研究開始時の研究の概要 |
糖尿病状態で膵β細胞が慢性的に高血糖に曝されると、インスリン生合成や分泌はさらに低下し、血糖コントロールが悪化するという悪循環に陥る。この現象はブドウ糖毒性として臨床的にも広く知られている。申請者らはこれまで一貫してこのブドウ糖毒性の分子機構の研究に携わっており、インスリン遺伝子の転写因子(MafA, PDX-1)およびインクレチン受容体(GLP-1, GIP受容体)の発現低下が深く関与することを報告している。本検討の目的は、種々の小分子化合物ライブラリーを用いてこれらの発現を直接的に増加させる薬剤や因子を網羅的に検索して、ブドウ糖毒性の分子機構に基づく新規糖尿病治療薬の検索をすることである。
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研究実績の概要 |
2型糖尿病の2大特徴は、膵β細胞機能不全と肝臓、脂肪、骨格筋などのインスリン標的臓器におけるインスリン抵抗性である。2型糖尿病発症後、膵β細胞が慢性的に高血糖に曝されると、β細胞におけるインスリン生合成および分泌障害はさらに顕著化するという悪循環に陥る。この現象はブドウ糖毒性として臨床的にも広く知られている。申請者らはこれまでにこのブドウ糖毒性の分子機構に酸化ストレスおよびその下流のストレスシグナル経路の活性化が関連することを報告している(Kaneto H et al. Int J Mol Sci, 2020; Kaneto H et al. J Diabetes, 2016)。 また、申請者らは一貫してインスリン遺伝子の極めて重要な転写因子であるMafAおよびPDX-1に関する研究に携わっている。そうした中で申請者らは、ブドウ糖毒性による膵β細胞障害にはMafAおよびPDX-1の発現の低下が深く関与すること、またその分子メカニズムなどに関して論文報告している(Fushimi Y, Kaneto H et al. Scientific Rep, 2021; Obata A, Kaneto H et al. Diabetologia, 2019; Kimura T, Kaneto H et al. Diabetes Obes Metab, 2018; Kimura T, Kaneto H et al. Diabetes & Metab, 2018; Matsuoka T, Kaneto H et al. Diabetes, 2010)。さらに、2型糖尿病モデルマウスにおいて、Cre-loxPシステムを用いて、MafAやPDX-1の発現を保持すると、インスリンの生合成、グルコース応答性インスリン分泌が改善し、血糖コントロールも改善することを報告している(Kaneto H et al. Biomedicines, 2022; Matsuoka T, Kaneto H et al. J Biol Chem, 2015)。
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