研究課題/領域番号 |
22K08600
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分54030:感染症内科学関連
|
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
千田 淳司 徳島大学, 先端酵素学研究所, 講師 (20437651)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
|
キーワード | インフルエンザ / 重症化 / マクロファージ / 抗体療法 / 抗プリオン抗体 / 新興感染症 / プリオン蛋白質 / 抗PrP抗体 |
研究開始時の研究の概要 |
最近、申請者はマウスへの抗プリオン蛋白質抗体(抗PrP抗体)の投与によって、インフルエンザAウイルス(IAV)感染後のマウスの致死率が大幅に低下することを見出した。その機序として、抗PrP抗体がマウスの炎症性マクロファージ(M1Mφ)に作用することで、感染初期に起こるサイトカイン・ストームを回避することを報告した。これまでの新興感染症の予防にはワクチン、治療には抗ウイルス薬に頼る現状ではウイルス変異株への対応は困難であり、宿主由来の分子を標的とした治療薬の開発が望まれるが、成功例はない。そこで本研究では、宿主のM1Mφを標的とした振興感染症に対する治療薬の開発を試みる。
|
研究実績の概要 |
インフルエンザの重症化機序が明確でない現在の状況下で、抗ウイルス薬の一方的な投与が原因で、抗ウイルス薬の耐性株が世界各地で急増している。一方、ワクチンではインフルエンザの感染予防は不可能であると世界保健機関が既に提言している。このような背景から、抗ウイルス薬とは作用機序の異なる「耐性株を出現させない治療薬」の開発が急務であるが、これまで宿主因子を標的とした治療薬の開発は国内外で成功例がない。研究代表者は、インフルエンザ感染マウスへの抗プリオン蛋白質(PrP)抗体の投与で、マウスの致死率が著明に低下することを報告してきたが、その詳細な機序は不明である。本研究の目的は未だ明らかでない抗PrP抗体の作動機序を解明し、既存の抗ウイルス薬とは作動機序の異なるPrPを分子標的としたインフルエンザの重症化の治療薬を開発することである。宿主因子であるPrPを分子標的とした治療薬を開発する試みはこれまでに例のない研究であり、今後この方面の研究に大きく貢献することが期待される。 令和4年度はマウスから単離した腹腔マクロファージ(Mφ)をRORαの受容体逆作動薬(SR3335)存在下で培養すると炎症性Mφ(M1Mφ)に分極することを確認した。さらに、このM1Mφを抗PrP抗体で処理すると抗炎症性Mφ(M2Mφ)様の細胞に分極することをELISA法、ウエスタンブロット法で確認した。このM2Mφ様の細胞への分極にはSFK(Src family tyrosine kinase)蛋白質の一過的なリン酸化が必須であることを研究代表者は既に報告しており、このSFKのリン酸化を担う蛋白質を質量分析法で解析した。その結果、Mφの細胞表面に局在する受容体蛋白質が有力候補として同定された。今後、この受容体蛋白質のアゴニストをMφに添加することで、M1MφがM2Mφへと分極するのか否か検証したい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和4年度に予定していた腹腔Mφを抗PrP抗体で処理するとM2Mφ様の細胞に分極することを確認した。この細胞は形態学的にはM2Mφであるが、M1Mφマーカー(CD68)とM2Mφマーカー(CD163, KLF4, MGL1/2, Ym-1)両者が陰性であった。培養上清(Conditioned medium)中の炎症性/抗炎症性サイトカインの産生量をELISA(Enzyme-linked immune sorbent assay)法で定量した結果、このM2Mφ様の細胞は炎症性サイトカイン(TNFα, CCL2, IL6, IFNγ, RANTES)が低下、抗炎症性サイトカイン(IL4, IL10)が増加していることを確認した。以上の結果から、抗PrP抗体はMφに直接作用してM1MφをM2Mφ様の細胞に分極することでサイトカイン・ストームによる重症化を回避するものと推定されたが、M2Mφ様の細胞についてより詳細な解析が必要である。これに関しては、M2Mφには複数のサブタイプ(M2a, M2b, M2c, M2d等)が存在することが既に報告されており、それぞれに特異的なMφのマーカー抗体を用い、フローサイトメトリーにて決定する。 腹腔Mφを抗PrP抗体で処理したM2Mφ様の細胞を質量分析法で解析した結果、Mφの細胞表面に局在する受容体蛋白質がSFKのリン酸化を担う有力候補として同定された。この受容体蛋白質のアゴニスト(リコンビナント蛋白質, 低分子化合物)がインフルエンザ重症化の治療薬に繋がる可能性がある。 上述した令和4年度の計画に加え、令和5-6年に計画していた抗PrP抗体に代わるリード化合物の探索を既に開始していることから、当初の計画以上に進展しているものと判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
抗PrP抗体処理で分極するM2Mφ様の細胞の詳細について解析する。具体的には、腹腔MφをSR3335処理した典型的なM1Mφ(CD68陽性)、腹腔MφをIL4処理した典型的なM2Mφ(CD163, KLF4, MGL1/2, Ym-1陽性)と、M2Mφ様の細胞間で細胞の形態、マーカー蛋白質の発現量、炎症性/抗炎症性サイトカインの産生量について比較する。さらに、M2Mφのマーカー抗体を用いたフローサイトメトリーを実施して、Mφのサブタイプを決定する。 質量分析法で同定したSFKのリン酸化を担う受容体蛋白質の種々のアゴニストを腹腔Mφの培養液へ添加して、M2Mφ様の細胞への分極が認められるリード化合物を探索する。その際、M2Mφ様の細胞のSFKが特異的にリン酸化することをウエスタンブロット法で確認する。この過程で選別されたリード化合物についてはインフルエンザ感染マウスへの投与試験を実施し、マウスの生存率、体重減少、肺の炎症所見等の評価をする。同時に、ウイルス感染肺のMφでSFKのリン酸化が起こることを免疫組織染色にて確認する。治療効果の認められたリード化合物については、マウスへの薬剤の過剰投与試験を実施し、副作用の有無について検証する予定である。
|