研究課題
基盤研究(C)
現役時代に脳震盪などの頭部外傷を繰り返し負ったスポーツ選手が、数年~数十年経過した後 記憶障害や抑うつ症状などの様々な神経精神症状(遅発性脳障害)を呈することがあり、近年大きな社会問題となっている。一般的に『ボクサー脳症』として知られる病態であるが、現在は慢性外傷性脳症(CTE)と呼ばれている。CTEは、脳内にタウが過剰に蓄積する神経変性疾患の一種に位置づけられているが 存命中の確実な診断方法は存在しない。本研究では、遅発性脳障害におけるタウPETや頭部MRIの画像的特徴や、神経心理検査・臨床所見と の関係性を評価し、遅発性脳障害の病態解明や早期での個別診断法の確立を目指す。
本研究では、現役選手時代に脳震盪などの頭部外傷を繰り返し負ったスポーツ選手を対象に、記憶障害をはじめとする認知機能障害や高次脳機能障害、精神症状などの遅発性脳障害に対し、タウPETや頭部MRIを用いた病態解明や早期での個別診断法の確立を目指す。2023年度はすでに蓄積されている元プロボクサーを中心としたスポーツ選手のMRI画像の中で、3次元T1強調像(3D-T1WI)とT2強調像を網羅的に評価し、異常所見の有無を評価した。 結果、3D-T1WIで乳頭体萎縮という特徴的な所見が見られ、記憶障害を評価する臨床パラメータとの相関を明らかにした論文が、open accessの英文誌に掲載された(Miyata, et al. Sci Rep 2024)。近年glymphatic systemという脳間質液を介したホメオスターシスの維持機構が注目されており、頭部外傷によるglymphatic systemの障害が、遅発性脳障害や慢性外傷性脳症の発症に寄与する可能性が示唆されている。そこで、glymphatic systemの間接的なMRIマーカーである、拡散テンソル画像(DTI)を用いたALPS-indexと、血管周囲腔拡大の体積を評価し、それぞれの臨床パラメータや血液バイオマーカー、タウPETとの関連を評価した。それぞれの研究成果について学会発表を行い、2回学会賞を受賞した(第42回日本認知症学会学術集会 学会奨励賞、第53回日本神経放射線学会ポスター賞(一般最優秀演題))。現在これらの研究成果について論文を執筆中である。
2: おおむね順調に進展している
2023年度は、3D-T1WIを用いて元スポーツ選手に乳頭体萎縮という特徴的な所見が見られ、記憶障害と関連があることを明らかにした。2022年度より論文を投稿を開始し、今年度英文誌に掲載された(Miyata, et al. Sci Rep 2024)。また、2023年度に元スポーツ選手の3D-T1WIやT2WIなどから得られた脳画像形態の異常をまとめ、Brain and Nerveに総説を発表した。さらに、頭部外傷とglymphatic systemの異常との関連を明らかにするために、拡散テンソル画像(DTI)を用いたALPS-indexと、血管周囲腔拡大の体積を評価し、それぞれの臨床パラメータとの関連を含め学会発表を行った。現在論文執筆中であり、2024年度中の投稿開始を目指す。
2023年度に学会報告を行った研究成果について論文執筆を進め、2024年度中の投稿を目指す。論文が採択された場合は、open accessとし、本研究成果を国内外に向けて広く公開する。2024年度も症例の蓄積を継続し、3D-T1WIやT2WI以外のMRI画像についても網羅的な評価を継続し、臨床所見の他、タウPETや血液バイオマーカーとの関連についても評価を開始する。
すべて 2024 2023 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件)
Scientific Reports
巻: 14(1) 号: 1 ページ: 7029-7029
10.1038/s41598-024-57383-6
Frontiers in Aging Neuroscience
巻: 7(16) ページ: 1362457-1362457
10.3389/fnagi.2024.1362457
BRAIN and NERVE
巻: 75 号: 6 ページ: 769-778
10.11477/mf.1416202413