研究課題/領域番号 |
22K09076
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55050:麻酔科学関連
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
黒澤 伸 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (60272043)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 麻酔科学 / 免疫 / 血糖値 / 免疫学 |
研究開始時の研究の概要 |
2型糖尿病は糖尿病の9割以上を占め、患者数は世界的に増加傾向にある。心臓病手術患者や悪性腫瘍手術患者においても併存症として糖尿病をもつ患者が増加しており、長期予後改善の観点から、血糖値コントロールが術後予後の最も重要な規定因子の一つである免疫システムに与える影響を考慮しなければならない。この研究の概要は、糖濃度が幼若型および成熟型リンパ球の免疫能に与える影響、およびその影響に全身麻酔薬が如何なる修飾を与えるかを観察し、耐糖能異常を併存する手術患者における、術後長期予後改善を目標とする最適な麻酔法を理論的に提唱することにある。
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研究実績の概要 |
我が国の「糖尿病が強く疑われる人」の割合は男性19.7%、女性10.8%を占め(厚生労働省「国民健康・栄養調査」)、糖尿病有病者とその予備軍は1000万人を超えているとされ、令和1年国民健康基礎調査では糖尿病による通院者の割合は高血圧症についで2位である。また、2型糖尿病は糖尿病の9割以上を占め、患者数は世界的に増加傾向にある。さらに日本では国民の二人に一人が、がんなどの悪性疾患に罹患し、三人に一人が悪性疾患によって死亡する。がんなどの悪性疾患と糖尿病は現代の国民病ともいえる。今後も併存症として2型糖尿病を有する悪性疾患患者が手術療法を受ける傾向は続くと考えられ、悪性疾患患者の術後長期予後に関与する重要な因子である獲得免疫を担うリンパ球が周術期の耐糖能異常によって受ける効果または影響を解析する必要がある。そこで、まず血糖値がリンパ球のViabilityに与える影響を観察するために、細胞培養液RPMI1640の通常糖度200mg/dlにGlucoseを加え、糖度400mg/dlおよび600mg/dlの細胞培養液を作成し、Balb/cマウス(メス、7~10週齢)の胸腺細胞をそれぞれの糖度の細胞培養液で2時間培養し、その後、糖度200mg/dlの細胞培養液で4時間培養後に細胞のViabilityの増減を観察した。「結果」1)フローサイトメトリーによりAnnexin-V/7-AAD2重染色によりアポトーシス細胞の割合を確認したところ、Glucose濃度は胸腺細胞のアポトーシス誘導の増減に影響を与えなかった。2)1)と同様の培養系において、糖度による胸腺細胞のミトコンドリア膜電位の変化をJC-1色素により確認したところ、培養液糖度200mg/dlに比較し、糖度400mg/dlおよび600mg/dlではミトコンドリア膜電位が低下した胸腺細胞の割合が増加していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糖尿病を併存する悪性疾患手術患者の割合は増加傾向にあり、非糖尿病患者においても周術期は抗インスリン作用を有するホルモンが放出され、また炎症性サイトカインの作用により耐糖能異常が生じ、周術期2次性糖尿病という耐糖能異常が生じる。これらの糖尿病患者および非糖尿病患者における周術期高血糖状態は炎症反応を惹起し、自然免疫系を抑制するため、申請者は周術期耐糖能異常が術後長期予後に影響を与える可能性を示唆した(臨床麻酔 2019;40:965-973)。実験では、急性の血糖上昇は急激な血漿浸透圧上昇に細胞が適応できないため、免疫系細胞にとって毒性が強いと考えられることから、まず糖度が獲得免疫を担うリンパ球に与える影響を観察するために胸腺細胞のViabilityの変化を観察した。通常の培養液糖度200mg/dlで培養したところEarly apoptosisを示すAnnexin-V陽性/7-AAD陰性細胞は4.22±0.24(%)であったが、培養液糖度400mg/dlおよび600mg/dlで培養したところAnnexin-V陽性/7-AAD陰性細胞はそれぞれ3.97±0.39(%)、3.57±0.35(%)であり、糖度の違いでEarly apoptosis細胞の割合に差はなかった。さらに糖度の違いによって胸腺細胞のミトコンドリア膜電位が変化するかについて観察したところ、JC-1 aggregationの割合は、糖度200mg/dl:97.10±0.56(%)、糖度400mg/dl:89.56±0.75(%)、糖度600mg/dl:88.40± 0.92(%)と、高糖度によって減少し、JC-1 monomerの割合は、糖度200mg/dl:2.89±0.55(%)、糖度400mg/dl:10.43±0.75(%)、糖度600mg/dl:11.57±0.94(%)と、高糖度によって増加した。
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今後の研究の推進方策 |
1)令和4年度の実験では未熟なリンパ球、胸腺細胞を用いて、細胞培養液の糖度を通常の200mg/dl、および高糖度の400mg/dl、600mg/dlの培養液と、糖度を変化させて、高糖度が胸腺細胞のViabilityに影響を与えるかを観察し、高糖度は胸腺細胞にApoptosisを誘導するほどの強い毒性は与えないものの、ミトコンドリア膜電位を低下させ、胸腺細胞Viabilityにはなんらかの影響を与えることが示唆された。今後は、末梢のリンパ組織である脾臓リンパ球を用いて、細胞培養液の糖度上昇が脾臓リンパ球のViabilityに影響を与えるかについて、Annexin-Vと7-AADを用いた染色によりアポトーシス細胞の定量と定性を行い、アポトーシス誘導の多寡を確認する。また、糖度変化が脾臓細胞のミトコンドリア内膜電位に影響を与えるかを観察するためにJC-1(Lipophilic cationic probe)を用いてミトコンドリア内膜電位の増減を定量し、リンパ球のミトコンドリア内膜電位の経時的変化を検討する。 2)臨床ではがん化学療法終了後に一定期間をおいて手術になることから、上記1)の実験にて抗がん剤であるトポイソメラーゼII阻害剤のエトポシドによるリンパ球アポトーシス誘導の至適濃度と至適時間を決定後、より臨床に類似したin vitroでの実験培養系として、至適エトポシド濃度で2時間から4時間、胸腺細胞または脾臓細胞を刺激後、培養液からエトポシド除去し、その後さらに4時間から24時間、胸腺細胞または脾臓細胞を異なる糖度の細胞培養液で培養して、エトポシドの影響下にあるリンパ球が糖度の違いによって影響を受けるかについて、アポトーシス細胞の定量と定性及びミトコンドリア内膜電位の増減を定量により検討する。これにより、臨床の化学療法から手術療法へ至る経過に類似した、細胞培養系を確立する。
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