研究課題
基盤研究(C)
肝内胆管癌は切除以外の抜本的な治療法が少なく、悪性度が高く、肝内胆管癌に高い抗腫瘍効果を示す薬剤が求められている。本研究では肝内胆管癌において症例間だけでなく腫瘍内にも普遍的に存在するドライバー遺伝子を多層オミックス解析(ゲノム/転写産物/タンパク/代謝産物)にて同定し、分子標的薬剤を同定する。我々の所有する肝内胆管癌原発巣マルチサンプリングデータと研究協力者である九州工業大学 山西芳裕教授の所有する1000種類にも及ぶリポジショニング薬の癌株化細胞への投薬に伴う発現プロファイルデータを機械学習のアプローチにて比較検討し、最も高い抗腫瘍効果を示す化合物を同定し、作用機序を明らかとする。
肝内胆管癌10例各々の原発巣から3-9か所、非癌部組織1か所のWhole Exome Sequence(WES)、RNA Sequence(RNA Seq)、タンパク定量(代謝酵素)、メタボロームデータを有している。その結果、症例間で普遍的なゲノム変異や発現遺伝子は無いが、非癌部に比べて癌部における分子鎖アミノ酸(BCAA)の活性化を症例間普遍的に認めmTORを介した肝内胆管癌がんのドライバーであることを示した。BCAA蓄積には約40種類の酵素が関与しているが特にBCAA分解酵素を標的とする遺伝子BCAT1とBCAT2が腫瘍特異的に高発現を示した。リポジショニング・ドラッグのデータベースよりBCAT1を治療標的分子とする化合物候補をAI創薬のアプローチで選出し、最も高い抗腫瘍効果を示す化合物同定をめざした。ところがBCAT1を抑制するガバペンチンは既に特許のとられている化合物であり知財としての価値がない。「肝内胆管癌の治療標的と化合物の同定」という点において解析を継続する必要がある。急遽われわれは標的分子を最複数の症例間で共通に存在するドライバー遺伝子としてBCAT1と同様のアプローチで、癌抑制遺伝子BAP1に注目し、ICCの新たな治療薬としての化合物候補を5剤同定した。
2: おおむね順調に進展している
これまでの成果はBr J Cancer誌(IF=8.8)に論文報告することに成功した。つづいて、BAP1変異症例の遺伝子発現プロファイルに基づいて化合物を同定した。BAP1野生型ICC株化細胞に対しBAP1をknockdownすると増殖能が亢進した(proliferation assay)。TCGAではBAP1変異にてE2F4、FOXK1のmRNA発現が亢進していたが、BAP1 knockdown ICC株化細胞に適合化合物を投与することでFOXK1 mRNA発現が低下し(RT-qPCR)、細胞周期停止マーカーであるHistone H3 pSer10発現が薬剤濃度依存的に上昇した(Western Blotting)。Cell cycle assayでは化合物投与で細胞周期のG2からM期への進展が抑制されたことを明らかにした。
BAP1変異に注目したところ、BAP1 knockdownによりin vitroで変異型と同様の表現型(増殖能亢進)を示すことを確認した。また、BAP1変異によりFoxK1、E2F4のmRNA発現が亢進することを確認した。このような表現型を示した有望なリポジショニング薬5剤(buthionine-sulfoximine、AG-490、tretinoin、norethisterone、rottlerin)を選出した。肝内胆管癌cell lineに薬剤単独投与を行い、投与濃度を決定した。今後は、この5剤からさらに絞り、安全性、抗腫瘍効果を示すためにPhase Ibをめざし、薬事承認、企業への導出をめざす。
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