研究課題
基盤研究(C)
免疫チェックポイント阻害薬は、様々ながんの治療薬として使用されている一方で、全身に自己免疫疾患のような有害事象を引き起こし、治療の妨げとなることが問題となっている。腎障害もその一つであり、代表的な腎障害は、腎組織にリンパ球などの炎症細胞が浸潤する特徴をもつ急性尿細管間質性腎炎である。この研究では、この腎障害に注目した。近年、我々は、腎臓に浸潤した炎症細胞によって構築された三次リンパ組織が、様々な腎障害に重要な役割を果たすことを示してきた。そこで、本研究では、免疫チェックポイント阻害薬に関連した急性尿細管間質性腎炎における三次リンパ組織の役割を明らかにする。
本研究は、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による免疫関連有害事象(irAE)の一つである腎障害に注目している。ICI腎障害の典型的な病理像は急性尿細管間質性腎炎(ICI-AIN)であり、尿細管間質への炎症細胞浸潤が特徴である。近年、浸潤したこれらの炎症細胞によって形成された三次リンパ組織(TLT)の存在が注目されるようになったが、その臨床的意義は不明のままであった。そこで、本研究の目的は、ICI-AINにおけるこのような病理学的所見が腎やがん予後などの臨床的アウトカムと関連するかどうかを検討することにある。令和5年度は前年度にデータが揃い始めた日本腎臓内科学会の腎生検レジストリー(J-RBR)研究のデータ固定と解析に注力した。最終的には令和4年よりさらに登録数が増加し、54症例での解析が可能になった。その結果、「SUrvey of renal Biopsy database and Anticancer dRUg therapy in Japan(SUBARU-J)-ICI」と名付けられた本研究においては、ICI-AINにおける特徴的な腎病理所見の中で、特にIFTA(Interstitial fibrosis and tubular atrophy; 間質線維化と尿細管萎縮)の重要性が明らかになった。すなわち、IFTAの程度が急性期の腎障害の寛解、慢性期の腎予後、さらにがんの無増悪寛解、生命予後と関連が深いという解析結果が得られたため、令和6年度に国内及び海外の学会で報告を計画している。
3: やや遅れている
本研究における当初の計画は、日本腎臓学会とオンコネフロロジーフォーラムの2つの腎生検レジストリー(J-RBRおよびR1498)の臨床資料および腎生検組織を用いて、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)に関連した急性尿細管間質性腎炎(ICI-AIN)と診断された患者を対象に、三次リンパ組織(TLT)の役割を同定することであった。しかし、依然として1) J-RBRの腎病理組織の入手の手続きに時間を要していること、2) R1498に登録された腎病理組織は、当初の計画であったICI-AINだけでなく、糸球体腎炎(ICI-GN)が多く入手できたという事態が生じた。一方で、1)のJ-RBRからはICI-GNの臨床資料の解析が可能となった。また、こちらの解析が進行し、「ICI-AINにおける特徴的な腎病理所見の中で、特にIFTA(Interstitial fibrosis and tubular atrophy; 間質線維化と尿細管萎縮)が急性期の腎障害の寛解、慢性期の腎予後、さらにがんの無増悪寛解、生命予後と関連が深い」という国内学会や国際学会で発表可能な成果が得られた。したがって、病理学的な解析に着手できていない点で「遅れている」と判断したが、それ以外の臨床データを用いた解析が大幅に進み、新たな知見が得られたという点で上記の通り「やや遅れている」と判断した。
研究計画最終年度である今年度は、J-RBRとR1498のレジストリを用いたICI-AINの解析として、当初の計画どおり、引き続き、両方のレジストリからの病理組織入手の手続きを進めるとともに、上述の臨床・病理データ用いて得られた「ICI-AINにおける特徴的な腎病理所見の中で、特にIFTA(Interstitial fibrosis and tubular atrophy; 間質線維化と尿細管萎縮)が急性期の腎障害の寛解、慢性期の腎予後、さらにがんの無増悪寛解、生命予後と関連が深い」という新たな知見の公表・論文化をすすめる。同時に、令和4、5年度に得られた、ICIによる糸球体病変の解析に関しても公表と論文化をすすめる。今回の解析により、三次リンパ組織と関連が深い「尿細管障害」が、ICI-AINの腎予後のみならず、がん予後、生命予後と関連する可能性が示唆されたので、前年度と同様に、臨床データにある「尿細管病変の拡がり(拡がりが「~10%」、「11~25%」、「26~50%」、「51%~」)」に関連する要因を探索的に検討するとともに、この臨床データが腎予後やがんの治療反応性にどのような影響を及ぼすか検討する。これは病理組織入手後の三次リンパ組織解析(すなわち従来の研究計画に記載されている解析)の重要な礎になると期待される。
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