研究課題/領域番号 |
22K08275
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53030:呼吸器内科学関連
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
井上 純人 山形大学, 医学部, 講師 (70466621)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 慢性閉塞性肺疾患 / リゾホスファチジルコリンアシル転移酵素 / 血小板活性化因子 / 喫煙 / マクロファージ / 肺気腫 / リゾホスフ ァチジルコリンアシル転移酵素 |
研究開始時の研究の概要 |
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発症には気管支喘息の関与が大きいとされているが、アレルギー性の炎症がCOPDの病態にどのように関わっているかは不明の点が多い。近年気管支喘息やアレルギー性鼻炎の病態に関わる生理活性物質である血小板活性化因子(PAF)の受容体が、COPDの病態に関与しているという報告があった。我々はPAFおよびその制御系がCOPDの発症や病態形成に重要な役割を演じているという仮説を立て、それを検証することを目的とした。将来的にPAF制御経路を標的とした薬物、遺伝子介入により、COPD発症や増悪の制御に関わる新たな治療法の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の病態形成には喘息をはじめとするアレルギー疾患の関与が指摘され、COPDの病態を修飾する可能性が明らかとなっている。過去の報告で血小板活性化因子(Platelet Activaing Factor, PAF)受容体は気管支喘息以外にもCOPDの病態に関わっていることが報告されている。しかしこれまでにPAF自体がどのようにCOPDの病態に関わっているか明らかではなかった。我々は本研究でPAFおよびその制御系がCOPDの発症や病態形成に重要な役割を担っているという仮説の基、研究を立案した。将来的にPAF制御経路を標的とした薬物、遺伝子介入により、COPD発症や増悪の制御に関わる新たな治療法の開発を目指すことを目的とした。 当年度は肺胞に常在するマクロファージ(Resident macrophage)と骨髄から誘導されるマクロファージ(Monocyte-derived macrophage)にどのような機能の差異があるのかを検討した。具体的にはLPCAT2ノックアウトマウスに対し、正常マウスの骨髄を移植することで、Resident macrophageはLPCAT2ノックアウト、骨髄から動員されるMonocyte-derived macrophageは正常遺伝子のキメラ体を作成した。そのマウスに対し6か月間の喫煙曝露を行ったところ、組織学的検討において、正常遺伝子のキメラ体において肺胞腔内へのマクロファージの集簇が増加し、肺気腫病変の程度が増強していることが示された。これらの結果から肺胞に常在するResident macrophageよりも、骨髄から動員されるMonocyte-derived macrophageにおけるLPCAT2の機能が肺気腫の形成に重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COPDの病態形成において、PAFがどのように関わっているのかを明らかにすることを目的として研究を行ってきた。過去の報告ではPAF自体が非常に不安定であるために測定が困難であることから、PAF受容体に着目した検討が多くなされてきた。本研究ではPAF合成酵素であるLPCAT2に焦点を当て、LPCAT2が制御するPAFによって肺局所の炎症および肺気腫形成がどのように変化するかを検証した。 マウスへの喫煙刺激で肺組織中のLPCAT2およびPAFは増加し、LPCAT2は特にマクロファージに発現を認めた。単球系細胞株をタバコ抽出液で刺激したところLPCAT2のリン酸化が誘導され、発現が増強していることが示された。PAFはマクロファージへ作用し、MCP-1の産生を介して骨髄由来マクロファージを肺内へ遊走させることが示された。マウスに対する長期間の喫煙曝露では、LPCAT2の欠損は肺気腫を軽減させていた。LPCAT2ノックアウトマウスに対する骨髄移植を行い、骨髄を正常遺伝子に置換したキメラ体を作成したところ、正常遺伝子のキメラ体において喫煙誘導肺気腫が増強していた。その結果骨髄由来のマクロファージにおけるLPCAT2の発現が肺気腫形成に重要であることが示された。骨髄由来マクロファージに対するタバコ抽出液での刺激では、肺気腫形成における肺胞破壊に重要な役割を担うMatrix metalloproteinase 12(MMP-12)の有意な増加を認めた。この反応はLPCAT2の欠損下では抑制されることが示された。 これらの結果から、喫煙刺激によるLPCAT2の増加からPAFが誘導され、骨髄から動員されるマクロファージが肺気腫の形成に関わっているという、COPD発症の病態についての新たな知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
過去の研究ではPAFはその不安定な動態から、直接測定をしたり機能解析を行ったりすることが困難であった。そのため多くの研究はPAF受容体に着目しており、PAFの正確な機能は明らかにされていなかった。我々の研究ではPAF合成酵素であるLPCAT2に焦点を当て、COPDの病態形成においてLPCAT2を介したPAFの合成系がどのような役割を演じているか解析を行った。昨年度までの研究ではLPCAT2はタバコ煙によりリン酸化され、肺内のLPCAT2も増加すること、PAFはマクロファージへ作用し、MCP-1の産生を介して骨髄由来マクロファージを肺内へ遊走させること、LPCAT2欠損は喫煙誘導肺気腫を軽減させること、骨髄由来肺胞マクロファージ中のLPCAT2は、喫煙誘導肺気腫形成に関与すること、ヒト肺組織においてCOPD肺ではマクロファージにLPCAT2が高発現していることを示してきた。 今後ヒトにおけるLPCAT2の機能は不明な点が多いため、肺癌手術検体におけるLPCAT2の発現をCOPD患者、非喫煙者、喫煙者で非COPD患者の肺組織において検証を行っていく。喫煙の有無や曝露量、COPDの有無によりLPCAT2の発現の相違を検討することによって、ヒト肺におけるLPCAT2およびPAF合成系がどのように肺気腫形成およびCOPDの病態形成に関わっているのかを検証していく計画である。
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