研究課題/領域番号 |
22K08575
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分54020:膠原病およびアレルギー内科学関連
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
樺島 重憲 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, アレルギーセンター, リサーチアソシエイト (00865058)
|
研究分担者 |
村田 幸久 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (40422365)
梅沢 洸太郎 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, アレルギーセンター, 医師 (30997911)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
|
キーワード | 食物蛋白誘発胃腸炎 / 尿中脂質 / 網羅解析 / 肥満細胞 / セロトニン / 食物蛋白誘発胃腸症 |
研究開始時の研究の概要 |
食物蛋白誘発胃腸炎は、近年乳幼児の間で急増しているアレルギー疾患の一種である。乳製品や卵黄などを摂取した後、1-4時間後に嘔吐や下痢といった消化管症状が見られ、重篤な場合はショックに陥る。その病態は不明で、予防法や治療法は知られていない。本研究では、体内で起こる炎症反応を網羅的に調べる「尿中脂質分析法」を用いて、食物蛋白誘発胃腸炎の病態解明を行う。
|
研究実績の概要 |
食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)は、原因食物摂取後1-4時間で嘔吐や下痢といった消化管に限局した症状を示す食物アレルギー(FA)の一種で、その病態は明らかになっていない。本研究では、原因食物を摂取して症状が誘発された際の患者の尿中脂質を分析することによりFPIESの病態を解明することを目指している。肥満細胞がFPEISの症状誘発に関与する可能性が指摘されていたところから、2022年度には肥満細胞の活性化を反映する尿中prostaglandin D2 metabolite(PGDM)に注目し、経口食物負荷試験を行った小児FPIES患者において、食物負荷の前後で尿中PGDMのレベル変化を調べたが、陰性患者、陽性患者のいずれにおいても、食物負荷の前後で尿中PGDMレベルの上昇は確認されず、FPIESの症状誘発に肥満細胞が関与しない可能性が示唆された。 この結果をふまえ2023年度には、PGDMに加えprostaglandin E metabolite(PGEM)、prostaglandin F metabolite(PGFM)の3つの脂質代謝物について、食物負荷前後での尿中レベルの変化について調べた。これまでに43例(年齢0-12歳、中央値1.0歳)についてデータを収集し、12例が陽性であった。PGDMおよびPGFMの負荷前後比は、陰性例と陽性例で有意差はなかった。一方、PGEMについては、有意差はないものの陽性例で高くなる傾向が見られた。PGDMおよびPGFMについては2022年度までの検討と同様、FPIESの病態に肥満細胞が関与しないことを改めて示唆する結果であった。他方、自然免疫系/Th17に関連すると思われるPGEMが高くなる傾向が見られたことは、近年FPIESの病態に自然免疫系やTh17の関与を示唆する報告がなされており、これと符合する結果であると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
経口食物負荷試験を実施するFPIES患者をリクルートし、負荷試験の前後で尿サンプルを採取した。登録した症例は43例(年齢0-12歳、中央値1.0歳)で、このうち自立排尿が困難でありオムツに吸収された尿を抽出して分析したのが35例、スピッツに尿を採取できたのが8例であった。原因食品で最も多かったのは卵黄(23例)で、その他に卵白(4例)、牛乳(3例)、魚(2例)などがあった。この中で、負荷試験が陽性となったのは12例であった。 採取した尿に含まれる脂質を、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析装置を用いて分析した。2022年度までの解析では、FPIESへの肥満細胞の関与を考え、同細胞の活性化を反映するPGDMの尿中レベルを調べたが、陽性例においても尿中PGDMレベルの上昇は確認されなかった。2023年度は、症例を追加してPGDMについて解析を行うとともに、PGEM、PGFMについても解析を行った。PGDMについては、2022年度までの検討と同様陽性例でも上昇は見られなかった。PGEMについては、有意差はないものの陽性例で上昇傾向が見られた。PGFMの上昇は見られなかった。 食物負荷試験に伴う尿中PGDMレベル上昇は見られず、また肥満細胞の活性化にも関連するPGFMの上昇も見られなかった。改めてFPIESの病態に肥満細胞が関与しない可能性が示された。PGFMは、皮膚や気道炎症で上昇が見られる。一方、陽性例で尿中レベルの上昇傾向が見られたPGEMは、好中球や単球など様々なエフェクター細胞の活性化に伴い産生される代謝物である。近年、FPIESの病態に自然免疫/Th17の関与を示唆する報告があり、PGEMの上昇はこの免疫反応を反映している可能性があり、FPIESの病態の一端を捉えたと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度までの検討で、FPIESの症状誘発に肥満細胞が関与していない可能性が改めて示された。その一方、尿中PGEMの上昇が見られたところから自然免疫/Th17の関与する可能性が示唆された。FPIESの病態については少しずつ解明が進められており、症状誘発の上流に自然免疫/Th17が関与し、下流の症状誘発のエフェクターとして消化管セロトニンが関与している可能性が示唆されている。この上流と下流の反応をつなぐ経路についてはよくわかっておらず、2024年度にさらに尿中脂質の分析を進め、食物蛋白の抗原認識から、セロトニンが産生されて症状が誘発されるまでの経路の解明を行っていく。またこれまでの検討では、尿中脂質代謝物のレベルを調べるにあたって尿中クレアチニン濃度による正規化を行っているが、体格や筋肉量の影響を避けるため、シスタチンCによる正規化によってより精度を向上させる検討を行いたい。臨床の面からは、年齢や負荷試験での症状の強さとの相関、陰性例と陽性例での値の比較について検討し、FPIESの診断や寛解に対するバイオマーカーとしての有用性を評価していく。これらの成果については、ヨーロッパアレルギー学会主催の学術集会での発表や、海外のアレルギーに関する学術誌への論文発表を予定している。
|