研究課題/領域番号 |
22K09103
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55050:麻酔科学関連
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
倉田 二郎 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (50349768)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 機能的磁気共鳴画像法 / 慢性痛 / 安静時機能的磁気共鳴画像法 / 拡散強調画像法 / 三次元高精細解剖画像法 / オフセット鎮痛 / 下行性疼痛修飾系 / 報酬系 / 中枢性感作 / 縦断的解析 / 脳バイオマーカー |
研究開始時の研究の概要 |
痛みが慢性的に続く時、脳の神経細胞や回路が「痛みを感じやすい」状態に変化しており、これを中枢性感作と呼びます。私たちは、そのメカニズムを解明するため、慢性痛患者を対象に、磁気共鳴画像法を使って脳の形態や機能の変化を捉え、痛みの様々な症状と関連付ける研究を行います。
具体的には、痛みによる脳の反応性、回路の繋がり方、大脳皮質の体積などの変化を調べます。更に、痛みの減少を実際より大きく感じる「オフセット鎮痛」に関わる脳活動を調べ、自ら痛みを抑える下行性疼痛修飾系や、痛みが減る喜びを担う報酬系の働きを評価します。
以上から、痛みを感じる脳と抑える脳のアンバランスが中枢性感作であるという仮説を検証します。
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研究実績の概要 |
本学3テスラMRIを痛み研究用に整備し、オフセット鎮痛を含む熱痛み刺激による機能的磁気共鳴画像法(fMRI)、安静時fMRI、拡散強調画像法、三次元高精細解剖画像法を含むマルチモーダルMRIを施行する環境を整えた。熱痛み刺激には他施設から貸与されたPATHWAY(Medoc社)を用い、前年度科研費で購入した同期装置(フィジオテック社)で熱刺激ーfMRIを完全同期するシステムを維持した。2023年度は、8名の慢性痛患者を対象に、オフセット鎮痛を含む心理物理試験とマルチモーダルMRIを施行した。個々の患者から得られた結果を患者本人にフィードバックする診療を並行して行った。
前施設で蓄積した25名の慢性痛患者および19名の健康被験者からのデータを対象に、心理物理指標と様々な脳画像解析結果を関連付ける解析を継続、以下の知見を得た。1) 慢性痛患者は痛み感覚減衰が遅く、痛み消失後に中側頭回と頭頂感覚連合野での賦活が持続し、これらが痛み破局化指数の反芻成分と関連する。健常者では前頭前皮質が残存脳活動を消去する。2) 慢性痛患者は半球間交連線維と皮質視床間白質の機能が減弱し、これらが情動・認知障害とオフセット鎮痛潜時と関連する。3) オフセット鎮痛刺激開始時には内側前頭前皮質および右側頭回が活動し、慢性痛患者はその活動が弱く、大脳皮質全般の活動低下に繋がる。1),2)の知見を2023年6月の日本麻酔科学会学術集会(神戸市)で発表し、それぞれ最優秀演題賞、優秀演題賞を獲得した。2)の知見はAneshtesia & Analgesia誌に掲載掲載決定した。現在1),3)の原著論文を作成中であり、2024年度中の出版を見込んでいる。
以上の知見から、新しい慢性痛脳内機構として、1)中側頭回での痛み残像発現、2)半球間抑制減弱、3)内側前頭前皮質による痛み抑制減弱、の3つが挙げられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までの課題の内容を引継ぎ、さらに発展させる形で研究を行っており、慢性痛患者を含む被験者のリクルートや心理物理試験およびマルチモーダルMRIを円滑に施行できる環境が整っている。痛み刺激完全同期による賦活fMRI、多角的な脳画像情報を同時に取得するマルチモーダルMRIという、世界的にも最先端の技術を蓄積し駆使している。研究代表者と大学院生・研究生4名による研究体制が確立し安定して運営されている。本年度は、3つの原著論文作成に取り組み、うち1つが国際英文学術誌への掲載が決定された。
また、懸案であった温熱痛み刺激装置PATHWAYの点検および修理が完了し、以前よりも安定した動作が確認されたため、さらに患者および健常者のリクルートを進め、データを蓄積できる体制が整っている。この費用は次年度に繰り越して支払う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、オフセット鎮痛を含む心理物理指標とマルチモーダルMRIを、慢性痛患者と健康被験者で施行し、さらに患者では治療後の変化を同定する縦断的研究をさらに活発に行う予定である。これにより、慢性痛の症状変化と脳画像変化との因果関係に対する洞察をより高い確度で行うことが可能となる。さらに、これらの情報から、「脳における痛みの感作とは何か」という、本研究課題の大きな命題に答える原著論文を3件出版する予定である。
また、慈恵大学で新しく獲得した心理物理および脳画像データが蓄積している。これらを用いて、慢性痛患者での脳活動および灰白質密度と、マインドフルネス指標との関連、さらに半球間および感覚皮質内部の機能的結合性と慢性痛との関連性を、新たに解析する試みを進めている。これまでの業績を総括し、痛みを修飾する機構として、従来の2つ(下行性疼痛修飾系と報酬系)に加えて痛み反芻抑制系、半球間抑制系という新しい痛み修飾系の概念を提唱し確立することを目指している。
一方、本研究を今後もさらに安定して推進するために、最新型のMRI対応熱痛み刺激装置とモニタリング装置を新しく購入し、装置を刷新する必要がある。そのために1,000万円程度の資金を必要とし、本研究課題による研究費に加えて別の大型研究費獲得を試みる。
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