研究課題
基盤研究(C)
FDG-PETでは統計解析画像作成と取り込み値測定、SEEGでは麻酔賦活下間欠期脳波、発作時脳波の広帯域分析という我々が従来研究した独自の手法を各SEEG電極に行うことで、皮質、皮質下のネットワークを解析する。側頭葉てんかんにおけるてんかん脳機能障害ネットワークと脳機能低下ネットワークの判別、疾患概念確立により側頭葉てんかんに対してネットワークという新たな概念で治療に取り組むことが可能になる。
今年度は、新たに2人の側頭葉てんかん患者にSEEGを施行し、計10名の側頭葉患者のdataを蓄積することができた。ただし発作波の伝播を確実に判定するために、手術の既往がある 2例のを除いて、薬剤抵抗性側頭葉てんかんに対しSEEGを施行した初回手術症例8例を対象に詳細な分析を施行した。年齢は24歳から49歳で3例に海馬硬化を認めた。発作起始の同定及び、伝播様式の確認には 1)視覚2)高周波律動(HFO) 3)緩電位変動(DC shift)を用いた。さらに発作伝播に数理学的解析を行うために既報のEpileptogenicity index(EI) 解析や、新たに導入したTigramiteによる因果性解析を加えた。HFO解析では発作起始、発作伝播が全ての症例で明確になったが、DC shiftによる解析は一部の症例でのみ有効であった。そのため HFO解析を中心として分析を行った。ビデオ脳波で記録された21発作を解析すると、患側海馬、扁桃体起始が6例 16発作で、4例8発作は同部位に限局していた。2発作で3秒以内に患側側頭葉へ伝播し、2発作で3秒以内に対側海馬、扁桃体起始へ伝播していた。外側側頭葉起始が2例5発作であった。全例1秒以内に患側島皮質に伝播し、4例で患側海馬、扁桃体に伝播していた。EIでは、発作起始部における先行したEI値の上昇が確認され、Tigramiteでは、発作起始部における特徴的なパターンと、その後の他電極への影響から伝播のパターンを類推することができ、数理学的解析を用いることで発作起始および伝播に関する客観的な手法を得られることが示唆された。今回の結果は、第82回日本脳神経外科学会総会および、第47回日本てんかん外科学会で報告した。
2: おおむね順調に進展している
SEEGを施行した側頭葉てんかん患者の伝播様式に関して島皮質が大きな役割も持つことが判明した。発作とその後の伝播が側頭葉内側に限局する発作、また内側から徐々に側頭葉外側や対側側頭葉内側に伝播する発作に関しては島皮質への伝播はみられなかった。一方で島皮質にすぐ伝播する発作では、側頭葉外則や対側側頭葉内側に速やかに伝播した。また側頭葉外側起始の発作では、速やかに島皮質に伝播し、さらに側頭葉内側や前頭葉眼窩面にも速やかに伝播した。島皮質起始の発作は確認できなかったが島皮質への伝播がその後の発作波の周囲への速やかな伝播に寄与していることが確認できた。また、今回の検討で、Epileptogenicity indexやTigramite解析などの数理学的解析がSEEGを用いた側頭葉てんかんの発作起始及び伝播を解析する上で有用である可能性が示された。主観的な解析に加え、客観的な解析を加えることで、より詳細な分析が可能であると考えらえる。
引き続き、新たな患者を増やし難知性側頭葉てんかん患者に対する術前 FDG-PETの測定とSEEGを用いた発作起始の同定及び、伝播様式の検討を続けていく予定である。さらに今年度に確立した視覚的な解析による発作伝播ネットワークの解析に加え、Tigramite解析によって得られた客観的なデータをどのように解釈するかについても検討する予定である。またSEEGの電極とMRI画像の重ね合わせに関してはすでに成功しているが、FDG-PET画像とMRI画像を重ね合わせることで低代謝域と発作伝播の関係を解明し、本研究の目的である側頭葉てんかんのてんかんネットワークと、脳機能低下ネットワークの関係、重要性について解明する予定である。
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