研究課題/領域番号 |
22K08433
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53050:皮膚科学関連
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
大森 深雪 愛媛大学, 医学系研究科, 講師 (30462667)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | アレルギー性皮膚炎 / T細胞 / 細胞内代謝 / アレルギー性接触皮膚炎 |
研究開始時の研究の概要 |
アレルギー性接触皮膚炎は、炎症の元となる抗原への接触を断つことにより治すことができる。しかし、無数にある候補の中から抗原を特定することは難しい。そこで本研究では、アレルギー性接触皮膚炎の発症がT細胞を介して起こるという点に着目し、抗原特定が不要な新規治療法の方法論を模索する。具体的には、『T細胞が炎症性形質を獲得・維持する過程で動的に変化する細胞内代謝を制御することは、アレルギー性接触皮膚炎の症状寛解に有効である』という仮説を検証する。
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研究実績の概要 |
1年目の研究の成果として、アレルギー性接触皮膚炎の発症制御にT細胞の代謝リプログラミングの遮断が有効であることが明らかになった。それをふまえ、2年目の研究では、T細胞の代謝リプログラミングの作用メカニズムについて検討した。代謝リプログラミングは、細胞周辺の細胞社会の構成や活性、栄養状況など、細胞をとりまく体内環境に強く影響を受ける。例えば、本研究で着目するT細胞では、抗原を認識して活性化する過程、増殖して機能分化する過程、一過性の応答が収束する過程、再び同じ抗原応答が起こる過程などで代謝リプログラミングが起こり、その状態は動的に変化することが明らかになりつつある。しかし、T細胞の代謝状態とアレルギー性接触皮膚炎の病態との関連性には不明な点が多い。そこで申請者らは、T細胞の抗原応答の過程でおこる代謝リプログラミングに伴って減弱する転写因子としてBach2に着目し、Bach2の発現低下が皮膚炎の発症に関与する可能性を検討した。その結果、アレルギー性接触皮膚炎を発症したマウスでは、平常時に比べてBach2を低発現するT細胞がより多く存在すること、炎症部位に集積した概ねのT細胞ではBach2の発現が低いことがわかった。先行研究で申請者らは、T細胞におけるBach2の低発現状態がアレルギー性接触皮膚炎の発症にどのような影響をもたらすのかを明らかにするため、T細胞特異的にBach2を発現しないマウスを作製し、アレルギー性接触皮膚炎を発症させた。その結果、皮膚炎の病態が増悪し、炎症が遷延することを見出している。以上のことから、Bach2を低発現するT細胞の炎症部位への集積は、アレルギー性接触皮膚炎の悪化要因のひとつであることが想定される。 今後は、アレルギー性皮膚炎が増悪・遷延するBach2欠損マウスが、代謝状態を制御することにより治療できる可能性について検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目の研究として、申請者らは、野生型マウスを用いてアレルギー性接触皮膚炎の発症を誘導し、炎症局所へ浸潤したT細胞をいくつかの炎症状態のフェーズに分けて解析するための実験系の検討を行った。その結果、炎症収束後に炎症局所に残存すると考えられている組織在住型記憶T細胞の解析が行える実験条件を得た。 また、T細胞において、抗原認識やT細胞の増殖に必要なサイトカインは解糖活性を増加させることが知られているが、申請者らの研究グループでは、それらがmTORシグナルを介して転写因子Bach2の発現も低下させることを見出した。これらの知見をふまえて、Bach2レポーターマウスでアレルギー性接触皮膚炎を発症させ、炎症局所に浸潤したT細胞におけるBach2発現を検討した。その結果、アレルギー性接触皮膚炎の局所にBach2を低発現するT細胞の集積が起こることが明らかになった。また、T細胞特異的にBach2を欠損させたマウスで同様の皮膚炎を発症させると、アレルギー性接触皮膚炎の病態が増悪し、その病態の推移を注意深く解析すると、炎症の遷延が起こっていることが明らかになった。炎症局所に浸潤したT細胞における炎症性サイトカインの産生能を解析してみると、Bach欠損マウスでは、T細胞における炎症性サイトカイン産生細胞の割合には変化が見られないながらも、炎症性サイトカイン産生細胞の数自体は増加し、炎症局所の皮膚全体を俯瞰すると、IL-13遺伝子およびIL-17遺伝子発現が亢進した状況であることがわかった。さらに、継時的な解析から、IL-13遺伝子を高発現するCD4陽性T細胞が長く局所に残存していることがわかった。 以上のことから、アレルギー性接触皮膚炎の発症に不可欠なT細胞の解糖系の亢進は、mTORを介したBach2の発現低下が、アレルギー性接触皮膚炎の病態形成や炎症の遷延に関与していることが予想された。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の研究では、炎症局所へ浸潤したT細胞を、炎症の惹起、維持、記憶、再燃などいくつかの炎症状態のフェーズに分けて解析するための実験系の準備を行ってきた。一方で、アレルギー性皮膚炎の病態形成の背景にあるT細胞の解糖系亢進がもたらすメカニズムとして、転写因子Bach2の発現低下が関与することを示唆することができた。 最終年度となる3年目は、T細胞の代謝リプログラミングが、アレルギー性接触皮膚炎の発症や炎症の遷延にどのように関与するのかについて、引き続き研究を進める予定である。具体的には、炎症状態のフェーズごとのT細胞におけるBach2発現の推移、Bach2発現強度によるT細胞の性状の差異、T細胞特異的Bach2欠損による各炎症フェーズへの影響についてex vivo解析により明らかにする。また、T細胞におけるBach2とその他の分子の連関について、in vitro培養系により検討する。さらに、アレルギー性皮膚炎の病態に対するBach2欠損T細胞の影響が、代謝リプログラミングの遮断により解除できるか否かを検討する。 一連の結果を総合して、T細胞のリプログラミングの遮断によるアレルギー性皮膚炎の発症制御の機構について考察する予定である。
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