研究課題/領域番号 |
22K07941
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52050:胎児医学および小児成育学関連
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
桑原 康通 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30590327)
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研究分担者 |
奥田 司 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任教授 (30291587)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | SWI/SNF複合体 / ラブドイド腫瘍 / RUNX1 / TRKA |
研究開始時の研究の概要 |
悪性ラブドイド腫瘍(malignant rhabdoid tumor:以下MRT)は1歳未満の乳幼児の主に脳や腎臓に発生するきわめて予後の悪い小児固形腫瘍である。ヒト腫瘍の発生には一般に複数のゲノム遺伝子変異の蓄積を必要とするが、MRTは、ゲノム上ただ一つのSNF5遺伝子変異によって発症すると考えられているユニークな腫瘍である。最近、MRTが神経堤細胞起源である可能性が示された。そこで本研究では、神経堤細胞の発生分化の観点から、クロマチンリモデリングとMRT発生との関わりを検討し、SNF5欠損によるエピジェネティクス発がん機構の解明と、新規治療戦略の確立を目指している。
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研究実績の概要 |
悪性ラブドイド腫瘍(MRT)の発生機序は不明であるが、最近の研究により、MRT細胞は神経堤細胞と関連していることが報告され、神経堤細胞の発生分化とMRT発生の関係を検討する。具体的には、NGFはTRKA受容体を介し交感神経の発生に寄与し、またTRKA受容体の転写にRUNX1が関与することも報告されていることからから、MRT細胞や他の細胞株での、SNF5やRUNX1の発現によるTRKA遺伝子の転写制御について検証する。昨年、TRKA遺伝子のプロモーターの転写活性にはSNF5が重要であり、RUNX1も影響することが示され、RUNX1とSNF5はTRKA遺伝子の発現に関与していることが示唆された。しかし、TRK遺伝子のプロモーターにRUNX1がリクルートされているかは明らかになっていない。本年度は、RUNX1がTRKA遺伝子のプロモーターにリクルートされているか検討した。TRKA遺伝子が正常に機能している神経芽腫細胞株IMR32細胞を用いて、RUNX1を発現させたときにRUNX1がリクルートされているかクロマチン免疫沈降法を用いて検討した。結果、驚いたことにRUNX1のリクルートを確認することができなかった。SNF5はRUNX1に間接的に機能することによってTRKA遺伝子の機能に影響している可能性が示された。 一方で近年、小児の先天奇形症候群であるCoffin-Siris症候群ではSNF5のC末端側のリシンやアルギニンといった塩基性のアミノ酸が1つ欠損していることによって知的発達の遅れをきたすが、MRTは発症しないことが知られている。この疾患でみられるSNF5の異常についても検討することで、腫瘍発生に関する新たな知見が得られるのではないかと想定した。Coffin-Siris症候群でよくみられるSNF5遺伝子におけるLys364del異常を持つベクターを作成し、今後の実験に使用することを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の実験を本年度に実施することができた。 1:TRKA遺伝子が正常に機能している神経芽腫細胞株IMR32細胞株を用いて、TRKA遺伝子プロモーターへのRUNX1のリクルートメントを検討した。TRKA遺伝子のプロモーターを解析すると5か所にRUNX1のコンセンサス配列を確認し、この部位にプライマーを設定した。IMR32 細胞にRUNX1をトランスフェクションし、抽出したタンパクをRUNX1抗体で免疫沈降しDNAを抽出した。DNAは先に作成したプライマーを用いて定量的PCRを行い評価した。結果、TRKA遺伝子のプロモーターにおいて5か所のRUNX1コンセンサス配列にRUNX1はリクルートメントされていなかった。 2: TRKA遺伝子プロモーターにおけるRUNX1の機能解析を3種類の長さのTRKA遺伝子のプロモーターを組み込んだルシフェラーゼアッセイベクターを用いてIMR32におけるRUNX1によるTRKA遺伝子の転写制御を検討したところ、TRKA遺伝子プロモーターの活性は、RUNX1の発現によって上昇した。一番短いプロモーター領域を導入したルシフェラーゼベクターで転写活性上昇したことから、RUNX1は転写開始点に近い領域で機能していることが示唆された。 3: pcDNA3-SNF5-Lys364delベクターを作成した。これによってSNF5のmutantによる転写機構への影響を評価することができるようになった。以上から、TRKA受容体の転写活性にSNF5とRUNX1は転写機構に関与していると示唆されるが、予想に反してRUNX1はTRKA遺伝子に直接は関与していない可能性が出てきた。SNF5のmutantも作成し、今後、SNF5の神経細胞発生への影響を、TRKA遺伝子での解析を進める。以上のように、ほぼ順調に研究は進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
神経芽腫細胞株IMR32やMRT細胞を用いて、SNF5欠損やSNF5の変異がTRKA遺伝子の発現に与える影響を解析する予定である。また、TRKA遺伝子プロモーター上でRUNX1がどの位置に関係して機能するかについては、クロマチン免疫沈降法(ChIPアッセイ)ではRUNX1の直接的な関与が見いだせなかった。そこで、ルシフェラーゼベクターに挿入したTRKA遺伝子プロモーターのRUNXコンセンサス配列を変異させ、RUNX1のTRKA遺伝子プロモーター上での挙動を検討し、RUNX1のTRKA遺伝子のプロモーターでの影響を確定したい。 さらに、Coffin-Siris症候群でよくみられるSNF5遺伝子におけるLys364del異常を持つベクターを用いて、TRKA遺伝子発現におけるSNF5の機能について精査をすすめたい。 SNF5とRUNX1のタンパク間相互作用は既に我々が確認しているところであるが、MRTに存在する新しいSWI/SNF複合体であるncBAFについても、その構成因子であるBRD9とRUNX1との相互作用を検討したいと考えている。 これらの手法によって、SNF5欠損がTRKA遺伝子の発現制御に与える影響やRUNX1とncBAFの関連性について検討を進め、MRT発生に関する新たな知見を得られることを期待しているところである。
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