研究課題/領域番号 |
22K08622
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分54040:代謝および内分泌学関連
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研究機関 | 名古屋市立大学 (2023) 浜松医科大学 (2022) |
研究代表者 |
佐々木 茂和 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (20303547)
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研究分担者 |
松下 明生 浜松医科大学, 医学部, 助教 (50402269)
大場 健司 浜松医科大学, 医学教育推進センター, 特任講師 (70649392)
古橋 一樹 浜松医科大学, 医学部附属病院, 特任講師 (70759935)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | バセドウ病 / 制御性T細胞 / 甲状腺ホルモン / 甲状腺刺激ホルモン / Foxp3 / T3受容体 / GATA2 / 転写調節 / 甲状腺ホルモン受容体 / GATA3 / 甲状腺自己免疫 |
研究開始時の研究の概要 |
バセドウ病では甲状腺ホルモン(T3、T4)の合成阻害剤である抗甲状腺剤(AID)によって治療されるが、AIDはT3、T4のみならずバセドウ病の原因物質であるTSH受容体抗体(TRAb)までも減衰させ、本症患者の約半数を寛解にいたらしめる。しかしAIDがTRAbを減衰させるかは未だ明らかではない。一般に免疫寛容の維持には制御性T細胞(Treg)が中心的な役割を有し、Tregの機能は転写因子Foxp3によって維持される。本申請ではFoxp3遺伝子の発現に必須な転写因子GATA3とT3受容体の関連について追求し、甲状腺濾胞周囲での高濃度T3がTregの分化と機能に与える影響を解析する。
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研究実績の概要 |
バセドウ病は橋本病とならんで代表的な自己免疫性甲状腺疾患(autoimmune thyroid disease、AITD)である。本症は甲状腺刺激ホルモン(TSH)の受容体に対する抗体(TRAb)が出現し、甲状腺を持続的に刺激するため甲状腺ホルモンT3 とその前駆体T4が過剰産生される。治療の主力は抗甲状腺剤であり、開発されたのは約80年前である。その主な作用は甲状腺でのT3、T4の合成阻害であって血清T3、T4は低下する。しかし本剤は免疫系由来のTRAbさえも徐々に減衰させ、約半数の症例は緩解に至るが、今なおこの減衰の機序は明らかでない。ところで下垂体から分泌されるTSHはα鎖とβ鎖からなる2量体である。私達は両遺伝子発現の主要な転写因子であるGATA2がT3受容体(TR)と蛋白-蛋白相互作用しT3によって機能的に阻害される事、さらに視床下部から分泌される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)をコードする遺伝子にも同様の制御機序がある事を報告してきた。すなわちこのTR-GATA2相互作用がT3による視床下部-下垂体-甲状腺系のネガティブ-フィードバックの中心機構と考えられた。AITDも含め多くの自己免疫疾患では免疫寛容の破綻が推定される。免疫寛容の主力の1つは制御性T細胞(Treg)であり、その分化・機能は転写因子Foxp3が決定する。興味深い事にFoxp3遺伝子はそのconserved non-coding sequence (CNS)2によって制御されるが、このCNS2にはGATA応答配列(GATA-responsive element, GATA-RE)が存在する。甲状腺濾胞の近傍のTregは高濃度のT3に暴露されていると予想され、事実自己免疫疾患の中でもAITDの頻度は極めて高い。現在私達はFoxp3遺伝子発現に対するT3の効果を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
GATAファミリー転写因子は6つのサブタイプがあり、そのうちT細胞の分化決定因子であるGATA3がCNS2のGATA-REに結合し (Wohlfert et l. J Clin Invest. 2011 Nov;121(11):4503-15)、その転写を可能性するとされていた(Wang et al. Immunity. 2011 Sep 23;35(3):337-48)。また私達はTSHβ鎖遺伝子のGATA-REがGATA2のみならずGATA3でも活性化されることを見い出していた。そこで私達はこのCNS2のGATA-REをFoxp3プロモーターに融合してCATアッセイを試みた(通常用いられるルシフェラーゼアッセイはT3による人工的な負の調節の可能性があり持ちなかった)。その結果確かにGATA3による転写活性化は認められたが、非常に微弱であった。 実際、GATA3はCD8(+)Tregの発生をむしろ抑制するということが報告されている(Chakraborty, Sci Rep. 2017 May 9;7(1):1628.)。そしてTregにはGATA2も発現しているという報告があり(Gandhi et al. J Clin Invest. 2022 Feb 15;132(4):e153397)、試みにGATA2を用いたところGATA3の10倍程度の強い活性化とT3結合TRによる負の転写調節を確認した。このことは既報のGATA-REが機能的であることを示す結果ではあったが、Tregにおける真の活性化因子はGATA2であって、GATA3はむしろ抑制的に機能している可能性が浮上した。
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今後の研究の推進方策 |
現在、抗甲状腺剤であるプロピルチオウラシルをラットに投与し、甲状腺を臓器ごと摘出し(その中にはTregをはじめとする免疫細胞も含まれると考えられる)、Foxp3mRNAが増加するかどうか、また免疫組織学的な検討を計画している。また共同研究者の古橋らと協力してフローサイトメトリーで単離 (Nihashi et al. Allergol Int. 2024 S1323-8930(24)00012-1) したTregを用いてT3でFoxp3発現が減衰するか、GATA2mRNAが検出できるかといった検討を行いたい。また上述のレポーターアッセイをCV-1細胞やJurkat細胞で行い、GATA2とGATA3の効果の差異や相互の関係を評価したい。 なお、ヒトではすでに甲状腺機能亢進症で末梢血のTregが減衰することが報告されている(J Clin Endocrinol Metab. 2021)。さらに今回の検討中に高松らが行った23例のバセドウ病症例でFT4とTRAbの出現の前後関係を検討した報告の存在が判明した(日本甲状腺学会、2017年)。その23例のうちTRAbが先行したのは2例のみであり、残り14例はFreeT4がTRAbの出現より先行し、7例は同時に出現していた。この前後関係は一般の予想とは異なるものであったが、私達の「T3,によるTregの抑制が免疫寛容の破綻に先行する」という仮説から予想される事象であり、私達の基礎検討と合わせて解析を進めたいと考えている。
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