研究課題/領域番号 |
22K09307
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56020:整形外科学関連
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
菖蒲池 健夫 佐賀大学, 医学部, 助教 (70336113)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2026年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | バイオフィルム / MRSA / インプラント |
研究開始時の研究の概要 |
人工関節感染は通常の抗菌薬治療では効果が期待できず,人工関節の抜去および再置換が必要となる深刻な合併症である.人工関節感染が難治なのは,人工関節表面で起炎菌がバイオフィルムを形成することが大きな原因であるため,難治性を克服するにはバイオフィルムを阻害または分散させることが肝要である.本研究では,人工関節表面のバイオフィルムを低減させる作用を持つ「バイオフィルム制御薬」を探索し,その有用性をラットのインプラント感染モデルで評価して,人工関節感染の予防と治療に「バイオフィルム制御薬」を使用する新たな方法を提案する.
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研究実績の概要 |
人工関節感染はグラム陽性菌(黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌)やグラム陰性菌(緑膿菌など)が原因でおこるが,一般に難治である.難治性の原因は,人工関節表面で起炎菌がバイオフィルムを形成することにあるため,これを克服するにはバイオフィルムを制御することが肝要である.本研究ではガロイル化合物に着目し,その「細菌バイオフィルムを低減させる薬剤」としての効果を明らかにする.今年度はガロイル化合物の,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の初期付着に対する影響,誘導体のスクリーニング,グラム陰性菌に対するバイオフィルム抑制効果,ヒト細胞に対する毒性,について検討した.その結果,ガロイル化合物はMRSAの初期付着を抑制するのではなく,菌密度が上昇するにつれて付着力を減弱させることでバイオフィルム形成を抑制していると推測された.この際,ガロイル基が重要な役割を果たしていることがわかった.また,MRSAのバイオフィルム形成を抑制する薬剤濃度において,ガロイル化合物はヒト細胞に対する毒性を発現せず,生体内で安全に使用できることが示唆された.さらに,他のブドウ球菌(表皮ブドウ球菌やメチシリン感受性黄色ブドウ球菌)の場合と同様に,緑膿菌でもバイオフィルム形成は抑制されなかったことから,ガロイル化合物はMRSA特異的にバイオフィルム形成を阻害するものであることが改めて確認された.このことは,ガロイル化合物が阻害する,MRSAに特異的なバイオフィルム形成過程の存在を示唆しており,研究展開の緒となる可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施計画に従い,まず,グラム陰性菌に対するガロイル化合物の効果を緑膿菌をもちいて検討した.その結果,ガロイル化合物は緑膿菌の増殖やバイオフィルム形成にはほとんど影響を与えないことがわかった.また,動物細胞に対するガロイル化合物の毒性を検討したところ,MRSAのバイオフィルム形成を抑制する薬剤濃度では細胞増殖および生存に対する影響は軽微であった.次に,ガロイル化合物の誘導体がより効果的にMRSAバイオフィルム抑制作用をもつ可能性を考え,入手可能な誘導体をスクリーニングしたところ,ガロイル基に含まれる3つの水酸基がひとつでも欠けるとバイオフィルム抑制効果が見られなくなった.このことから,MRSAバイオフィルムの抑制には完全なガロイル基が必須であることがわかった.さらに,ガロイル化合物によるMRSAバイオフィルム抑制のメカニズムを探るため,菌の核酸に結合する蛍光物質を用いて培養後のウェル表面を蛍光顕微鏡で観察した.18時間培養した場合,薬剤無添加ではウェル全体におびただしい数の細菌が付着していたのに対し,薬剤をバイオフィルム抑制濃度で添加したウェルにはほとんど付着していなかった.エネルギー代謝活性を指標にして生菌数を測定した場合でも,薬剤添加ウェルの生菌数が添加しなかったウェルに比べて顕著に減少していることが確認された.一方,菌を播種して一時間後では,付着菌数に違いがなかった.以上の結果から,ガロイル化合物は,MRSAの初期付着は阻害しないが,菌密度が上昇するにつれてガロイル基部分のなんらかの作用で付着力を減弱させることでバイオフィルム形成を抑制していると推測された.ガロイル基部分に依存した付着力の減弱作用はMRSAに限定されたものであることから,ガロイル基と相互作用するMRSAに特異的な因子の存在が示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き実施計画に記載した研究を着実に進めていく.また,今回存在が示唆されたガロイル基と相互作用するMRSAの因子は,MRSAのバイオフィルム形成過程に重要な役割を果たしていると考えられる.そこで従来の研究計画に加えて,ガロイル化合物によるMRSAバイオフィルム抑制のメカニズムを探求しMRSAに特異的なバイオフィルム形成過程の実体を明らかにする.
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