研究課題/領域番号 |
22K08740
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55010:外科学一般および小児外科学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
高橋 麻衣子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (50348661)
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研究分担者 |
永山 愛子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (00573396)
塩谷 文章 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (10627665)
関 朋子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (70528900)
林田 哲 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (80327543)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 乳癌 / 遺伝性乳癌卵巣癌症候群 / 遺伝性乳がん卵巣がん症候群 / HBOC / BRCA / CRSPR-Cas9 |
研究開始時の研究の概要 |
狭義のHBOCはBRCA 1/2の生殖細胞系列の変異に起因するが、変異の場所と状態によってはVUSと判定されることがあり、これに対する臨床的な対応は定まっていない。個々のVUS変異がBRCA 1/2蛋白質の機能異常を生じるか否かを同定できれば、臨床応用可能な定性的診断マーカーとしての活用の道が開ける。我々はBRCA変異に伴う発癌プロセスにおいて、これまでに考えられてきた相同組み換え修復異常ではなく、DNA複製ストレス応答異常がゲノム不安定性獲得に深く関与するという独自の仮説を立てた。このメカニズム解明を通じて、BRCA遺伝子の病的変異を分子生物学的に判定する手法の確立を目的として研究を行う。
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研究実績の概要 |
狭義の遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)はBRCA 1/2の生殖細胞系列の変異に起因するが、変異の場所と状態によってはVariants of uncertain significance (VUS)と判定されることがあり、これに対する臨床的な対応は定まっていない。個々のVUS変異がBRCA 1/2蛋白質の機能異常を生じるか否か。また、この機能異常により得られる分子生物学的な現象を同定できれば、臨床応用可能な定性的診断マーカーとしての活用の道が開ける。 本研究における最初の目的は、ヒト正常乳腺上皮細胞HBOCモデルを作成し、Pathogenic 変異保持細胞の発病前(未病状態)におけるDNA修復異常の要因を明らかにすることである。この要因について、ゲノムDNA不安定性の要因としてDNA複製ストレスが近年注目を集めている。DNA複製ストレスとは、DNA複製中に様々な障害に直面し、その進行が妨げられること全般を指すが、細胞はこれに対してDNA複製ストレス応答(Replication Stress Response: RSR)により複製フォークを停止・修復することで、DNA複製を再開する。BRCA1/2遺伝子はこのRSRに深く関与することが報告されており、ゲノム不安定性の要因としてDNA複製ストレスにより生じる一本鎖DNA切断の頻度は非常に高い。これらの知見から、我々はBRCA変異に伴う発癌プロセスにおいて、これまでに考えられてきた相同組み換え修復異常ではなく、DNA複製ストレス応答異常がゲノム不安定性獲得に深く関与するという独自の仮説を立て、細胞増殖にともなって頻発するDNA複製ストレス応答異常を対象とし、BRCA遺伝子変異の病的変異を分子生物学的に判定する手法につながる基礎的知見を確立することを目的として想起された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでBRCA2に関する分子生物学的な機能解析には、siRNAを用いたノックダウン、またはCRISPR-Cas9(DNA二本鎖切断型)によるノックアウトが用いられており、これらの手法はBRCA2をタンパク質レベルで喪失させるため2 hitモデルの理解に貢献してきたが、この方法で1hitモデルの検討を行うことは非常に困難であった。この1 hit モデルのメカニズム解明を行うために、我々はBRCA2病的変異片アレル保因者モデルとしてCas9のD10A変異体(DNA一本鎖切断型)による塩基編集法を用いた1hit細胞の作成に挑戦し、すでにこれまで複数のpathogenicおよびVUS変異を持つ複数の細胞株を確立した。 具体的には、in vitroにおいて、正常細胞に対して塩基を入れ替えるBase-Editing法でゲノム編集を行い、BRCA2の片アレルの病的変異モデル細胞の開発を行った。すなわち、BRCA2変異の中から解析対象の病的変異を複数選択し、ヒト乳腺上皮細胞(MCF10A)およびRPE細胞株に選択したBRCA2変異を導入して1 hit細胞を作成した。これまでの実験から、Pathogenic変異株としてBRCA2c.7738C>T 1 hit RPE細胞株、VUS変異株として7871A>G 1 hit RPE細胞株およびMCF10A株, Benign control株として5744C>Tの1 hit RPE細胞株の樹立に成功している。2 hit細胞も並行して樹立し病的変異陽性コントロールとして解析する。今後はこれらを用いて1hit細胞におけるDNA修復・転写制御やDNA複製制御異常による蓄積するゲノム不安定性を検証し、がん発生のメカニズムを明らかにすることを行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではBRCA2病的変異1 hit細胞において、DNAファイバーアッセイを用いて定常状態(刺激なし)/DNA複製ストレス(内因性因子・ホルムアルデヒドなど)存在下でDNA複製フォークの進行速度を測定し、DNA複製動態を明らかにしてきた。またDNA複製に影響を与える要因としてBRCA2が結合するRNA polIIによる転写調節とそれに伴うR-loopの形成量に注目し、DNA複製にもたらす影響について解析する予定である。 すでに行われた前実験の結果からは、BRCA2変異導入細胞とparent細胞fork speedに差は認められなかった。この原因として我々はBRCA2変異細胞株においてDNA損傷時に損傷個所をスキップして複製を進行し、その後で修復を行う再プライミング機構に関与する因子に着目し、この因子をノックダウンしたところ、fork speedに有意な差が認められた。これら前実験の結果から、BRCA2変異陽性株では再プライミングDNA複製機構の働きにより、複製フォークにおけるsingle strand DNA gapの増加が生じ、ゲノム不安定性原因の一つになり得るという斬新な視点から今後の研究を進めていく方針である。
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