研究課題/領域番号 |
22K09321
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56020:整形外科学関連
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター) |
研究代表者 |
大橋 暁 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), 外科系臨床研究室, 客員研究員 (20466767)
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研究分担者 |
福井 尚志 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), 外科系リウマチ研究室, 客員研究員 (10251258)
津野 宏隆 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), リウマチ性疾患研究部, 医長 (90792135)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 変形性膝関節症 / 痛み / 滑膜 / 変形性関節症 / 膝 |
研究開始時の研究の概要 |
近年の疫学研究によって、変形性関節症(以下、OA)では滑膜病変が痛みと進行に密接に関していることが示されている。しかし滑膜病変について痛みと進行のリンクを分子レベルで明らかにした研究は見当たらない。本研究は膝関節のOAにおいて滑膜病変がOAの進行、すなわち軟骨の変性を引き起こす機序と痛みを生じる機序を分子レベルで解明することを目的に研究を進める。本研究では解析はすべてヒトの検体を用いて行われる予定で、そのためヒトのOAの病態が直接的に明らかになるものと考えられる。
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研究実績の概要 |
OAの最大の愁訴は痛みである。しかし痛みはOAにおいて単に症状として重要であるだけではない。今までの疫学研究の結果から、痛みはOA進行の危険因子でもあること、すなわち痛みが強い関節ではOAが進行する可能性が高いことも知られている。 OAの痛みが生じる機序についてはなお不明な点も多いが、MRIを用いた疫学研究の結果から、膝OAの場合、軟骨下骨の病変と滑膜の変化が痛みに直接的に関連することが明らかになっている。このうち軟骨下骨の変化については一種の微小骨折がその本態であることからそれが痛みや進行と関連することも容易に理解されるのに対し、滑膜病変については痛みが生じる真のメカニズムは解明されていない。本研究の目的は、OA関節の滑膜において痛みが生じる分子生物学的なメカニズムを明らかにすることであった。 本研究では痛みとOAの進行、すなわち軟骨基質の変性消失とのリンクに着目した。関節リウマチでは滑膜がパンヌスを形成して直接に軟骨や骨組織を破壊することが知られている。しかしOAでは滑膜が直接軟骨に浸潤するような機序は知られていない。このことを考えれば、OAの滑膜病変と軟骨基質の変性消失を結び付ける因子は関節液中に存在する可能性が高い。本研究では滑膜病変と軟骨の変性消失を結び付ける関節液中の因子として、関節液中のMMP-1、3を指標とした。OA関節の関節液中には比較的多量のMMP-1, 3が存在する。MMP-1と3の関節液中の濃度は血漿中の濃度の10倍以上であり、かつ両者の濃度の間には強い正の相関がある。滑膜においてもMMP-1と3の遺伝子発現レベルの間には強い正の相関があることから、この2種のMMPは滑膜で産生されて関節液に遊離するものと考えられる。本研究ではこれらのMMPの滑膜における遺伝子発現と滑膜性疼痛のリンクを調べることから検討を始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究初年度の2022年度は、年度前半に人工関節置換が行われた末期の膝OAの症例において術直前に滑膜性疼痛の有無を調べたうえで、手術時に滑膜組織を採取した。64例64関節から滑膜を採取した時点で収集を終了し、組織からRNAを抽出、cDNAを合成して定量PCRによる解析を行った。その結果、MMP-1、3の間には予想通り遺伝子発現レベルの強い正の相関が認められた。次いで行った解析から、OAにおける疼痛発現のkey moleculeと考えられているnerve growth factor (NGF)およびその受容体の一つtropomyosin receptor kinase A(TrkA)とMMP-1の発現レベルの間に弱いが正の相関が観察された。次いで様々な遺伝子について発現レベルの相関を調べる中で、血管内皮細胞に発現することが知られている9個の遺伝子、すなわちVEGFR-2、endothlin-1 (ET-1)、endothelin receptor type A (ETA)、tissue-type plasminogen activator、proteinase-activated receptor-1、α-smooth muscle actin(α-SMA)の発現レベルの間に相互に極めて強い正の相関関係があることが明らかになった。さらにこれらの遺伝子のうちオータコイドの一種で血管平滑筋の収縮を促すことで昇圧作用を示すことが知られているET-1およびその受容体であるETA、α-SMAの3遺伝子とNGF、TrkAの発現レベルの間に相互に比較的強い正の相関があることが確認された。この事実に基づいて既知の情報を探ったところ、ET-1はそれ自身が発痛因子となりうること、またα-SMAを発現する筋線維芽細胞においてET-1がNGFの発現を誘導しうることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究により、OAの滑膜では強力な発痛物質であるNGFとその受容体TrkAの発現が血管新生に伴って誘導されている可能性が示された。さらにNGF、TrkAの発現にET-1が関与している可能性も示された。2023年度はET-1、NGFと滑膜性疼痛の関連を調べるとともに、OAの滑膜病変において重要と考えられた血管新生について、それが生じる機序の解明を試みる。具体的にはまず組織採取前の滑膜性疼痛の有無とNGF、TrkAおよび上述の9遺伝子の発現レベルとの関連を検討する。それと並行して培養滑膜細胞を用いた実験を行い、ET-1が滑膜細胞において実際にNGFの発現を誘導するかを検討する。この実験ではTGF-βによって一次培養滑膜細胞から筋線維芽細胞を誘導し、それにET-1を添加してNGF、TrkAの発現亢進が起こるかを検討する。 一方、OA滑膜における血管新生の機序については、OA軟骨から遊離する血管新生誘導因子の関与の可能性について検討する。代表者が所属する研究室では、OA軟骨からは荷重によって血管新生作用のあるVEGF-A、aFGF、bFGFおよび活性型のTGF-βが遊離することを見出している。OA滑膜における血管新生はこれらの因子が作用する結果なのかもしれず、その可能性をHUVECを用いた実験を行って検証する。最近のOAの病態に関する総説ではOA関節における血管新生は炎症によるものとされるが、滑膜において上述の9遺伝子とIL-1β、TNF-α、IL-6やその受容体との間には発現レベルの相関関係は全く見られず、滑膜において血管新生が炎症以外の機序により誘導されている可能性も考えられる。これが上述の軟骨から遊離する因子に着目する理由である。本検討によってOA滑膜における血管新生について、新しい機序が見いだされることも期待される。
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