研究課題/領域番号 |
22K08061
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53010:消化器内科学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
谷木 信仁 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (20627129)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 臓器相関 / 大腸癌 / 自律神経 / 神経免疫 |
研究開始時の研究の概要 |
大腸癌は免疫学的に”immune cold”であることから免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果は限定的である。申請者らは先行研究において、マウス肝臓から脳幹への左迷走神経の人為的に遮断により、peripheral regulatory T cell量が減少することを明らかにした。今回我々は、自律神経により調節される腸管免疫学的恒常性に着目し、予備検討において、迷走神経肝臓枝を遮断したマウスにおいて炎症性大腸癌が進展することを見出した。自律神経トーヌスの変化がICI応答性に与える影響に関してさらなる詳細な解析を行い、大腸癌の新規病態解明と臨床応用に展開するための基盤的研究に挑戦する。
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研究実績の概要 |
先行研究において、マウス腸管内の抗原提示細胞(APC)で高発現するムスカリン型アセチルコリン受容体の刺激により、peripheral regulatory T cell(pTreg)の分化・誘導に関わるレチノイン酸代謝遺伝子の発現が亢進することを見出し、肝臓から脳幹への左迷走神経を人為的に遮断することにより、レチノイン酸代謝遺伝子発現が障害されpTreg量が著しく減少することを明らかにした。今回我々は、自律神経により調節される腸管免疫学的恒常性に着目し、自律神経トーヌスの変化が免疫細胞を介して大腸癌発癌・進展および免疫チェックポイント阻害薬の応答性に与える影響を解析する。これまでに、迷走神経肝臓枝を遮断したマウスにおいては発癌物質のアゾキシメタン(Azoxymethane, AOM)と大腸炎を惹起するデキストラン硫酸ナトリウム(Dextran sulfate sodium, DSS)による炎症性大腸癌が進展することを見出した。さらに、迷走神経肝臓枝を遮断したマウスでは、腸管内に浸潤したT細胞は疲弊化したT細胞の特徴であるPD-1やTIGITといったT細胞の活性化を抑制するチェックポイント分子を高発現し、IFN-γ産生能が低下していたことから、T細胞の疲弊化を介して大腸癌進展の促進に寄与する可能性が示唆された。また、研究初年度においては、複数の大腸癌モデル動物の確立や迷走神経肝臓枝遮断や刺激などの手法、免疫不全モデル動物の繁殖および各種免疫不全モデル動物での大腸腺腫発生の再現性や免疫チェックポイント阻害薬投与系を確立など本研究遂行に不可欠な各種モデルおよび実験系の予備検討を詳細に行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発癌物質のアゾキシメタン(Azoxymethane, AOM)と大腸炎を惹起するデキストラン硫酸ナトリウム(Dextran sulfate sodium, DSS)による炎症性大腸癌モデルにおいて、迷走神経肝臓枝を遮断したマウスにおいては大腸癌発生個数および平均腫瘍径の有意な増加・増大を認めた。これらの結果をセカンドモデルでの検証を行うため、消化管に腫瘍を自然発症するヒト家族性大腸腺腫症のモデルであるApcMin/+マウスにDextran sulfate sodium, DSSを短期間投与することにより、非炎症状態における大腸腺腫に対する迷走神経肝臓枝を遮断の効果を検証するモデルを確立した。また、大腸および腫瘍内に浸潤する免疫細胞のフローサイトメトリーによる解析において、迷走神経肝臓枝を遮断したマウスでは、疲弊化したT細胞の特徴であるPD-1やTIGITといったT細胞の活性化を抑制するチェックポイント分子を高発現し、IFN-γ産生能が低下していたことから、T細胞の疲弊化を介して大腸癌進展の促進に寄与する可能性が示唆されたが、迷走神経肝臓枝遮断による腸管内免疫学的恒常性の変化が誘導する大腸癌進展作用と免疫の関わりを検討するため、免疫チェックポイント阻害薬投与後の大腸および腫瘍に浸潤するT細胞の変化を解析するための大腸腺腫モデルにおける抗PD-1抗体の効果を検証する系を立ち上げた。また、T細胞およびB細胞のが欠損したRAG KOマウスおよびT細胞、B細胞、NK細胞の欠損および補体、マクロファージ、樹状細胞の機能不全を示すNOGマウスなどの免疫不全マウスを導入した。さらに、迷走神経分枝に電極を埋め込み、神経電気刺激を行い、臓器特異的迷走神経電気刺激が各種疾患に与える影響を解析する迷走神経肝臓枝特異的な神経刺激モデルの樹立に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
[1] ApcMin/+マウスでの検討:ApcMin/+マウスにDextran sulfate sodium, DSSを短期間投与することにより、非炎症状態における大腸腺腫に対する迷走神経肝臓枝を遮断の効果を検証する。 [2] 大腸内および腫瘍内浸潤免疫細胞の変化の検討:迷走神経肝臓枝の遮断が大腸および腫瘍内に浸潤する迷走神経肝臓枝の遮断が免疫細胞に与える影響を検討する。RAG KOマウスおよびNOGマウスなどの免疫不全マウスを用いて、迷走神経肝臓枝遮断による腸管内免疫学的恒常性の変化が誘導する大腸癌進展作用と免疫の関わりを検討する。 [3] 腸内細菌叢解析および関連代謝物のオミックス解析:先行研究にてpTregの産生時に重要な腸内細菌を抗生剤で除菌したマウスにおいては迷走神経肝臓枝の遮断による腸管pTreg減少作用は減弱し、腸内細菌関連因子に不応答とされるMyd88欠損マウスにおいては迷走神経肝臓枝の遮断によって腸炎病態は増悪しなかった。本検討では大腸癌モデルマウスにおいて抗生剤投与およびMyd88欠損マウスでの検討を行い、迷走神経肝臓枝の遮断による大腸癌進展作用の変化を解析する。また、マウスおよびヒト検体を用いた糞便の腸内細菌叢の16S-rRNAの系統的シーケンスを行い腸内細菌叢の変化を解析する。 [4]免疫チェックポイント阻害薬の応答性に関する検討:大腸癌モデルマウスにおいて、迷走神経肝臓枝を遮断し、自律神経トーヌスの変化による免疫チェックポイント阻害薬に対する応答性の変化を検討する。 [5] 迷走神経肝臓枝特異的刺激システム(VHNS)を用いた検討:迷走神経分枝に電極を埋め込み神経電気刺激を行い、大腸癌モデルマウスにおいて迷走神経肝臓枝特異的な神経刺激が免疫チェックポイント阻害薬投与後の大腸および腫瘍に浸潤するT細胞に与える変化を解析する。
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