研究課題/領域番号 |
22K07921
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52050:胎児医学および小児成育学関連
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
時政 定雄 大阪公立大学, 大学院医学研究科, 准教授 (80403187)
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研究分担者 |
濱崎 考史 大阪公立大学, 大学院医学研究科, 教授 (40619798)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | 巨大血小板 / 破砕赤血球 / ホスホリパーゼC / プロテインキナーゼC / adducin / F-アクチン / スペクトリン |
研究開始時の研究の概要 |
先天性巨大血小板減少症の遺伝的背景は多様であり、現在でも確定診断に至る症例は半数に満たない。われわれは先天的に巨大血小板と破砕赤血球を呈する貧血を伴う未知の造血器疾患を見出した。本例は既知の巨大血小板減少症の原因遺伝子に異常を認めず、エクソーム解析にて、phospholipase Cβ3 (PLCβ3) 遺伝子の異常が確認された。一般にPLCβ3の下流にある protein kinase C (PKC) が赤芽球や巨核球で発現していることが知られており、本研究では、PLCβ3の異常により巨大血小板減少症と、赤血球の形態異常が発生することを検証し、新たな治療法の創出を目指す。
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研究実績の概要 |
われわれは先天的に巨大血小板と破砕赤血球を呈する貧血を伴う未知の造血器疾患を見出した。本例は既知の巨大血小板減少症の原因遺伝子に異常を認めず、エクソーム解析にて、phospholipase Cβ3 (PLCβ3) 遺伝子の異常が確認された。一般にphospholipase Cの働きによりPKCが活性化される。PKCには複数のサブタイプが存在し、赤芽球、巨核球にはともにPKCα、PKCδその他が発現している。また、PKC は血小板や赤血球において adducin をリン酸化し、リン酸化された adducin は F-アクチンとスペクトリンの分離を促して膜骨格に影響するという報告がある。本研究では変異型PLCβ3の巨核球に対する影響がPKC阻害薬によってレスキューされるか検証する。次に血小板と赤血球におけるadducinのリン酸化を患者と正常ヒト細胞で比較する。 まず巨大血小板減少症の原因を調べるため、マウス胎児肝細胞にレトロウイルスベクターを用いて変異型PLCβ3を導入し形質転換を行い、分化巨核球の胞体突起膨隆部数が減少することを確認した。本例のPLCβ3 変異は X-Y ドメインの近傍に位置し、機能が恒常的に活性化されることが推定され、実際、変異型PLCβ3は野生型と比べてPKCをより強く活性化することを確認した。次にPKCαとPKCδのそれぞれの阻害薬を用いて、変異型PLCβ3の巨核球に対する影響を評価したところ、PKCδ阻害薬で胞体突起膨隆部数の減少が回復した。一方正常ヒトと患者の赤血球において、ウエスタンブロット法を用いてadducinおよびリン酸化adducinの発現をみたところ、患者赤血球は正常ヒト赤血球と比較してadducinが高度にリン酸化されていた。これらの結果から先天的な貧血と血小板減少症の共通の原因は、adducinの高度リン酸化であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マウス胎児肝細胞に変異型PLCβ3をトランスフェクションするときに、レトロウイルスベクターを用いて実験を行っていたが、遺伝子導入の効率が不安定で、実験結果にばらつきがみられた。このためプラスミドによるトランスフェクションを計画し、準備のために時間を要した。 血小板と赤血球膜に対して抗adducin、抗リン酸化adducin、抗スペクトリン、抗F-アクチン抗体を用いて蛍光抗体染色を行うため、血小板と赤血球をスライドグラス上にそれぞれ固定した標本を作製するのに時間を要した。続いて抗体反応による蛍光染色を行っている。 HELやK562などの細胞株を用いた分化実験についても準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
PKCαとPKCδのそれぞれの阻害薬を用いて、変異型PLCβ3の巨核球に対する影響を評価したところ、PKCδ阻害薬で胞体突起膨隆部数の減少がレスキューされることを示唆する結果を複数の実験を通じて得た。次にα、δ以外のPKCファミリーの阻害薬を用いて評価する。 ヒト赤白血病由来の細胞株HELは、赤芽球系と巨核芽球系分化マーカーを同時に発現しており、特にPMA刺激による巨核芽球への分化モデルとしてしばしば実験に用いられる。本研究でHELをPMAなどで刺激し巨核芽球系に分化させ、その過程においてPKCファミリーの発現について調べる。 次に正常ヒトと患者の血小板と赤血球を用いて、抗adducin、抗リン酸化adducin、抗スペクトリン、抗F-アクチン抗体による蛍光抗体染色を行い、血小板と赤血球の膜骨格の状態を比較する。 また、マウス胎児肝細胞に変異型PLCβ3を導入し形質転換を行い、コロニーアッセイを用いて赤芽球の分化異常を調べる。HELやK562などの細胞株をヘミンなどで刺激し赤芽球系へ分化させ、その過程においてPKCファミリーの発現について調べる。 さらに、より生理的な実験環境を得るため、患者由来 iPS 細胞を樹立して造血幹細胞から赤芽球、巨核芽球への分化の過程で、どこに異常がおこっているか解析する。樹立した疾患特異的iPS 細胞をまず造血幹細胞へと分化させ、その後巨核球 (血小板)、赤芽球(赤血球)への分化を試みる。患者由来のiPS細胞から分化・生成した血小板、赤芽球と、健常人のiPS細胞から作成した細胞で、遺伝子発現プロファイルの差異を評価する。以上より得られた結果をとりまとめ、成果の発表を行う。
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