研究課題/領域番号 |
22K07927
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52050:胎児医学および小児成育学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
真嶋 隆一 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 臨床検査部, 上級専門職 (00401365)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 先天代謝異常症 / ムコ多糖症 / 酵素活性 / バイオマーカー / 治療モデル |
研究開始時の研究の概要 |
MPS IIはライソゾーム病の1つである小児希少性疾患である。良く知られる特徴としてグルコサミノグリカンの全身性の蓄積が知られている。一方、主な臨床症状は中枢神経系で認められる脳の退行、骨格異常、肝脾腫を主とする内臓性疾患などである。本研究では、ヒトにおいて高頻度で認められる点変異を有する疾患モデルマウスを作出し、脳(中枢神経系)を中心に病態モデル解析を行う。具体的には、免疫染色法によりアストログリオーシスの有無を検討する。さらに治療法開発として研究期間後半で動物実験を行う。
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研究実績の概要 |
MPS IIはライソゾーム病の1つである小児希少性疾患である。原因遺伝子はイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)である。良く知られる特徴としてグルコサミノグリカンの全身性の蓄積や電顕による空胞形成の指摘がある。主な臨床症状は中枢神経系で認められる脳の退行、骨格異常、肝脾腫を主とする内臓性疾患などである。ヒトにおいては重症型と軽症型の2病型に分けられており、脳の退行があるものが重症型、そうでないものが軽症型と区分されている。本疾患の遺伝子変異の中で多いものはIDS遺伝子の近傍に存在する偽遺伝子IDS2との相同組換による機能欠失である。次いで点変異体の頻度が高い。生化学的にはIDS-IDS2の相同組換え体の場合には残存酵素活性は無い。一方、点変異体の場合には酵素活性が残存する場合も多く知られている。点変異の場合、具体的には活性中心、この近傍、および基質と活性中心の立体的な保持のために必要な陽性荷電基を有するアミノ酸などに変異がある場合には酵素活性値が著減する。一方、活性中心から離れ、タンパク質表面に認められる場合であって3次元的な構造変化が少ない点変異体の場合には、酵素活性が残存し、従って軽症型となる例も多い。本研究では、ヒトで重症型に区分される点変異を有する疾患モデルマウスを作出し、脳(中枢神経系)を中心に病態モデル解析を行う。その後得られた表現型の知見をもとに、研究期間後半で動物実験を中心とする治療法開発の検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ムコ多糖症II型(OMIM 309900, mucopolysaccharidosis type II, MPS II)の表現型のうち、脳、骨格異常、内臓性疾患の表現型の解析を行うことを目的としている。令和4年度の成果として、疾患モデルマウスにおける早期の致死性、内臓性疾患、骨格異常などの表現型などの成果を得た(論文投稿中)。本研究で作出した疾患モデルマウスは点変異を有するが、ヒトにおける病型は重症型であり、マウスにおいても多彩な表現型を呈しているため重症型様であると考えている。研究開始時に計画していなかったことではあるが、論文改定作業中における査読者との議論の中で近年の高精度化したAIによるタンパク質の構造変化と機能推定を行うことを提案された。実際に行ったところ、本疾患モデルマウスは点変異を有するもののタンパク質レベルでの構造変化が大きいことを可視化することができた。また生化学的には疾患モデル動物作成時に導入した変異は活性中心近傍のアミノ酸であり、酵素活性に何らかの影響を持つと考えていたが、その後の文献検索等で当該アミノ酸はIDS酵素の活性化に必要な別の酵素の標的配列を含んでいることが明らかになった。本研究の計画の後半部分で治療法の開発の計画があり、この実施に際してはこの活性化因子によるIDS酵素活性の最大化は重要な検討課題である。この活性化因子の基質はヒトでは17種類、マウスでは14種類あることがバイオインフォマティックス解析の結果から報告されている。そこで現在は他の酵素活性の測定系を立ち上げ、IDS酵素への活性化因子への影響を、他の酵素活性と合わせて検討できるような実験系の確立を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度においては内臓性疾患の表現型の報告を行った。この中で内臓性疾患を指標とした治療法の開発を一部進めた。現時点での治療効果は低く実用性に足るものではないが今後の研究のストラテジーの一つとして有用な領域と考えている。このため、令和5年度においては、計画を一部変更して内臓性疾患の治療法の開発を進めることを考えている。これまでの先行研究ではアデノ随伴ウイルス、レンチウイルスなどのベクターシステムが確立している。こうした状況を踏まえて、今後の研究の推進方策として、gain-of-functionで能動的に得られるデータに対する新規な発見を期待して治療法開発を加速する予定である。一方、表現型の解析研究についてはMPS IIの他のモデルマウス、MPSの他の病型(MPS I~MPS VII)、さらには約50知られているライソゾーム病の疾患モデルマウスで共通に認められている現象も多い。具体的には、脳の表現型については、これまでの研究からライソゾーム病で上昇するマーカー(例:LAMP2)などの上昇が知られている。こうした先行研究のfollow-upも重要であり、引き続き並行して進めてゆく。また内臓性疾患の解析を進めてゆく中で、近年提唱されているヒトで診断に有用である新規バイオマーカーの臓器分布を本疾患モデルで検討したところ肝臓での蓄積が多いことが分かった。このバイオマーカーはヘパラン硫酸の分解物の可能性が高いが構造決定には至っていない。具体的には硫酸基の付加位置やイズロン酸/グルクロン酸の区別(カルボキシル基の立体異性体の区別)が質量分析では難しい。ヒトとマウスの代謝の違いを念頭において、この新規バイオマーカーの同定と生成経路の解明も進めてゆきたい。
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