研究課題/領域番号 |
22K09160
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55060:救急医学関連
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
朴 恩正 三重大学, 医学系研究科, 准教授 (20644587)
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研究分担者 |
川本 英嗣 三重大学, 医学部附属病院, 准教授 (20577415)
島岡 要 三重大学, 医学系研究科, 教授 (40281133)
赤間 悠一 三重大学, 医学系研究科, リサーチアソシエイト (40763313)
高娃 阿栄 三重大学, 医学系研究科, 助教 (50643805)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 敗血症 / 腸管上皮細胞 / マイクロRNA / バイオマーカー / 遺伝子発現制御 / 細胞外小胞 / 腸管上皮 / サイトカイン |
研究開始時の研究の概要 |
敗血症は感染症に起因する免疫系制御不全により誘導される全身性炎症と、多臓器障害を引き起こす。腸は敗血症の傷害を受ける主要臓器の1つであり、腸管上皮細胞は炎症反応の波及により活性化されると様々なサイトカイン等を分泌し敗血症病態を制御する。本研究では腸管上皮細胞由来エキソソームの敗血症病態における役割を解明することを目的とする。腸管上皮細胞由来エキソソームの敗血症病態修飾作用と遠隔臓器での作用の検証と敗血症予後が高齢者で悪いメカニズムの一端の解明を行う。敗血症による組織傷害の病態学的理解や腸管上皮エキソソームの新たな抗炎症の役割解明を通じて、新規炎症治療標的同定の基盤となる基礎的研究に貢献する。
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研究実績の概要 |
敗血症は外部の微生物やその副産物などに対して宿主免疫の対応失敗に起因し多臓器機能不全に至る死亡率の高い深刻な全身性炎症疾患である。敗血症は全身組織的炎症性症候群で、敗血症の時に炎症促進因子が腸管膜リンパを通して腸から全身に拡散され全身炎症反応がもっと悪化される。したがって、腸は多臓器機能不全症候群のモーターと呼ばれている。また、敗血症に随伴するダメージにより腸管上皮のバリア機能の不全が主要な病理学的結果であり生存率にも悪影響を与えると考えられる。敗血症において腸管上皮細胞は炎症促進性と炎症制御性の双方の重要な役割を果たしていることが知られており、この細胞の相反する免疫反応の土台となり得る複雑な遺伝子発現制御のメカニズムは十分に解明されていない。この問題解決のための科学的根拠を獲得するために、我々は慢性敗血症の動物モデルを用いて腸管上皮細胞のマイクロRNAプロファイルを分析した。敗血症により増加したシグネチャーマイクロRNA群の転写後修飾作用を通じて炎症に関わる複数の標的分子の遺伝子発現制御に伴い炎症促進性と抑制性の反応への誘導を示すネットワークを提示した。さらに、この敗血症モデルにおけるmiRNA-511-3pが腸管上皮細胞と血液の両サンプルで増加することが確認された。本研究結果は、敗血症により起こる炎症反応過剰と生体防御免疫反応過少という臓器特異的インバランスに焦点を当てた新規治療戦略のパラダイムシフトの必要性を示唆すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題でマウス盲腸スラリー(Cecal Slurry; CS)を腹腔内投与して作製した慢性敗血症のマウスモデルの生存率が、敗血症グループが約67%(18匹の中12匹生存)、コントロールグループが100%(10匹の中10匹生存)であった。CS投与後17日目に生存したマウスの小腸を摘出して腸管上皮細胞を分離した。敗血症とコントロールのグループの腸管上皮細胞からRNA抽出、ライブラリー作製、シーケンシングの実験手法を駆使して、スモールRNAの配列を決定した。敗血症モデルの腸管上皮細胞で検出されたmiRNAとmRNAの量的変化の測定に加えて、miRNet、miRBase、miRTarBaseのようなマイクロRNAのターゲット分子とのネットワークと下流の経路を分析ツールを使用することにより、下流のシグナルの伝達経路にFGFのような炎症促進性とWntのような炎症制御性のシグナル経路が共に関わっていることが明らかになった。さらに、敗血症マウスの腸管上皮細胞で増加したマイクロRNA群の中、miR-149-5p、miR-466q、miR-495、miR-511-3pなどが複数の標的分子の遺伝子発現の制御に関わり、敗血症における遺伝子発現制御ネットワークの構築に働くと考えられた。腸管上皮細胞は敗血症というストレスによりマイクロRNA発現プロファイルを変化させ、炎症促進性と炎症制御性の双方の反応が誘導出来るような新たなメカニズムを持つと考えられる。さらに、本研究課題の分担研究者の川本准教授から臨床サンプルを得て予備実験を行い、敗血症患者のグループから採取した血清でmiRNA-511-3pの発現レベルが増加したことを確認し、この予備実験の結果をもとにmiRNA-511-3pが、敗血症の診断用バイオマーカーの1つの候補になり得るという有意義な結果を出した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で確認された敗血症バイオマーカー候補の1つである、miR-511-3pのミミック(mimic)もしくは阻害用antagomir(antagonist)をヒト由来の腸管上皮細胞株の細胞内に導入する実験を行い、本研究で確認した分子マーカー群の発現パターンや遺伝子制御クロストークの結果の再現性を今後検討する。さらに、分子候補群を臨床サンプルを用いて分子マーカー発掘に利用することも今後の研究計画であり、この実験を進行させていくことで得られる結果は、敗血症治療の改善に向けての新たな基盤研究の構築に役立つと考えられる。また、敗血症モデルにおけるmiRNA-511-3pが腸管上皮細胞と血液の両サンプルで増加することが確認され、このマイクロRNAが診断バイオマーカーの候補として確認され、今後臨床試料の用いての追加実験を通してmiRNA-511-3pが診断バイオマーカーの候補として確認れた場合、このマイクロRNAのインヒビター処理により、過剰な免疫反応が治まるような結果を実験的に確認していく予定である。
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