研究課題/領域番号 |
22K08987
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55040:呼吸器外科学関連
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
田中 文啓 産業医科大学, 医学部, 教授 (10283673)
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研究分担者 |
金山 雅俊 産業医科大学, 医学部, 助教 (20813257)
米田 和恵 兵庫医科大学, 医学部, 講師 (80724806)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 循環腫瘍細胞 / CTC chip / single cell / 次世代シーケンサー / 遺伝子変異解析 / 肺癌 / リキッドバイオプシー |
研究開始時の研究の概要 |
癌患者の血液中には癌病巣から遊離した腫瘍細胞(循環腫瘍細胞)が存在することが知られている。しかしながら微量に存在する腫瘍細胞の検出は容易ではなかったため、我々は高感度な循環腫瘍細胞検出システムを新たに開発した。本研究では本システムを用いて肺癌患者の血液中の循環腫瘍細胞を検出しその分子生物学的特徴を解析することにより、その臨床的意義を明らかにする。これにより採血という低侵襲な方法により、正確な肺癌の診断とより有効な個別化治療の実現が期待される。
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研究実績の概要 |
循環腫瘍細胞は原発巣から遊離した癌細胞が血管内へ浸潤し、血流に乗って遠隔転移を形成する原因そのものである。この循環腫瘍細胞の検出および分子生物学的特徴の解析は、癌の遠隔転移検出とその制御につながるため非常に重要である。 これまでに我々は、高感度CTC検出系の開発に取り組み、マクロ流路システム(CTCchip)を完成させた。この新開発CTC-chipは、CellSearchを超える高感度CTC検出システムであり、更に捕捉したCTCの分子生物学的解析が可能であることを特徴としている。このシステムを使用し、肺癌や悪性胸膜中皮腫において高効率にCTCを検出することが可能となり、捕捉したCTCがPCRベースで遺伝子変異の検出が可能であることを確認している。 我々は今回、このシステムを更に先に一歩進めるため、捕捉されたCTCを次世代シーケンサーを使用し、網羅的に変異解析が可能かどうかを検討した。本研究では、血液サンプルを使用し、血中に含まれるCTCを捕捉・変異解析可能な系を樹立するため、まずは細胞株を使用した基礎検討を行った。肺癌細胞株(PC9, H1975, H441)を使用し、CTC-chip上に捕捉された細胞を鏡視下にてマイクロマニュピレーターで単離した。その単離した細胞からDNAを抽出して、次世代シーケンサー(Ion PGM)にてtarget sequenceを試みた。本検討において、我々はCTC chip上での細胞の固定法を工夫した。如何にDNAにダメージを入れず、生細胞に近い状態で細胞が回収できるかを工夫することで、高精度にtarget sequenceできる方法を構築した。この方法により、検討に使用した肺癌細胞株(PC9, H1975, H441)の全てでsingle cellから50個の癌関連遺伝子を網羅的に変異解析することが可能であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回、CTC-chipに捕捉された細胞をsingle cellで遺伝子変異解析を行う方法を模索した。遺伝子変異解析には全ゲノム解析や全エクソン解析、target sequence等があるが、我々はtarget sequenceに絞って遺伝子変異解析を行った。これは、使用する次世代シーケンサー(Ion PGM)のスペックでは全ゲノム解析や全エクソン解析が不可能であることと、single cellだと鋳型DNAの量が少なすぎて、検討が難しいためである。そこで、多くの癌腫で変異が認められている50種類の癌関連遺伝子に絞ったtarget sequenceを行う方針とし、専用のキットを用いて検討を重ねた。検討の際に、同様にsingle cellの遺伝子変異解析を行った論文を参考にしたが、そのほとんどがsingle cellのDNAを全ゲノム増幅し、鋳型DNAの量を増やす方法がとられていた。しかし我々は幸運にも早い段階でその手法の限界を感じ、全ゲノム増幅をせずにsingle cellから直接target領域を増幅する方法へ方針転換できた。この一年間を振り返ると、この方針転換が大きなターニングポイントとなり、本検討が順調に進む要因になったと感じている。またsingle cellから直接target領域を増幅するうえで、サンプル側のDNAへのダメージを少なくするという発想に辿り着いたことも大きかった。このおかげで、サンプルの固定法を色々模索することができ、我々の考え得るなかでDNAへのダメージが最小限となる固定法を検討することが出来た。本検討の内容を要約すると、「鋳型DNAの量を増やす」のではなく、「鋳型DNAへの修飾を最小限にする」ことが、single cellを用いて高精度にtarget sequenceする方法であるということが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
本検討にて我々は、CTC chipで捕捉した細胞をsingle cellでtarget sequenceする方法を構築した。しかし、これはあくまで細胞株を使用した基礎検討の段階であり、未だ臨床検体を用いての試行は出来ていない。よってこれからは、臨床サンプルを使用し、捕捉した循環腫瘍細胞の遺伝子変異解析が可能かどうかを検討していく。本法を用いれば、肺癌におけるdriver mutationは問題なく検出できるはずなので、まずはEGFR/KRAS/Metなどの少数塩基対変異によるdriver mutationをもつ患者を対象に(使用している次世代シーケンサーでは融合遺伝子などの大きな変異は検出できないため)、循環腫瘍細胞をCTC chipで捕捉し、遺伝子変異解析が可能かどうかを検討する。そして何度か臨床サンプルにて試行を繰り返し、再現性をもって遺伝子変異解析が可能であることを確認する。 臨床サンプルでも遺伝子変異解析が問題なく遂行可能であることを確認した後、今度は既存のリキッドバイオプシーの技術と比べて、本法の有用性がどれぐらいあるかについて取り組む。具体的には、現在肺癌臨床分野において、EGFR遺伝子変異の検出に循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA: ctDNA)が利用されている。このctDNAと比較してCTCにおける遺伝子変異検出能力がどれぐらいであるかを比較検討行う。 さらに、EGFR変異陽性でかつEGFR阻害剤を投与する患者については、治療効果との相関を解析する。具体的にはEGFR遺伝子変異があり、かつ分子標的治療が始まった患者さんにおいて定期的に採血フォローを行う。そして採血中のCTCの遺伝子変異を追跡することで、治療抵抗性獲得を予想するような遺伝子変異の変化があるかどうかを検討する。
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