺伝学的な解析や服薬量との関係についてもさらに解析を進める予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
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