研究課題/領域番号 |
22K09407
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56020:整形外科学関連
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
星 学 大阪公立大学, 大学院医学研究科, 客員准教授 (50445037)
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研究分担者 |
大戎 直人 大阪公立大学, 大学院医学研究科, 病院講師 (50754743)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 悪性骨軟部腫瘍 / エタノール補助療法 / 抗腫瘍効果 / 組織毒性 / 切除縁 / 悪性軟部腫瘍 / 手術療法 / アルコール / 神経 / 有害事象 |
研究開始時の研究の概要 |
悪性腫瘍が主要な神経・血管などの組織に近接している症例では、術後の患肢の機能温存を目的として、切除縁を縮小した上で、エタノール処理を補助療法として行うことがある。しかしながら、エタノール補助療法は骨軟部腫瘍領域での有用性は詳細には検討されてはいない。本研究の概要はエタノール補助療法の悪性骨軟部腫瘍に対する抗腫瘍効果、及び、局所の健常組織に対する毒性を検証することである。
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研究実績の概要 |
悪性骨軟部腫瘍の手術療法では、腫瘍、及び腫瘍反応層の外で切除を行う広範切除縁での腫瘍切除を行うことが必要である。悪性骨軟部腫瘍において、切除縁と再発率は密接に関連している。組織学的に高悪性度であれば2cm相当の健常組織をつけて切除すれば、再発率は7-13%であり、低悪性度では1cm相当の健常組織をつければ再発率は10%程度とされている。しかしながら悪性軟部腫瘍の頻度は非常に稀ではあるが、身体のいずれの部位にも発する可能性がある。主要な神経・血管などの組織に近接している症例では、切断術を含めた患肢機能を犠牲にする手術方法を選択することが多いが、実臨床では術後の患肢の機能温存を目的として、腫瘍の組織に接する部分の切除縁を縮小せざるを得ない症例も少なくない。この際、可能な限り腫瘍再発を予防する目的で、腫瘍切除の直後に潜在的に残存している可能性のある腫瘍細胞に対してエタノール処理を補助療法として行うことがある。エタノール補助療法は比較的安価な、組織毒性も少なく、簡便な手技であると考えられていることから、多くの施設で骨軟部腫瘍切除後に導入されている。しかしながら、腫瘍切除後のエタノール補助療法に関して骨軟部腫瘍領域での有用性及びその有害事象に関しては十分なエビデンスはなく、骨軟部腫瘍専門医による経験的なものであるという側面もある。 本研究の目的は、エタノール補助療法の悪性骨軟部腫瘍に対する抗腫瘍効果、及び、局所の健常組織に対す組織毒性を検証することである。具体的には臨床応用を行うために、In vivoとIn vitroの両面でエタノール濃度の至適濃度の検証を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はNude miceを用いてのIn vivo実験で、滑膜肉腫細胞株の腫瘍切除後のエタノール補助療法としての抗腫瘍効果の検討を行った。方法:前年度のIn vitro実験の結果から、30%のエタノール濃度でもそれ以上の濃度と同等の抗腫瘍効果を示すことが予測された。In vivo実験では、滑膜肉腫細胞株を4週齢のNude miceの坐骨神経直上の皮下に埋植した。腫瘍が生着し、腫瘍のサイズが1cmを超えた段階で以下の手術を施行した。腫瘍直上皮切を加えて、皮下・筋膜組織を切開し、坐骨神経に近接した腫瘍にアプローチを行った。腫瘍辺縁切除を行った後、以下の3群にわけて補助療法を行った。Group1は腫瘍の単独切除群。Group2 は腫瘍切除後にエタノール30%濃度をガーゼし浸透させ、切除後に術野の処理を行った。Group3は腫瘍切除後にエタノール99.5%濃度をガーゼに浸透させ、術野のエタノール処理を施行した。尚、各群15匹のNude miceを用い、エタノール曝露時間はすべて5分で統一している。評価項目:局所再発率を、手術後8週後まで観察した。生存曲線の評価にはKaplan-Meier survival curveを用いた。結果:Group1の再発率は66.6%(10/15匹)であり、Group2の再発率は20%(3/15匹)、Group3の再発率も20%(3/15匹)であった。Group1とGroup2.3の間には統計学的有意差を認めていた。結論:Nude miceを用いたIn vivo実験では、滑膜肉腫細胞株に対して、エタノール濃度30%でも、99.5%と同様の抗腫瘍腫瘍効果を認めることが判明した。この結果からエタノール濃度30%はそれ以上のエタノール濃度においてIn vivo, In vitroともに抗腫瘍効果は99.5%と同等であることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度と本年度の実験から、滑膜肉腫株に対してエタノール濃度が30%濃度以上であれば99.5%濃度と同様の抗腫瘍効果があることが、昨年度のIn vitroと本年度のIn vivoの実験で判明した。エタノールの作用機序として、脱水作用と強力な蛋白凝固変性がある。エタノールは甲状腺嚢胞に対するエタノール注入療法では、周囲の正常組織へエタノールが漏出することによって壊死が起こるなどの有害事象が報告されている。エタノールが抗腫瘍効果を示すことは判明したが、正常組織に対しても毒性を示す可能性がある。そのため、今後の研究の計画としてエタノール局所の有害事象に注目する予定である。 従来、高濃度のエタノールは神経破壊物質として用いられてきた。エタノールの神経破壊が起こる濃度は50-100%と報告されており、末梢神経は脱髄性変化とWaller変性を引き起こし、非選択的に神経を破壊がおきることが報告されている。ラットの眼窩下神経に高濃度のエタノールを10分間接触曝露された1ヶ月後の組織では、70%、99.5%ともに軸索径は縮小し、ミエリン鞘も菲薄化することが判っている。悪性骨軟部腫瘍の手術治療の実践では、エタノールを使用したIn Situ preparation法が施行された257症例において、知覚障害は13例、運動麻痺は5例、血管損傷3例、術後血管狭窄・閉塞は3例、出血1例、病的骨折7例、感染3例と報告されている。このことから、神経障害はエタノール処理においての最大の有害事象である。 次年度は、エタノールの坐骨神経に対する有毒性を検討する。エタノールを曝露させた神経の形態学的評価(トルイジンブルー染色と透過電子顕微鏡など)と同時に、機能評価のために神経伝導速度の計測やFoot print testなどを行う。抗腫瘍効果を維持したまま、更に神経への毒性が低減できるエタノールの至適濃度を検討する。
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