研究実績の概要 |
超高齢社会を背景に、姿勢バランス不良を呈した患者が増加している。姿勢バランス不良は老化現象の一つで根本的には改善しないものと考えられていた。しかしながら、アセチルコリン作動系やモノアミン作動系での神経伝達物質の障害が起こると、筋緊張の異常をきたし姿勢制御異常を誘発する可能性がある。我々は、首下がりを呈した患者においてSNRI(serotonin noradrenaline reuptake inhibitor)の投与により、劇的に首さがりおよび姿勢バランスが改善した例を経験した(Funao H et al, Heliyon, 2020)。加齢、うつ、認知症、パーキンソン病などでは、セロトニン神経の活動低下やセロトニン遊離量減少を引き起こし、姿勢筋や抗重力筋の活性低下により前傾姿勢や首下がり症状を呈している可能性が考えられた。本研究では、姿勢バランス不良を呈した患者において、脳や脊髄内のneurotransmitterの不均衡が、姿勢制御異常に関与している可能性を明らかにするため、主に血中セロトニン、ノルアドレナリン量の計測を進めてきた。結果、セロトニンの低値およびノルアドレナリンの高値などのneurotransmitterの不均衡を確認し、学会報告を行った(2023年、第52回日本脊椎脊髄病学会学術集会)。また、頚髄症患者において三次元動作解析装置と床反力計を用いた振り返り動作による姿勢移動で、先行随伴性姿勢調節機能(anticipatory postural adjustment: APA)時間が健常人よりも有意に遅れていることを確認し、英文誌に報告した(Funao H et al, J Clin Med, 2023)。現在、ウエアラブルデバイスによる動揺性の解析やサーモグラフィーによる自律神経系の異常なども含め、姿勢制御異常の総合的な研究を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳や脊髄内のneurotransmitterの不均衡が姿勢制御異常に関与している可能性を明らかとするため、脊椎疾患に姿勢バランス不良を伴った患者において、血中のセロトニン、ノルアドレナリン量の計測を行った。姿勢バランス不良のない脊椎疾患患者(主に頚椎疾患)をコントロールとして比較検討した結果、我々の仮説通り姿勢バランス不良を伴った患者におけるneurotransmitterの不均衡、すなわちセロトニンの低値およびノルアドレナリンの高値などを確認し、学会報告を行った(2023年、第52回日本脊椎脊髄病学会学術集会)。今後は、この結果を国内外の学会に報告し、英文誌に投稿する予定である。三次元動作解析においては、首下がり症患者での歩行パターンが正常人と異なること、またリハビリテーション後に改善することなどを複数の論文(Suzuki A et al, J Clin Neurosci, 2021、Igawa T et al, Sci Rep, 2021、Igawa T et al, Medicina, 2022、Urata R et al, Medicina, 2023)を報告し、頚髄症患者においては、三次元動作解析と床反力計を用いた振り返り動作による姿勢移動で、先行随伴性姿勢調節が健常人よりも有意に遅れていることを英文誌に報告した(Funao H et al, J Clin Med, 2023)。また、先天性筋性斜頸患者の術後に局所のみならず全脊椎バランスが改善されていることを報告した(Funao H et al, J Clin Med, 2023)。この他、イヤホン型のウエアラブルデバイスによる動揺性の解析や、サーモグラフィーによる自律神経系の異常など、姿勢制御異常の総合的な研究を進めており、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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