研究課題/領域番号 |
22K08399
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53050:皮膚科学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
神林 由美 東北大学, 大学病院, 助教 (50755303)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | PAI-1 / メラノーマ / 血管新生 / MMP-9 / ヒト血管内皮細胞3次元培養 / M2マクロファージ / 腫瘍内浸潤リンパ球 / 抗PD-1抗体治療効果 / 悪性黒色腫 / 抗PD-1抗体 / PAI-I阻害薬 / 免疫療法 / ケモカイン |
研究開始時の研究の概要 |
プラスミノーゲン活性化阻害因子(PAI-1)は、がん細胞の浸潤や転移に関与し、PAI-1を高発現するがんは悪性度が高いことが知られている。これまで、我々は、PAI-1阻害薬がマウス悪性黒色腫において、腫瘍内浸潤マクロファージ(Tumor-associated macrophages: TAMs)のM2偏倚を抑制することにより、抗PD-1抗体の治療効果を増強させることを見出した。本研究で、PAI-1が悪性黒色腫の腫瘍内の免疫環境に与える影響を、TAMsの極性とケモカイン産生能から予測し、悪性黒色腫のみならず他の癌腫にも使用可能な新規複合免疫療法の確立を目指す。
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研究実績の概要 |
前年度までに、PAI-1のマクロファージに与える影響を検証した結果、PAI-1は初期段階の未分化M2マクロファージのTh1/ Th2ケモカインの双方を抑制するが、Th17関連ケモカインには影響を与えず、単球・好中球遊走関連ケモカイン(CXCL5)を増加させることが明らかとなった。これらの結果、PAI-1は腫瘍随伴性マクロファージ(Tumor-associated macrophages: TAMs)による血管新生を促進することが推測された。そこで、当該年にさらにM2マクロファージの血管新生因子への影響を前年度に引き続き検討した。その結果、PAI-1はM2マクロファージのMMP-2, MMP-9, VEGF-AのmRNA発現およびタンパク産生を増加することにより、真皮内皮細胞(Human Dermal vascular endothelial cells: HUVEC)のtube formationを亢進することが、HUVECの三次元培養で明らかとなった。これらの結果はメラノーマのみでなく他の皮膚がんに共通な要素であり、PAI-1が皮膚がん全般において腫瘍の進行に中心的に関与することが示された。これらの結果を2024年に欧州英文雑誌Hematologic Oncologyに発表した。また、AMED橋渡し研究シーズCで施行していた「進行性悪性黒色腫治療における抗PD-1抗体とのTM5614の安全性・有効性を検討する第II相試験」が期間内に終了し、proof of conceptを満たす結果となったことを受け、同臨床試験の基礎的背景を検証するため、マウスB16F10モデルにPAI-1阻害薬・抗PD-1抗体の投与を行い、上記血管新生因子を検証した。今後、RNA-Sequenceによる解析も加え、網羅的に検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年はM2マクロファージの血管新生因子への影響を前年度に引き続き検討した。その結果、PAI-1はM2マクロファージのMMP-2, MMP-9, VEGF-AのmRNA発現およびタンパク産生を増加することにより、真皮内皮細胞(Human Dermal vascular endothelial cells: HUVEC)のtube formationを亢進することが、HUVECの三次元培養で明らかとなった。また、これらの結果を、メラノーマのみでなく他の皮膚がんへの適応も考慮し、皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)、血管肉腫、皮膚有棘細胞癌にも同様のフェノタイプを持つマクロファージが存在するかを免疫染色法で確認したところ、MMP-9を有するM2マクロファージが上記の癌種すべてに共通して存在することが明らかになった。前年度、PAI-1が皮膚がん全般において存在することを確認しており、PAI-1がM2マクロファージを介して腫瘍の進行に関与することが当該年度に明らかになった。そのメカニズムを生体内で明らかにするため、現在、マウスB16F10モデルにPAI-1阻害薬の投与を行い、上記血管新生因子を含め、PAI-1の網羅的に解析予定である。また新たにPAI-1の関与が推測されるCTCL、血管肉腫、有棘細胞癌において、それぞれ細胞株を用いてPAI-1の腫瘍進行への影響も検討している。このように当該年は、従来予定していた悪性黒色腫におけるPAI-1・チェックポイント阻害の基礎データの収集にとどまらず、幅広く皮膚がん全般の解析を進める上で重要な基礎データを収集することができ、当初の予定を大きく超える進捗を得た。
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今後の研究の推進方策 |
本研究期間に、当初の目的であったメラノーマ治療におけるPAI-1阻害薬・免疫チェックポイント阻害薬相互作用の解析をこれまでのM2マクロファージ、細胞株のin vitroのデータを基盤として、マウスB16F10メラノーマモデルを用いて、各種薬剤の腫瘍内免疫環境への影響をRNA Sequenceを用いて網羅的に解析する。具体的には、B16F10メラノーマ担癌マウスに抗PD-1抗体単剤投与群(n=4)と、抗PD-1抗体+PAI-1阻害薬併用群(n=4)から腫瘍を回収し、total RNAを抽出し、RNA Seq外注を行う。この網羅的解析により、PAI-1阻害薬の薬理的意義が明らかになる。現在、第II相試験の結果を受け、根治切除不能メラノーマに対する抗PD-1抗体+PAI-1阻害薬の有効性を検証する第III相試験を準備中であることから、上記の基礎データを追加することにより、検証的試験の探索的研究項目で解析すべきパラメータが明らかになると考えられる。さらに研究期間最終年度には、前述の癌種における基礎データをマウスin vivoモデルでPAI-1阻害薬を用いることにより、腫瘍内免疫環境にPAI-1の与える影響の解析を進めることを新たに加える。以上、本研究は当該期間の目的を遥かに上回り、今後の新たな研究の足掛かりとなる基礎データも複数とることができた。これらは次年度以降のプロジェクトで引き続き研究する予定である。
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