研究課題/領域番号 |
22K08079
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53010:消化器内科学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藤森 尚 九州大学, 大学病院, 助教 (60808137)
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研究分担者 |
竹野 歩 九州大学, 大学病院, 助教 (10812456)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 膵神経内分泌腫瘍 / 多施設共同研究 / 人工知能 / 不均一性 / Artificial Intelligence / シングルセル解析 |
研究開始時の研究の概要 |
PanNENは根治術後の再発率が高く、経過も多様性に富む非常に不均一な悪性腫瘍である。また、AIの医療応用は目覚ましいが、PanNEN領域の臨床応用は限定されている。我々はPanNENの病態解明を目標として、九州・四国の西日本広域を対象に国内最大規模のデータベースを構築する多施設共同研究を立ち上げた。本データベースを利用して、AIを用いたPanNEN術後再発予測モデルを構築し、再発や治療応答性といった時間的・薬理学的な腫瘍の不均一性を解析する。PanNEN術後組織を用いたシングルセル解析を併用することで、細胞レベルの不均一性を解析し、PanNEN増悪・進展に関わる因子を明らかにする。
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研究実績の概要 |
膵神経内分泌腫瘍(Pancreatic neuroendocrine neoplasm; PanNEN)は病態や臨床経過が非常に多様性に富む不均一な悪性腫瘍であるが、希少疾患であるため単一施設での研究には限界がある。本研究では、多施設共同研究により多数のPanNENサンプルを収集し、人工知能(AI:Artificial Intelligence)とシングルセル解析を応用したPanNENの病態解明を最終目標としている。 初年度である令和4年度は、多施設共同研究の立ち上げとwebデータベースシステム(REDCap)を用いたデータ収集を行った。参加22施設から総計599例のPanNEN切除例が登録された。疫学データの解析から、NET G1, G2, G3とグレードが上がると共に再発率が上昇するという、既報と同様のデータが得られた国内外の学会で研究成果を発表した。 第二年度である令和5年度は、上記で得られたデータベースからAIを用いた再発予測モデルの構築を最優先課題とした。まず従来のCoxモデルを用いて、PanNEN術後再発に関連する因子を同定した。更にPanNET G1/G2症例を対象として、機械学習の一種であるRandom survival forest (RSF)を用い、再発予測能をCoxモデルと比較検討した。データを無作為にトレーニングセット(75%)とテストセット(25%)に分割し、トレーニングセットを用いて予測モデルの構築を行い、テストセットにて予測性能を評価した。モデルの識別能を示すHarrellのc統計量(C-index)は、RSFモデル(C-index 0.841)でCoxモデル(C-index 0.820)よりも優れており、時間依存性ROC解析ではいずれの時間点においてもRSFモデルがCoxモデルより優れていた。ここまでの結果を纏め、原著論文として報告した(Murakami M, Fujimori N, et al. J Gastroenterol. 58:586-597, 2023)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
九州地区を中心とした全22施設(大学病院:9、地域基幹病院:13)が研究に参加した。研究実施許可を得た後、webデータベースシステムであるREDCapを用いて、PanNEN切除例のデータベースを構築した。初年度は、各施設からPanNEN切除例に関する多数の臨床病理学的因子をREDCap上でオンライン入力し、データクリーニングを進めた。総計599例のPanNEN切除症例が登録され、重複症例やデータが不十分な症例を除き、573例の根治切除例を解析対象とした。WHO 2019分類(NET G1, G2, G3, NEC)に基づき病理学的グレードを評価すると、NET G1とNET G2で全体の約90%を占めていた。また、治癒切除後再発率は、NET G1、NET G2、NET G3、NECとグレードが上がるにつれて再発率が上昇し、特にNET G2の再発率の高さ、すなわち臨床的重要課題が改めて浮き彫りとなった。Real-world dataを反映する貴重なデータベースを初年度に構築することができた。 二年度は本データベースを用いて様々な解析に着手し、その中でAIによる術後再発予測モデルの構築をメインの解析とした。結果としてRSFモデルは従来のCoxモデルより再発予測能に優れており、Ki-67指数と腫瘍遺残、腫瘍グレード、腫瘍径、リンパ節転移が再発の重要な予測因子であることを明らかにした。PanNEN切除例の臨床病理学的特徴やAIの有用性を原著論文として纏めることで、本領域における新たなエビデンスを発信することができた。 一方で、切除サンプルを用いたシングルセル解析については、検体採取や適切なシングルセル化に多くの課題があることが判明した。条件検討や、シングルセル解析の対象とする検体についても更なる検討が必要であり、最終年度の課題となった。 上記を総合して、本研究の進捗状況は‘おおむね順調に進行している’とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で得られたPanNEN切除例のデータベースは本邦最大規模のものである。主要な疫学データを二年度に報告したが、今後は解析対象を限定したサブ解析を複数計画している。具体的には、術前に超音波内視鏡(EUS)を施行した症例を抽出し、EUS所見によるPanNEN術後再発予測因子の同定や、生検検体(術前のEUS-FNA)と切除標本におけるKi-67 indexの一致率などを検討する。これにより、PanNEN診療におけるEUSの位置付けを再考する。また、PanNENは低悪性度腫瘍であることから、縮小手術や腹腔鏡下・ロボット下などの低侵襲手術が臨床応用されているが、その意義は十分明らかにされていない。腹腔鏡下手術や腫瘍核出術などの成績を従来手術と比較することで、PanNEN治療における新たなエビデンス構築を目指す。 疫学データ以外の本研究のもう一つの柱がシングルセル解析である。PanNENの不均一性の解明やtumorigenesisなどの本態解明には、シングルセル解析が不可欠と考え、初年度より検討を重ねている。しかし、これまでの検討で切除時の新鮮標本を用いたシングルセル解析は、術中のサンプリングからシングルセル化までのタイムラグを含めて、実現化や実際の解析に向けて大きなハードルがあることが明らかとなった。一方、近年の解析手法の進歩により、 ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)標本からのシングルセル解析の手法が他臓器で確立されつつある。FFPE標本の場合、ホルマリンで固定化されているため分解酵素の影響を受けにくいという特徴があり、消化酵素に富む膵組織にとっては理想的な手法の可能性があるが、現時点でFFPEを用いたPanNENシングルセル解析の既報はない。最終年度である令和6年度は、PanNEN切除後のFFPE標本からのシングルセル解析手法の確立を目指し、条件検討や実際の解析を進めていく。
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