研究課題
基盤研究(C)
骨髄性腫瘍(MNs)は、造血幹細胞レベルでゲノム異常とエピゲノム異常の蓄積を基本的な病態とする。近年、MNsの病態形成にエピゲノム修飾関連因子であるタンパク質アルギニンメチル化酵素(PRMTs)が重要であることが明らかにされ、治療標的として注目されている。DNA損傷修復機構の活性化がMNsの重要な分子病態であることを踏まえて、申請者は「PRMTsによるDNA損傷修復関連タンパク質アルギニン残基のメチル化がDNA損傷修復の活性化を起こしている」と仮説を立てた。本研究では、MNsにおいてPRMTsがDNA損傷修復機構を制御していることを明らかにし、新規治療戦略の開発に繋げることを目指す。
本研究はタンパク質アルギニンメチル化酵素の1つであるCARM1は骨髄性腫瘍の発症および薬剤抵抗性に関与していることが報告されているが、その機序については明らかになっていない。研究代表者は、骨髄性腫瘍におけるCARM1のDNA損傷修復機構への作用に注目し、抗がん剤としてのCARM1阻害剤の開発を進めることを目的としている。研究代表者は、先行研究としてCARM1と相互作用を有するタンパク質の網羅的な検索を行った。網羅的な解析により、CARM1はDNA損傷修復機構の中心的な役割を有する複数の因子と相互作用を有することが明らかにした。この解析結果の一部は2022年に米国血液学会で報告した。この網羅的解析の結果については論文投稿の準備を進めており、本年度中の公表を目指している。そして、CARM1とDNA損傷修復機構の解析については更に詳細な解析を進めている。この研究課題は米国の研究室との共同で行う計画としており、Sylvester Comprehensive Cancer Center, University of MiamiのStephen Nimer教授からの試薬の提供を受ける。2022年度の重要な成果として細胞株を用いた分子生物学的解析のための試薬提供について正式に契約が成立した。また、骨髄性腫瘍患者の骨髄検体を本研究で用いるために共同研究機関(Memorial Sloan Kettering Cancer Center)を新たに増やし、利用についての倫理委員会の承認および検体を入手した。このように2022年度は研究を進めるための基盤作りが主であり、研究の進捗状況は概ね順調である。2023年度の推進策としては細胞株を用いた分子生物学的解析を進めるとともに、患者検体を用いた検証も行うため共同研究機関との連携を深めていく。
2: おおむね順調に進展している
本研究の主軸となるCARM1発現ベクターの構築とCARM1阻害剤を入手するための取り組み、CARM1阻害剤の有効性を報告することが2022年度の主な取り組みであった。具体的なこととして、第一に、これらの研究試薬を当施設に提供してもらうために、Sylvester Comprehensive Cancer Center, University of MiamiのStephen Nimer教授と長崎大学病院・糸永英弘の間でUniform Biological Material Transfer Agreement (UBMTA)を締結した。海外とのUBMTA締結は長崎大学病院では初めてであることもあり、時間を要した。このUBMTA締結により供与された試薬に関して利益相反を明確にすることが出来た。第二に、供与された研究資材としてタンパク質発現ベクターの構築を完了し、ヒト血液細胞におけるCARM1および相互関係を有するタンパク質の過剰発現システムを築くに至った。さらに、CARM1と他の蛋白質の相互関係を網羅的に解析するための近位依存性ビオチン標識(BioID)法に用いることが出来るベクターも含まれているため、今後の解析の基盤となる試薬が整ったといえる。第三に、骨髄性腫瘍におけるCARM1と相互関係を有する蛋白質の網羅的解析の結果とそれを基盤として得られた研究成果を2022年12月に米国(ニューオリンズ)で開催された第64回米国血液学会でポスター発表を行った。特にStephen Nimer教室で開発しているCARM1阻害剤が骨髄性腫瘍に有効であることも報告し、学術的に大きなインパクトを与えた。このように、2022年度は骨髄性腫瘍におけるCARM1の意義を解明するための基盤作りとして概ね順調であるといえる。
2023年度に取り組む推進方策としてヒト患者検体でのCARM1の発現量を評価することである。この点については、米国のMemorial Sloan Kettering Cancer CenterのRoss Levine教授の研究室との共同研究を検討している。そこで、骨髄性腫瘍として急性骨髄性白血病と骨髄増殖性腫瘍の骨髄検体の提供を受ける予定である。細胞株を中心とした本研究計画であるが、患者検体での検証が可能となれば研究成果の汎用性と堅牢性を高めることに繋がり、学術的なインパクトが大きくなる。さらに、これらの患者検体は網羅的な遺伝子解析情報が付与されており、遺伝子変異の型とCARM1発現量の相関関係を評価することが可能となり、骨髄性腫瘍の病型・遺伝子型との関連性に重要な知見を見出すことが期待される。そして、本研究では細胞株を用いた分子生物学的検討のためMALDI-TOF/TOFを用いた質量分析によるタンパク質-タンパク質相互関係の解析を確立する。この解析には長崎大学医学部生体高分子解析支援部門・増本博司講師とともに行うことを予定している。また、本研究では骨髄性腫瘍に対してCARM1阻害剤の効果を検証する予定としている。これまでの先行研究で試行されたCARM1阻害剤としてEPZ025654とEZM2302がある。現在は臨床応用を目指して、Stephen Nimer教授とともに新しいCARM1阻害剤の開発に取り組んでいる。この新規のCARM1阻害剤が使用可能となれば本研究でも用いることを検討しており、CARM1阻害剤の臨床応用への開発を進めていく。
すべて 2023 2022
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