研究課題/領域番号 |
22K08705
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55010:外科学一般および小児外科学関連
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研究機関 | 鹿児島大学 (2023) 藤田医科大学 (2022) |
研究代表者 |
戸田 洋子 鹿児島大学, 鹿児島大学病院, 医員 (90814301)
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研究分担者 |
新田 吉陽 鹿児島大学, 医歯学域鹿児島大学病院, 助教 (20725733)
関 直彦 千葉大学, 大学院医学研究院, 准教授 (50345013)
喜島 祐子 藤田医科大学, 医学部, 教授 (60381175)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | トリプルネガティブ乳癌 / 抗癌剤耐性 / ATAC sequence / マイクロRNA / 治療抵抗性 / スーパーエンハンサー |
研究開始時の研究の概要 |
TNBC患者の生命予後は、他のサブタイプの乳癌に比べて不良である。日常診療において、治療開始時には効果が得られた薬剤が、治療経過と共に効果を失い、癌細胞が治療抵抗性を獲得する事にしばしば遭遇する。 TNBC細胞が治療抵抗性を獲得する機序を、近年提唱されている強力な転写制御領域である「スーパーエンハンサー:SE」の形成によって抗癌剤耐性に関与する「マスター分子」を強力に発現していると考え、申請者が既に作成している「TNBC・機能性RNA発現プロファイル」と、抗癌剤暴露時に形成されるゲノム上のSE情報を統合する事で、抗癌剤耐性に関与する「マスター分子」や治療抵抗を解除する新規治療標的分子を探索する。
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研究実績の概要 |
乳癌全体の約15%を占めるトリプルネガティブ乳癌(TNBC)は、乳癌のサブタイプの1つであり、悪性度が高い。TNBCは、明確な治療標的が見つかっていないため、現在でも、化学療法(アンスラサイクリン系とタキサン系)が治療の主体である。しかしながら、TNBC細胞はこれら治療に対する抵抗性を獲得する。治療抵抗性獲得に関わる分子機序の解明は、TNBC細胞に対する新規治療戦略を考案するために不可欠な課題である。 ゲノム科学の新しい知見として、癌細胞が様々な治療に対して治療抵抗性を獲得する際には、ゲノム上で転写制御領域を変化させ、治療抵抗性に関わる遺伝子の発現を制御している事が明らかになってきた。ヒトゲノム上のヘテロクロマチン領域に存在する遺伝子は、転写が抑制された状態にある。それに対して、ユークロマチン領域に存在する遺伝子は転写が活発に行われている。ATAC(Assay for Transposase-Accessible Chromatin)sequenceは、ゲノムワイドにクロマチンの構造をマッピングする事ができる実験手法である。 本年度は、TNBC細胞株にパクリタキセル(PTX)を曝露し、ATAC-sequence により、癌細胞のゲノムに惹起されたクロマチンの変化を解析した。抗癌剤に曝露後、極初期(6時間後)に変動するクロマチン領域(open chromatin 168 領域/ close chromatin 28 領域)を明らかにした。更に、この領域に存在するマイクロRNAに着目し、癌細胞における機能解析を進めた。 マイクロRNAは、細胞内で遺伝子の発現を制御し、1種類のマイクロRNAは数百から数千の遺伝子発現に関与している。そのため、マイクロRNAの発現異常は、細胞内のRNAネットワークの破綻を引き起こす。マイクロRNAの発現異常からさらなる探索を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗癌剤をTNBC細胞株に曝露した後、初期に惹起されるゲノム上のクロマチンの変化をATAC-sequence により解析した。癌細胞のゲノム上で、遺伝子の転写活性が高い領域(open chromatin)、転写が抑制されている領域(close chromatin)を検出した。open chromatin 領域に存在する遺伝子は、抗癌剤耐性獲得に関与する遺伝子であり、close chromatin 領域に存在する遺伝子は、癌抑制機能を有する遺伝子であると仮定した。 これら領域には、短鎖1本鎖RNAであるマイクロRNAが多数存在していた。その中から、close chromatin 領域に存在するmiR-30c-1-3p および miR-30c-2-3pに着目し、TNBCにおける機能を調べた。マイクロRNAの特徴は、1種類のマイクロRNAが、数百から数千の蛋白コード遺伝子の発現を負に制御していることである。そのため、キーとなるマイクロRNAを起点として、マイクロRNAが制御する薬剤耐性に関わる機能性RNA分子ネットワークの探索が可能となると考える。 TNBC細胞にmiR-30c-1-3p および miR-30c-2-3pを核酸導入する事で、癌細胞の増殖能、遊走能、浸潤能が顕著に抑制された。この事から、これらマイクロRNAは、癌抑制機能を有していると判断し、更に、miR-30c-1-3p および miR-30c-2-3pが制御する癌促進型遺伝子の探索を行った。探索の結果、7種類の遺伝子(TRIP13、CCNB1、RAD51、PSPH、 CENPN、KPNA2、MXRA5)が、miR-30c-1-3p および miR-30c-2-3pが制御する癌促進型遺伝子である事が明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
(1) miR-30c-1-3p および miR-30c-2-3pが制御する7種類の遺伝子(TRIP13、CCNB1、RAD51、PSPH、 CENPN、KPNA2、MXRA5)について、TNBCにおける機能解析を継続する。 (2) 今回検出したopen/close chromatin領域に存在するマイクロRNAについて、以下の解析を予定している。 (2-1) 乳癌細胞株にマイクロRNAを核酸導入し、癌細胞の増殖能、遊走能、浸潤能について機能解析を行う。 (2-2) 機能が明らかとなったマイクロRNAについては、マイクロRNAが制御する機能性RNAネットワークの探索を行う。明らかとなったマイクロRNAの標的分子について、抗癌剤との併用効果を調べる。 (3) 他の抗癌剤(アンスラサイクリン系等)をTNBC細胞に曝露した後、ATAC-sequence によりopen/close chromatin領域を調べる。
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