研究課題/領域番号 |
22K07919
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52050:胎児医学および小児成育学関連
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
藺牟田 直子 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 助教 (00643470)
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研究分担者 |
西 順一郎 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (40295241)
大岡 唯祐 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 准教授 (50363594)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | EAEC / atypical EAEC / aggR / biofilm / HEp-2 assay / ESBL / CTX-M |
研究開始時の研究の概要 |
腸管凝集性大腸菌(Enteroaggregative Escherichia coli, EAEC)は、わが国の小児由来下痢症大腸菌で最も多く検出されるが、臨床現場での認識は十分ではない。EAECは、転写調節因子AggR reguronを持つtypical EAEC(tEAEC) と持たないatypical EAEC(aEAEC) に分けられ、我々はtEAECの薬剤耐性・病原遺伝子獲得を明らかにした。近年aEAECによる集団食中毒事例増加により、その分子疫学解析と病原性の解明が求められる。本研究は、tEAECの研究をもとに薬剤耐性・病原遺伝子水平伝播におけるaEAECの役割の解明を目的とする。
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研究実績の概要 |
2023年度はaggR遺伝子を保有しないatypical EAEC (aEAEC) 143株について、EAEC特有の線毛AAF(aggregative adherence fimbriae)をはじめとするEAECの病原遺伝子の保有状況を検討し、aggR遺伝子保有EAEC(tEAEC)と同じ系統が示唆されたaEAECのMLSA(multilocus sequence analysis)による系統解析を行い、tEAECの系統と比較を行った。 EAECのプラスミド性の病原遺伝子保有率は、EAEC特有の凝集抑制遺伝子aapとAap排出ポンプ遺伝子aatAがそれぞれ6.3%(9株)、AAF遺伝子が16%(23株)、腸管毒素遺伝子petが2.1%(3株)で、染色体性の病原遺伝子保有率は、aaiCが7%(10株)、腸管毒素遺伝子pic が15.4%(22株)、sepAが7%(10株)、sat が9.1%(13株)であった。これらEAECの病原遺伝子は古典的なEAECに多く見られる血清型O111、O126、O127の株が多く保有していたことから、tEAECと同じ系統である可能性があると考え、AAFを保有する23株のMLSAによる系統解析を行いtEAECの系統と比較した。その結果、AAF保有aEAECの57%(13株)がtEAECと同じ系統に属することが分かった。Phylogroup B1に属するST40、ST200、ST23 cplxのtEAECとaEAECは、染色体性のaaiCとプラスミド性のaatAとaapを高頻度(ほぼ100%)で保有していた。また、ST200のすべてのtEAEC株がAAF2、すべてのaEAEC株がAAF1を保有し、ST40、ST23 cplx、ST95はそれぞれAAF5、AAF4とAAF3を保有していたことから、STごとに保有しているAAFの種類に偏りがあることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、昨年度検出したaEAEC 143株についてEAECの病原因子を検討した結果、EAECに特有の病原遺伝子aap、aatA、AAF遺伝子を保有する株がみられた。これらの株のO血清群が古典的なEAECに多く見られるO111、O126、O127であったことからtEAECと同じ系統に属することが示唆されたため、aEAECの中からEAECに特異的な線毛AAFを保有する23株を抽出し、MLSAによる系統解析を行い、これまでの研究で明らかにしたtEAECの系統と比較した。その結果、AAFを保有するaEAECの57%がtEAECと同じ系統に属することが分かった。Phylogroup B1にはST40、ST200、ST23 cplxが属し、aEAECとtEAECはともに染色体性の病原遺伝子aaiCとプラスミド性のaatAとaapを高頻度で保有していた。ST40はAAF5、ST23 cplxはAAF4を保有していたが、ST200ではaEAECはAAF1、tEAECはAAF2と異なるAAFを保有していた。Phylogroup B2にはST95が属し、aEAECとtEAECの全株が尿路病原性大腸菌(UPEC)の付着因子papを保有し、抗血清因子issも多くみられた。また新生児髄膜炎の病原因子の一つであるK1莢膜遺伝子はaEAECに多くみられることが分かった。一方、これまでに報告されている別のaggR遺伝子のプライマーでAAF保有aEAEC 23株のPCRを行った結果、8株(34.5%)が陽性となったことから、使用するプライマーによって検出頻度が異なる可能性が示唆された。 以上のことから、EAECの同定には現在行われているaggRのPCRによる検出では不十分であるため、より高い感度と特異度を持ったスクリーニング方法の開発が必要であることが明らかになった。またaEAECの中にはAAFを保有しない株が多く、凝集付着に関連する未知の付着因子の検討も必要である。
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今後の研究の推進方策 |
今回、EAECの既知のAAFを保有するaEAEC 23株の57%がtEAECと同じ系統に属すること、STごとに保有するAAFや病原遺伝子に偏りがあることが明らかになった。また、使用するaggR遺伝子のプライマーによってEAECの検出頻度が異なる可能性が示唆されたことから、EAECの検査において、現在行われているaggR遺伝子のみのスクリーニングでは不十分であり、aggR遺伝子だけでなくaatA、aap、AAF遺伝子も同時に検査する必要であること、あるいは、より感度と特異性の高い新規スクリーニング法の開発が必要であることが分かった。 既知のAAFを保有しないaEAEC 120株の中にバイオフィルム形成能の高い株やHEp-2細胞付着試験で強い凝集付着を示す株がみられたことから、AAF以外の未知の線毛の可能性が示唆され、今後この未知の線毛について検索する予定であり、この120株を含めた広義のEAECを簡便に検出するための新たな検出マーカーの探索が必要である。また、tEAECとaEAECはともに外来病原遺伝子や薬剤耐性遺伝子を保有する株が多くみられたことから、EAECの特徴である強い凝集付着やバイオフィルム形成能が病原遺伝子や薬剤耐性遺伝子の水平伝播と関連するかどうかを検討する予定である。
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